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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第四章:彼女、カノジョ、そろい踏み

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59.さよりさんはライバルの増産体制が整ったようです。


「ちっ……」

「さよちゃん、舌打ちはやめた方がいいんじゃないかな?」

「あら? そう聞こえたかしら? 心配しなくても舌打ちする相手は湊じゃなくてよ?」

「誰に?」

「さっきから湊の横でちょっかい出してるいけ好かない女に対してだわ。見せびらかすのはどうかと思うのだけれど、湊のことが好きなのかしら?」

「しず……そう、そういうことをするんだ。私じゃなくて、さよちゃんに見せている? 私にだったら消してあげるのに……」

 遅刻をしてきたホールの女子は、鮫浜のいとこでもある磯貝しずだった。バイト研修中で来られないと聞いていたその女子は、俺にすごく会いたいと言っていた。話には聞いていたが、プールで会った時はとてもじゃないが、そんな可愛い発言をしそうに見えなかった。まして鮫浜の油断を誘って、俺の部屋に不法侵入していた子だ。とてつもなく不穏な予感しかしない。そう思っていたら案の定、よりにもよってさよりたちが見ている前で、俺にちょっかいを出してきた。


「あたし、あんたの女になってもいいよ? 嬉しいだろ? なぁ?」

「いえいえ、結構です。というより、今は仕事中ですよ」

「あゆのことなら心配すんなよ。いとこってだけで、恋路には無関係なわけだしな」

「磯貝さんは俺に興味がおありで?」

「おい、あたしのことはしずって呼べっつってんだろ? 頭悪ぃのかよ」

「頭はよくありませんね。それで、しずは何しにここへ?」

「バイト」

 ごもっともな意見である。俺もそうだけど。というか、俺ってイケメンじゃないよね? 勘違いしちゃ駄目だよね? 何でこう、一癖もありつつワケありすぎる彼女たちに好かれるのでしょう。もっともしずの場合は、明らかに鮫浜を意識しての行動だろう。そもそも仕事中で、待機中のホールがこんなイチャイチャとか許されるのか? 何故上の人……岬先輩は何も言って来ないのだろうか。以前のファミレスは何の特徴も無かったが、至って普通のファミレスだったし、店長さんも厳しかったぞ。


「そういえば、もう一人のロリっ子は一緒ではないのです?」

「ほたるのことか? アイツはバイトしなくても金があるから。それに、アイツは面倒くさいし。つうか、何で敬語なんだ? タメだろ? タメで上等だぜ?」

 だって何となく姉御っぽいし。金が無いからバイト。これも正論である。それでも、磯貝しずもそこそこ階級高そうな女子なのではないだろうか。鮫浜のいとこという時点で何かしらの権力を持っていそうだ。


「おっ、注文だ。あたしが行って来る。あんた、そこで見てなよ」

「ワカッタ」

 そう言うとしずは予想通り、通常の注文をしたさよりたちの席へ向かっていく。暴れないよな? それはともかくとして、席に着くまでのさよりたちは、店に入って来るまでが長かった。そのことをさり気なく浅海に聞いてみたら、納得出来る答えが返って来た。


「随分と入って来るのに時間かかってたけど、どこか行ってた?」

「ううん、そうじゃないよ。揉めにもめたんだけど、席の割り当てってだけかな。舟渡をどこに座らせるかで揉めてた。鮫浜さんも池谷さんも拒否ってたからね。だから必然的に俺が彼女たちと一緒に座ることになったんだ。それで、彼は他の女子に囲まれる形で座ることになった。すごい不満そうにしてたけど、鮫浜さんに嫌われたくなかったのか、大人しくなってた」

「さ、さすが鮫浜だ。言葉を発さずとも気配で分からせたんだな」

「それよりさ、湊はいいの?」

「ん? 何が?」

「鮫浜さんを狙ってるみたいだけど、心配じゃないのかなって」

「鮫浜を心配? いや、必要ないだろ」

「あぁ、そっか。今は池谷さんに惹かれているんだね? それならそれでいいけど、俺は湊が心配だな」

 何だろうな、浅海の言い方は必ず何かが引っかかっている。鮫浜側の人間なのは分かるが、何でそこまでさよりを気に入らないんだろうな。鮫浜と池谷で何かの因縁でもあるとしか思えないぞ。


 そんな話を浅海としていたので、遅くなった原因は分かった。そして爽やかすぎるイケメンの舟渡は、羨ましすぎる女子の輪の中にいて、嘘の笑顔を振りまいていた。貝塚くんといい、浮間と言い……彼らの言葉を総合すると、やはり外面がいいだけのイケメンとしか思えなくなっていた。別にさよりに惹かれているということだけじゃなく、鮫浜ならその辺の男を相手にするように思えなかったからこそ、浅海にああ言ったまでであって、さよりうんぬんは意識しているわけじゃなかった。そして、そんなさよりたちの席へ注文を伺いに行ったしずに対して、さよりは舌打ちをしてしまったようだ。新たなライバルを増やすらしい。


「ちっ……」

「あ? お客様? その舌打ちは何でしょうか?」

「あら? 聞こえてしまったのかしら? 別にあなたに対してとは限らなかったのだけれど、何か心当たりでもあるのかしらね」

「ねーよ……ありませんけど、お客様こそ何かあるのでは?」

「あちらに立っているホールの彼に、無用なちょっかいを出す店員というのはどうなのかしら?」

「へぇ……? あんた、彼の彼女か?」

 ちょっと、さよりさん? 俺を見ながらしずに向かって舌打ちは大変危険ですよ? というか、それに対して鮫浜は楽しそうに微笑んでるし。浅海に至っては、他の女子たちと話をしているし勘弁してくれ。


「おっ? 何だ客同士のトラブルか? って、あの子かよ! しかも磯貝に絡まれたのかよ。俺が行くしかねえな」

「いや、絡んで来たのは池谷の――」

「リーダーはそこで待っててくれ! 俺があの子を助けてくる」

「マテ、行っては駄目だ。俺が行く」

「言っちゃなんだけど、リーダーじゃ磯貝に勝てそうにねえぞ? それにあの子は俺を見てるし、助けを求めてるっぽいんだよな」

 大いなる勘違いだそれは。さよりの視線は明らかに、俺だけに対して向けられている。まして、浮間のことは知らないんだから、それは無いだろう。あぁ、もう、どうにでもなろう。敵だらけになるだろうが行くしかないな。


「浮間、リーダー命令だ。ここで待機してろ。俺が行く」

「あ、あぁ。頼んだ」

 予想通りのことが起こった。それはいいのだが、鮫浜が見ている前でどうするべきなのだろうか。嘘でもさよりの彼氏だなんて言ったものなら、さよりもやばいし鮫浜ももっとやばい。何でこう、平和に仕事させてもらえないのだろうな。やはりさよりはライバル……いや、トラブルを生み出す美少女だったということか。

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