55.某イケメンは最恐美少女に興味があるらしい。
浅海以外のイケメンに知り合いというと、同じバイトに浮間がいるが、奴はどちらかというとワイルド系イケメン。いや、強引系か? その辺はまだよく分かっていない。しかし、今日初めて出会った舟渡は、爽やかすぎてかなりいいイケメンであることは間違いない。何もしなくてもモテそうだ。その証拠に、俺と廊下を歩いているだけなのに、男にも女にも人気者だ。
「とうやくんー! キャー!」だとか、「とうや、この前はマジで助かった! 今度も頼むよ」などと、人望ありすぎだろう。歩いているだけで何人も声をかけてきたし、見知らぬ女子たちは何故かもじもじしていた。最強のイケメンなのか? そんな御方が俺に何を話すのでしょう。
「高洲くん、何食べる? 奢るよ」
「え? それは悪いし、自分で……」
「俺が無理やり誘ってるからね。奢らせてくれないかな? 頼むよ」
「あ、ありがとう」
あれ……これって、惚れちゃっていいパターン? 爽やかな上にいい人なんて勝てる気がしない。何も挑まないけど。俺がガッチリした体型ってのもあるが、舟渡くんは線が全体的に細い。細いけど、筋肉は中々ありそうだ。隠れ肥満な俺に対して、隠れマッチョと見た。見る機会はなさそうだけど。
それにしても人気者すぎる。もうすぐ奢りの何かを手にして戻って来そうなのだが、彼は常に何人かの女子たちに呼び止められては、きちんと対応をしているじゃないか。長めの茶髪を風も無いのに横になびかせながら歩いているだけなのに、こんなに騒がれるとかどこかのモデルでもやっているのか? 舟渡くんが髪をかき上げただけで女子がその辺の壁に寄りかかってるんだが、恐ろしい技だ。男でも惚れそうな美形なイケメンがウチの学園にいようとは……。
「待たせたね、ごめん。これでいいかな?」
「あ、ども」
どうやら折り入っての話なのか、手にしながら話ができるサンドイッチを買ってきてくれた。おまけに飲み物も奢りだ。いい奴ダナー。本物すぎるぞ。一体こんな俺に何を相談するというのか。
「い、いただだだ、だきます」
「高洲くん、面白いな。俺に緊張なんてしなくていいよ。同じ男同士だろ?」
「あ、あぁ。ごめん……で、俺に話って?」
「その前に、紹介するのを忘れたらダメだよね。俺は1Dの舟渡とうや。君は高洲湊くん」
「その通りです」
「今から俺が言うことに笑わないでくれるって約束してくれないかな? 笑われたら、恥ずかしくてダッシュで逃げてしまうかもしれない。頼むよ」
「い、いいけど。笑わないよ」
「高洲くんのクラスって綺麗な子が多いけど、その子たちに彼氏の存在はあるのかな?」
「え? い、いや、俺は情報屋じゃないし、いるかどうかは分からない」
「その……すごく気になる子がいるんだ。だけどクラスが違うし合同授業とかでも、A組とD組は会うことが無いよね? だから絶対会えないし、接点も持てないんだ。だから高洲くんに頼みたいんだ」
究極のイケメンが俺に相談ってそれですか? 自分で声をかけたらその美少女はすぐに行くのではないだろうか。誰かは知らないけど。これが笑ってはいけないことか? 笑えないぞソレは。
「舟渡君ほどの男なら、自分で声をかけるだけで話が出来そうだけど?」
「――は、恥ずかしいんだ」
「今なんと?」
「お、俺は人気者だなんて言われてるけど、実際は恥ずかしがり屋でさ。まともに女子の顔も目も見ることが出来ないんだよ。まして、気になる子ならなおさらだよ。だからこそA組の君に頼みたくて……」
「は、恥ずかしがり屋なイケメンなのか? そ、それは……なんとまぁ」
A組の俺に、ねえ。一体誰だそれは。まさか、さよりか? それとも大穴で浅海か? それとも? 自分で声もかけられないなんてそれは確かに笑ってしまいそうになるが、俺たちの周りにいる女子たちにボコられそうだから笑わない。
「だ、誰に声をかければ?」
「名前は分からないんだ。だけど、特徴としては身長は低い方で髪はショート、これは貝塚から聞いてるけど、癒しの笑顔が男子を虜にしているだとか。その子の名前を知りたいんだ」
おぅふ……まさかの闇天使鮫浜じゃないか。やはり傍目にはそう見えるか。中身までは見えないしな。
「えと、鮫浜……鮫浜あゆだ」
「鮫浜あゆさんか。そっか、ありがとう! そ、それでもう一つ頼みがあるんだ……」
「そ、それは何でしょう?」
「俺一人だけでは無理なんだ。だから、高洲くんが一緒に付いて俺のことを紹介して欲しいんだよ。お願い出来るかな? あんな可愛い子に夢中になったのは初めてなんだ。癒しの笑顔を俺だけのモノにしたい」
なんて無謀なイケメンなんだ。まさかと思ったが、鮫浜の方だなんて。改めなくても、鮫浜は人気があるみたいだな。見た目もそうだし笑顔も癒されるしな。中身までは誰も見ることは出来ないが……しかも、俺が声添えをするとか、舟渡君は俺を処刑したいのか? そもそも声をかけてはいけないのに。どうすれば分かってくれるんだろうか。
「え、えっと、俺からも笑わないで聞いて欲しいんだけどいいかな?」
「あぁ、いいよ。何かな?」
「鮫浜は自分から話しかけない限り、話しかけては駄目な子なんだ。だから、悪いけどその相談には協力出来そうに無い――」
「ははっ、やはり面白いね高洲くんは。俺のように恥ずかしがり屋だとしても、鮫浜さんだって声をかけられたら、返事は返してくれるはずだよ。そんなことを言うなんて、君は面白いね。それとも、君も鮫浜さんのことを?」
「い、いや、違うけど……でも、マジですよ?」
「とにかく、放課後にお願いするよ。俺は鮫浜さんと付き合いたい。そうすることで他の女子にも騒がれなくなるだろうし、浮間にも差をつけることが出来そうだし……うぜぇし」
「え? 浮間が何て?」
「いや、何でもないよ。それじゃあ、放課後に高洲くんの教室に行くから追い返さないでくれよ? 俺は本当に恥ずかしいんだ。じゃあ、ゆっくり食べてていいよ。俺は先に戻るから。あー今から緊張する……」
「えっ、あ……」
恥ずかしがり屋さんなイケメンか。鮫浜が返事を返すかどうかが運命の分かれ道だな。そして俺は後でお仕置きをされるのは確実だろう。鮫浜の笑顔は壁ってことを他の野郎どもは知らないからな。笑顔を振り撒いとけば、野郎どもは鮫浜にはそれ以上近付かない。つまりそういうことなのだ。まさかと思うが彼の前で、キスとかして来ないよな? それが怖いし、全学園の女子も男子も敵になりそうで怖い。放課後来ないでくれ、頼む。




