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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第三章:彼女たちの変化

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47.池谷さよりはデレたいらしい 3

 

さよりがお茶を入れ直している間に妹の部屋に入るという行為は、自ら修羅場を作ろうとしている気がしてならない。しかもあんなにデレまくっているさよりを放置して、妹の部屋に侵入とか……デレから変化して初期化しないよな? それが一番怖い。それにしても姫ちゃんは黙ってても可愛い。さよりもそうなのだが、姉妹揃って元が良すぎるのだ。しかしお世辞にも出来ないが、お嬢様のお屋敷には見えないというのが何とも言えない。もちろん、俺の家よりは全然モノが違う。


「高洲、入れ」

「姫ちゃんは相変わらずだね」

「……気にするな」

 気にしまくりだ。部屋の中でどう変わるのか分からんが、何で俺相手だとそんななの? 姫ちゃんも素を見せてくれるのか? 「お兄ちゃんだーい好き!」なんて期待が込みあがって来るヨ? そしてドキドキしながら部屋に入ったはいいが、見事に殺風景すぎますよ? 目の前には座布団しか見当たらないよ?


「湊さん、そこに座ってください」

「ワカリマシタ」

「随分と久方振りになりますけど、お忙しかったのですか?」

「え、ええ。割と忙しいんですよ、ええ」

 えええ? 何かイメージと違った。俺の妹になりたいんです! じゃなかったの? それだったと仮定して、いつでもイエス! って答えられる万全の心構えを準備していたのに。姫ちゃんの話し方はまるで格式高すぎるお嬢様のようじゃないか。いや、姫ちゃんこそ本物のお嬢様だったりするのか?


「姫ちゃん、どうしてそんなご丁寧すぎるのかな? 何だかそれだと距離を感じてしまうよ」

「そうですか? ですけど、あなたの妻として言葉遣いは正しきものにしなければいけないと思っているのですけれど……ご不満ですか?」

「……妻? 姫ちゃんはまだ中学生でさよりの妹で、俺は姫ちゃんの夫!?」

「違うのですか? 夫だからこそ、わたしの部屋に入って来てくれたのですよね?」

「ふぉっ? マテ。結婚した覚えは無いのに夫? あんなことやそんなこともしていないのに、結婚だと?」

「あんなことまでしておいて、責任は取ってくれないのですか……」

 どんなことだろう。俺の知らぬ間に別の俺がすでに、姫ちゃんの何かを奪ってしまったのか? 実は俺には影武者がたくさんいて、関わりのある美少女にオイタをしまくりか? そんなわけあるかー!


「な、何をしちゃったのか聞いてもいい?」

「……口づけです」

「何だ、キスか」

 ナンダッテ? キスが結婚成立であんなことになるのか? そ、それじゃあすでにさよりとも結婚成立ってことになるんじゃないよな。キスなんぞで結婚なら世の中は大変ですよ?


「湊さん、わたしじゃイヤ……ですか?」

「い、いやじゃないけど、付き合ってもいないのにすでに結婚しちゃってたとか、それは泣けるよ」

「いいですよ、わたしの胸で泣いてください」

 そうか、この子も残念な常識をお持ちなのか。それとも池谷家のお嬢様はそういう教育でも受けてんのか。何だか一気に脱力感が襲ってきたな。妹だけど妹にはならなくて、すでに奥様になっていたのね。 


「本気にしちゃってるの? お兄様」

「へっ? い、今なんと?」

「湊お兄様」

 お兄ちゃんとは呼んでくれないみたいだが、これはこれでいい! そしてその上目遣いヤメテー。あぁ、何だ、からかわれていたんですね、分かりました。


「どこから?」

「最初からです。わたし、湊お兄様のことが好きなので反応が見たくて悪戯心が芽生えてしまいました。怒ってますか?」

「いや、怒るわけないよ。ところで出来ればお兄ちゃん……と呼んで欲しいなぁ」

「それはお兄様がさよりと籍を入れてからでいいですか?」

「どっちにしてもそっちなのね。というか、結婚することが確定とかなんかおかしいぞ。姫ちゃんは俺のことを好きかもしれないけど、さよりはどうなのか分からないし、そもそも付き合ってもいないからね?」

「ううん、さよりはお兄様のこと大好きですよ。だって、ほら、甘えの声で呼んでますよ? あんなさよりは初めてです。何をしてしまったんですか? 完全にさよりの心を砕いてます」

「何って……何もしてないけどなぁ」

 姫ちゃんの達観した心が読めん。そしてどこまで本気だったのか分からないな。それに女の子の部屋にしては殺風景すぎるし。


「この部屋は姫ちゃんの?」

「違います。母の部屋です。母が父に説教をするときに使う部屋なんです。だからここに湊さんを……」

「ううっ、ごめん。はっきりとした態度じゃなくてごめんね」

「ううん、それはいいんです。だけど、さよりとそうなるつもりなら……さらに全てを許してやって欲しいんです。彼女は何も知らなすぎるので」

「世間知らずってことならすでに知ってるよ」

「いえ、彼氏も出来たことないし、そもそも……あ、時間切れみたいです。湊お兄様、またお話をしてくださいね……クスッ」

 何だ? さよりがナンダッテ? 姫ちゃんは彼氏がいたことあるような言い方だったけど、さよりは何もかもが初めてって意味に聞こえたぞ。うーん、鮫浜といい姫ちゃんといい、秘密すぎるご近所なのか。というか、姫ちゃんの微笑みが何か意味深すぎて怖いんだが。鮫浜と同じ属性じゃないよな?


「み、湊はどこ? 湊ぉ……わたしを置いて行かないでよぉ」

 あーやべえ。まるで迷子のお子ちゃまじゃないか。なんて罪悪すぎるんだ。姫ちゃんが何を考えてるのかも分からないけど、さよりを姉として心配しているのは分かった気がする。姫ちゃんがしっかりしすぎているってのもあれだけど。俺のことをどこまで本気なのかも分からなかったな。家の中じゃそれを迂闊に出せない事情でもあるのか? さよりだけはそうじゃないようだけど。


「じゃ、じゃあ俺はさよりの所に行くよ。姫ちゃん、姫ちゃんは俺が好きなのかな?」

「好きですよ。でも今はまだ……さよりのように表現するのは控えます。見られているので……」

「えっ……」

「早くさよりの所へ行ってあげてください、お兄様」

「あ、うん」

 やはりどこかにカメラがあって、実は今の今まで母親が見ているとかか? だとしたら確かにあまり下手なこと出来ないけど、なにそれこわい。池谷家、お前もか。さよりだけが何も知らない残念な子か。


「さより、探したか?」

「湊~! どこに行っていたの? わたし、家じゅうを探したんだよ」

「俺も勝手に歩き回ってた。ごめん」

「ううん、いいの。湊が無事ならそれでいいの」

 何だこの子、これがあのさよりなの? いつも無駄にツンツンして時々、暴力女になっていたあのさよりなのか? もしや俺の声には、さより限定で恐ろしい特殊能力が付与されてんのか? さよりをデレさせる成分が含まれている……とか。オレスゲー。


「お茶も冷めてしまっただろうけど、またリビングルームに戻るよ。探させてごめんな」

「……湊、あの、あのね、わたしのお部屋に来て欲しいの。そこで湊と――」

「んん?」

「と、ととと、とにかくお部屋に来て」

「お、おお」

 さよりの部屋か。今度こそきちんとした女子っぽい部屋だといいんだけどな。それにしても、さよりの原型がすでに崩れすぎて、俺の中の残念な美少女がどこかへ行ってしまったぞ。この子、可愛すぎる。

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