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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第四章:彼女、カノジョ、そろい踏み

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54.某イケメンとの出会いと何かの予感


 朝の教室で鮫浜が高洲に近づき、ネクタイを緩めながら二人だけの空間を作り出すと女子は見向きもしないが、一部の男子は怒りを露わにする。その時、天使のような笑顔を周りの男子に振り撒いて、険悪な空気を一掃することが出来るのが鮫浜あゆ。ということが当たり前になっている。鮫浜の笑顔は、確かに俺とは無関係の男子たちにとっては癒しの笑顔であり、実際に癒されてそのままどこかへ旅立つ奴もいたくらいだ。どこに行ったかは不明だが、かつていた汐見君という男子がまさにその一例だ。きっと平和な学校へ転校していったに違いない。鮫浜と高洲は、クラスの一部男子を除いて公認のカップルと言われているとかなんとか。それを何気に広めているのは浅海だということも聞いている。浅海は俺と鮫浜がくっつくことを何故か望んでいるようだった。


「湊、おはよう」

「おはよ、浅海。何、なんか嬉しそうにしてるけど何かいいことでもあった?」

「仲がいいのはいいね! 鮫浜さんと進展してるっぽいじゃん」

「進展? どうかな。というか、浅海は何で鮫浜を応援してんの? さよりじゃなくて、最初から鮫浜に付いてるよな?」

「んー? 上手くいきそうだし、あんなに心を開いてるのは湊にだけだからね。池谷さんは全然そんな気を見せてないし、湊には見込みがない感じがするんだよ。それに鮫浜さんとは前から――いや、とにかく、湊も悪い気はしてなさそうだし、ネクタイ緩められて嬉しそうにしてたよ?」

 さよりは何だかんだで俺以外の奴には心を開いていない。それは友達になった浅海も同様だ。浅海はまだマシなのだが、他の女子は話すらしていない。いつもすましていて、自分以外の奴を見下している感じを見せているからなのだが、本性はただの甘々なわがまま娘なんだよな。それもこれも結局は、初日にサガン先生が特別扱いで紹介をしたからだと思う。さらに言うと、さよりは格段に美少女すぎる。それだけでも近寄りがたいのだろう。


「そりゃあ嬉しいってか、キツキツのネクタイを緩めてくれたら嬉しくもなる」

「あぁ、キツくしたのが池谷さんの方か。朝から出会ってるなんて、湊は池谷さんとも縁があるんだな」

「……まぁな」

 そりゃあ隣ですからね。なんてことは浅海にも言わないでいる。鮫浜を通じて知ることも出来そうだけど、家までは教えていないってことかな。俺も浅海の家までは知らないし、その辺は何となく寂しい。さよりへの評価はこんな感じなのに対して、鮫浜はたとえその笑顔に心が含まれていなくても、やはり男子にとっては癒しの笑顔を振ってくれる女子であり、声はかけられなくても可愛い女子であるのは間違いがない。この辺の差がクラスの中では確立していた。あれでさよりが、素の部分を少しでも出していければクラスの中でも孤立しないと思うのだが、彼女自身は俺と鮫浜以外は話をしなくても構わない姿勢を貫いているだけに、やはり俺はどうしても放っておけない気持ちが出てしまうのも事実だ。好きになりかけではあるが、彼女への答えを見つけるまでは彼氏にすらなれないまま、夫になりそうで怖い。


 授業は時間と共に過ぎ、この間は特に何も起こらなかった。起こってたら大変すぎるけど。昼が来る前の最後の休み時間、俺は貝塚君に声をかけられていた。貝塚君は同じクラスの中で、席が近いことから良く話すようになった男子の一人だ。


「高洲は彼女いねえの?」

「いない。常時募集中だけどな」

「そんなにイケボなのにか? 信じられねえ。あれ、でも? 鮫浜さんは?」

「誤解だ。仲はいいけど、付き合ってない」

「それなのにキスされてんのかよ! もしかしてそれ用?」

「は? 違う。そういうフレンドでもないぞ。ただまあ、趣味? が多分似ているからだと思うぞ。それで嬉しくて彼女なりのご褒美というか、癖というか……たぶんそれだ」

 鮫浜の趣味って何だろうか。思わず言い訳で趣味と紹介をしてしまったが、趣味は観察か? それも怖い意味で。鮫浜に対しては隙も油断もプライバシー保護も見込めない。どうやって? なんて聞いたら何かが終わりそうだから聞いていない。出会った当初は、そんなに怖い子には見えなかったのに。いや、話しかけなくていいって言ってた辺りから、何となくの予感はしていた。でもまさか、ここまでとは思わなかった。


「身長とか大きくないけど、何か色気あるよな。胸もあるし、なのに彼女じゃないって高洲が残念過ぎる」

「マテ、それを俺に言うなっての! 何か悔しくなるぞ。自分が今まで某彼女に言い続けてきた単語なだけに、それがそっくり跳ね返って来ている感がするじゃないか」

「ん? 某彼女? ってか、そういや伝言頼まれてたの忘れる所だった。高洲、昼は一人か?」

「基本は一人だな。たまに鮫浜か浅海と食べるくらいだけど、何か用があるのか?」

「俺のダチでイケメンの奴が、お前と昼を食いながら話をしたいらしいぞ。暇なら昼休みに、1-Dの教室に行ってみてくれ。舟渡ふなとって奴だから。お前が行けばすぐに気づく」

「何だ、浮間じゃないのか。舟渡? 知らないな。ってか、他クラスの奴はおろか、俺には親しく話せるダチが浅海しかいないからな」

「俺が候補になってやるよ?」

「だな。貝塚と蟹沢ならいいかもな。とりま、昼に行けばいいんだろ?」

「おう。よろー」

 ってことで、男……しかも見知らぬイケメンに会いに1Dの教室に来てみた。人見知りでもないが、やはり普段は自分のクラス以外に足を向けないだけに、近づきたくない気持ちでいっぱいだ。それなのに、俺が教室に近づいただけですぐに気づいたらしく、手を振られてしまった。それも、とびきり爽やかすぎる笑顔で。なにそれイケメンすぎるぞ。浅海以外で男に見惚れるとか、俺はソッチ側にも足を踏み入れてるのか。


「1Aの高洲くんだろ? 悪いな、呼び出しなんかして。ここじゃなんだしさ、学食カフェで話しながら食べないか?」

「あぁ、まぁいいけど。何で俺のことを?」

「もちろん、貝塚から聞いてるよ。それと、浮間からも」

「やはり浮間経由か。じゃあ、行くか」

「おっけ、行こうか」

 むぅ、何だか浮間よりもいい奴すぎるぞ。爽やかすぎて道行く女子が赤面してるじゃないか。これはイケボだろうが、背中だろうが太刀打ち出来そうにないな。さて、俺と何を話したいのやら。

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