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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第四章:彼女、カノジョ、そろい踏み

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56.美少女たちには見えない壁があるようです。


「あーとうとう放課後になっちまったー」

「いいことだろ。何をそんなにへこんでるんだよ?」

「お前のダチの舟渡がここに来ちまう……マジでどうしてくれる! 知らないぞ、どうなっても(主に俺が)」

「鮫浜のことだろ? 舟渡の奴は体育祭のアレを見てないからな~遠目らしいけど、一目で釘付けになったみたいだな。気持ちは分かるけど、高洲いるしな~」

「彼氏じゃないのにか?」

「そうじゃなくても、教室の中で深すぎるキスを交わす奴だろうが! 舟渡の奴、キレなきゃいいけどな……」

「爽やかすぎるイケメンだぞ? 怒れる人か?」

「あいつの本性は――」

 貝塚くんが何かを言う前に教室に誰か来たようだ。例のイケメンですね、分かります。


「高洲に手を振ってるぞ。誘導してやれ」

「あぁ、くそ……逃れられない運命かよ」

 ウチのクラスの自称美少女たちは途端に姿勢を良くして、おしとやかな乙女になっていた。普段からそうしていれば、モテそうなのにな。舟渡は爽やかな笑顔で女子たちに対応している。それでも顔も目も見られないと、どの口が言うのか。そして、鮫浜の座る席の横に立った。俺は控えめに舟渡くんの横に立っている。


「さめは――」

「……()()()()何かご用でしょうか?」

「えっ……? あ、はい。その、実はですね……僕の横に立っている彼が、鮫浜さんにお話があるそうなんです。彼の話を聞いてあげてくれませんか?」

 怖いぞ。呼ばれたことのないさん付けで、すぐに気づいちゃった俺も怖い。その証拠に他の女子も男子も固まって息をするのも緊張しているのが分かるぞ。俺の言葉遣いも思わず、部下が上司に話すような口調になってしまったよ?


「……どなたですか?」

 これは見えない壁だ。鮫浜のお家がどれくらいかは分からんが、実はかなりのお嬢様なんじゃなかろうか。普段の言葉もどれが素なのか分からないけど、すぐに彼向けの口調で話し出すなんて何かやばい気がする。


「こ、こんにちは。俺、D組の舟渡とうやって言います。俺、前から鮫浜さんのことが気になっていて、クラスが違うけど、もっとキミを知りたくて……だから、一緒に話をしてくれないかな?」

「……」

「いきなり教室に来てごめん。彼、高洲くんに頼み込んでここに来たんだ。キミを知りたいんだ」

 わざわざ俺に罪をかぶせんでもいいじゃないか! おのれ、舟渡。俺のせいにしよって!


「そうですか。高洲さんに連れられたんですね? 彼からは何と?」

「いや、名前しか聞いていないんだ。だからここから先のことは、俺が聞きたい。良かったらこれから、どこかで話をしてくれないかな。キミのことが気になりすぎて止まらないんだ」

 なるほど。イケメンはストレートに言っても臭いセリフにはならないのか。そして鮫浜の恐ろしさなんて、彼には見えないのだろう。


「ごめんなさい、私はこれからお友達と高洲さんのバイト先である、ファミレスを見に行くんです。ですので、舟渡さんとお話をする機会もお時間も作れないと思います」

「友達って女子ですか? それと彼のバイト先に? ファミレス……ファミレスか」

「女子です。ウワサをすれば、彼女がこちらへ来ましたので、彼女にも説得してみてはいかがですか?」

「そうするよ。鮫浜さんと彼女の邪魔にはならないし、したくないけど俺も一緒に行きたいんだ」

「……」

 無謀イケメンか。初対面で相席って、あんたそこまで惚れてんの?


「あらあら、随分とお騒がしいようですけれど、あゆに何か用があるのかしら? あなた、どなた?」

「D組の舟渡って言います。キミが鮫浜さんのお友達かな? これから高洲くんのバイト先に行くみたいだけど、良かったら俺も一緒に連れて行って欲しいんだ。俺は鮫浜さんと話がしたいんだ。だからキミには迷惑をかけないと約束するよ」

「何を言うかと思えば、あゆと話がしたいですって? そしてわたくしに迷惑はかけないから付いて行きたいとおっしゃるのね。分かっていないようですけれど、その行為が迷惑ですことよ? 見知らぬ人間と何故ご一緒しなければいけないのかしらね。今日はそこにいる、()()()()の晴れ姿を見るために行くというのに、どうして無関係の輩を連れて行く必要があるのかしらね」

 さよりもキレているようだ。俺をくん付けとか、あり得ん。なるほど、この二人に限っては爽やかすぎるイケメンも通用しないらしい。いきなり教室来て誘って、さらに一緒に付いて行こうとしてるからな。他の女子はよくても、この二人は駄目だ。そんなナンパのようなことはどんなに究極イケメンでも無理だろう。


「そ、そうだよね。急にこんなこと……だ、だけど、だったら一緒にとは言わない。俺も彼が働いているバイト先に行っていいかな? 君たちの邪魔はしないと約束する」

「あゆ、あなたはどうなのかしら?」

「それでいいです。舟渡さんの伝えたいことは、高洲さんに伝えてくださいませんか? いきなり二人でというのは、私には無理ですから。どうですか?」

「うん、そうだね。俺も焦りすぎたよ。確かに高洲くんに中間に入ってくれた方が良さそうだ。見た所、高洲くんには気を許しているようだし、それならそれでお願いするよ」

 見えない壁合戦じゃないか。さよりも鮫浜も、舟渡くんに対して壁を作りすぎてるぞ。爽やかな究極イケメンだぞ? ソレでもダメなのか。それなのに俺はいいとか、背中と声だけでイケメンに勝ってるのか?


「高洲くん、悪いけど俺もキミのバイト先にお邪魔するよ。そしてキミを通じて、鮫浜さんと親密になっていきたい。よろしく頼む。じゃあ、俺は戻るよ。ありがとう、高洲くん……くそが」

「え? あ、うん。じゃあまた」

 最後の方の呟きが聞こえなかったが、もしやこの男……?


「高洲さん、後で詳しくお話を聞かせてもらえますか?」

「高洲くん、わたくしも聞かせていただくわ」

「ハイ……かしこまりました」

 嘘だろ? こんな状態の厄介な美少女たちを接客することになるのかよ。ヤメテー。


「あはっ、湊、大変そうだね。俺も鮫浜さんたちと一緒に行くよ。いいよね、鮫浜さん」

「……ん、浅海ならいい」

「浅海さんもわたくしのお友達ですもの。いいですわよ」

「あっハイ……喜んで」

 美少女あゆと美少女さよりに、美少女浅海が仲間に加わったようだ。俺ではなく、鮫浜には強すぎる味方がいるみたいだ。改装オープンの初日に店を潰さないよな? あぁいやだいやだ……バイト行きたくないよ。

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