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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第四章:彼女、カノジョ、そろい踏み

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58.そのメニュー、俺いらなくないかな?


 最恐の美少女二人と、男の娘と究極イケメンが揃ってファミレスに行くとか、どんな拷問ですか。俺にとっては、学園の連中とは関係の無いバイトに戻れるってだけなのに。どうしてこうも上手くいかないのだろう。さよりと鮫浜はともかくとして、浅海と舟渡は、声をかけていなくても自然に付いてくるという女子たちと一緒に行くようだ。顔見知りがバイト先に客として来ることを俺は望んではいない。自分で呼んだのならともかく、どうして初日に来られるのでしょうか。公開処刑ですかそうですか。


「湊、場所は前と同じ所だろ?」

「あぁ、まぁな。てか、浅海はそのままの姿で行くのか?」

「だって、女の子たちいるし。それに、湊の姿を見るならこっちの方がいいしな。湊もこっちの方が好きだろ?」

「好きだな」

「へへっ、サンキュ」

 くっ、浅海め。言葉遣いは男っぽいのに、言うことがいちいちあざといぞ。それも俺だけに対して。惚れてはいけないが惚れてしまうじゃないか。


「不本意ながら、わたくしたちも浅海さんたちと行くことになるけれど、覚悟はよろしくて?」

「何の覚悟だよ」

「そ、そうではなくて、その……が、頑張ってね」

「お、おぉ」

 さよりがすっかり可愛くなった件。これには鮫浜も黙っていないはずだが……気にしてもいないのか、すぐに俺に声をかけてきた。


「……高洲君。君は誰のモノ?」

「えっ」

「誰のモノかは分かりきっていることだよ……あんな人間を紹介して、私から逃れられるとでも思っているなら、今度は容赦しない……」

「な、何のことでしょう。俺は何も鮫浜から逃げようだなんて思ってな――」

 刹那。彼女は俺の首元を掴んで、至近距離で囁いた。

「この口、胸、身体はキミのモノ。さよちゃんには無い……私があんな下衆な男に心惹かれるとでも思った? 思ったら大変なことになるよ? でも、しばらくは引いてあげる……さよちゃんにとっても、二人の敵が増えてしまうことだし。私はしばらくキミから離れてあげる。寂しくなったら、話しかけていいよ?」

「……わ、分かった」

 体育祭後からかもしれないが、さよりもそうだし鮫浜も俺に対して変わりすぎているぞ。さよりは本来の姿を見せるようになったし、鮫浜は恐ろしさの部分を少しずつ解放してきた感がある。首の痣にしてもそうだ。何で俺にそんな、そこまでなんだ。彼女でもなければ、彼氏にすらなっていないのに。


「高洲くん、あの子らとマジで仲がいいね。どっちかと付き合ってるのかい?」

「付き合ってないよ。仮にそうだとしたら、舟渡くんはどうするつもりです?」

「……奪う。や、違うな。叩きのめして俺だけのモノにするよ。高洲くんには悪いけどね」

 何だ、浮間と似たタイプじゃないか。爽やかな奴だから中身もかなりいい人かと思っていたが、外面だけか。それでも付き合っていないって言ったら、敵意を一瞬で消して爽やかすぎる笑顔を俺に見せたと思いきや、振り返って浅海の取り巻き女子たちの笑顔を全てかっさらってしまった。


「じゃあ、俺は裏口からなんで……みなさんは普通に入り口からどうぞ」

 まさかぞろぞろと付いて来るとは思わなかった。これが岬先輩の狙いか? そしたらとてもじゃないけど採算は取れないのではないだろうか。客の大半が学園生って、おかしくないか? 


 通用口から事務室へ向かうと、すでに自分以外のスタッフはキビキビと動いていて、その中の岬先輩は的確に指示を出していた。単なるイケメンスカウトではなかったのね。一見すると、別にイケメン限定というわけではなさそうで、それこそ厨房を見るとどこかから連れてきたプロっぽい人もいるし、女子のホールもいるじゃないか。それなのに、イケメン限定とか言い出すからてっきり、ホストカフェとかソッチ系かと思ったじゃないか。それなら今まで通りのやり方で出来そうだ。


「おっ、高洲くーん! おつ~」

「ど、ども」

「で、どう?」

「どう……とは?」

「客引き……じゃなくて、女子たちを沢山連れてくるんでしょ? ウワサになってたよ。それも二人の美少女も来るっていうじゃん。すごいね! その中にはイケメンもいるとか? その場でスカウトしようかな」

「い、いいんじゃないですかね(浅海も入れたら三人ですよ?)」

 メニューを見せてもらうと、何てことのない平凡なメニューだった。しかし、いわゆる裏メニューが存在しているらしく、それは東上学園生限定メニューということらしい。いや、これって……あり得んぞ。


「あの、岬先輩……これ、この裏メニューなんすけど、これに俺要ります?」

「もち! これこそが真のメニューだよ。これにはイケメンが必須なんだ~」

「だから、俺はそれには当てはまらないんじゃ?」

「ホールの接客ってさ、基本は一人じゃん? だけど、このメニューはイケメンとイケボが二人必要なんだよね。で、君がリーダーでサブが浮間君。まさにコラボメニューだね!」

「は? イケメンと俺とで注文を取りに行けと? それは俺には苦痛でしか無いですけど?」

「高洲君には武器があるでしょ? それを使うの。まぁまぁ、学園の子たちが来たらすぐに実践することになるんだし、その時は浮間君と上手く連携してね」

「浮間と?」

 思わず浮間の姿を探していたら、真横に立ってた。気配消してたとか、忍びの者なの? 名前がしのぶだけに! いや、つまらなくてすんません。


「そういうわけだから、リーダーよろ! 俺は言われたとおりに動くから遠慮なく指示してくれよな」

「俺は何をしろと?」

「岬先輩から台本渡されたか?」

「台本? いや、まだ……台本?」

 大事過ぎて2回も聞き返してしまったぞ。何なのマジで。


「そういや、舟渡と会ったんだってな?」

「まぁな。爽やかすぎる笑顔のイケメンだったけど」

「まっ、見た目は俺よりスゲーよな。中身は――」

 浮間が何か言おうとしたら、学園の連中が店にぞろぞろと入って来たようだ。その中には舟渡もいるし、浅海もいる。店内に入って来るのに時間がかかっていたようだが、俺と別れた後にどこかに寄り道でもしていたのだろうか。


「おお! あの子も来てんぞ。マジかよ。接客のし甲斐がありそうだ。高洲の為に来たのか?」

「誰が?」

「あのとびきりな美少女のことだよ。ほら、池谷さん!」

「どうだろうな。俺が呼んだわけじゃないし(鮫浜もだけど)」

「ん? あいつ何で客側の方にいるんだ?」

「あいつ?」

「舟渡だよ。あいつもここのバイトをやるって言ってたけど、初日にしてさぼりか?」

「へ、へぇ……」

「ってことは、あの子たち狙いか。相変わらず黒い野郎だな……」

「ほぅ……?」

 闇に惹かれた闇野郎か? そして浮間はさよりを狙っているのか。うーむむむ……何だか心が妙にざわつくな。何でだ。彼女じゃないけど、奪われたくないし仲良くもして欲しくない気がする。とにかく、裏メニューを注文されれば、俺の役目も分かることだろう。嫌な予感しかしないけど……。

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