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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第三章:彼女たちの変化

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44.大いなる闇から残念な光へ


「と、ところで、聞きたいことがあったんだけど……」

「……なに?」

「創立記念日のことなんだけど、あれって――」

「知らない」

 瞬殺だ。一刀両断とか、鮫浜は名のある武士なのか? なわけないけど。


「でも、二人きりで誰もいない学園内にいたよね? あれは俺に見せた夢か何か?」

「何でも知りたがり、だね。でも……それを知るにはまだ早い……もっと私を知ろうとするまでは、ね」

 なるほど、よく分からん。鮫浜のことをもっと知るには、心の中に他の誰かを入れておくなってことだろう。嫌いじゃないけど、好きかと言われるとそれはまだ何とも言えないわけである。結局のところ、優柔不断が非モテな俺を形成している。もっと知るには、鮫浜の本当の素を見られるようにならないとダメかもしれないってことらしい。


「今すぐじゃなくていい。けど、知り合ってまだ浅いわけだし、なんていうかあゆちゃんの時間をもっと俺にくれないかな? そしたら俺は、もっと知ることが出来る気がするんだよ」

「私の時間を湊くんに……?」

「お、おー」

「うん、いいよ? でも、時間切れ。続きはまた今度……」

「え?」

「さよちゃんが来てしまったから。だから、早く自分の部屋に移った方が身のため……だよ」

 それはつまり、窓から帰れと? 靴とかカバンとかぶん投げて自分の部屋へ帰れですね、分かりますとも。


「さよりが玄関に来ているって何で分かるんだ?」

「視えるから」

 なにその、オカルティックなやつは! シックスセンス的な奴でも備わってるのだろうか。まぁ、さすがにそれは無いだろうけど。きっと鮫浜の家には性能良すぎな監視カメラが至る所にあるに違いない。だから俺の行動も見えているんだろうな。と、思う方が怖くない。


「じゃ、じゃあ、俺は窓から帰るよ。自分の部屋に窓から帰るとは思わなかったけど」

「靴はすでにキミの部屋にあるからね?」

「い、いつの間に? あぁ、目隠しをされている時か。それはサンキュな」

「――え、あ……うん」

「何か変なことを言った?」

「もっと驚くかと思った。だからさよちゃんも湊くんに甘えるのかもしれない……」

「よく分かんないけど、あゆちゃんの部屋に入れて嬉しかったよ」

「……いつでも侵入して来ていいから」

「しねーし! あゆちゃんも不法侵入はやめてくれよ、マジで」

 不法侵入されても嫌がるどころかキツく注意すら出来ないわけで、来てくれるってことは少しは気を許しているってことでもあるだろうし、難しい問題だな。


「じゃあ、またな鮫浜」

「……ん」

 結局何も聞けなかった。仲良くなったようで全然そこにたどり着いたわけではなかったみたいだ。他に鮫浜のことを知ってそうな人といえば、彼女……いや彼しかいないだろうな。聞いて教えてくれるかというと、それは正直言って自信がない。いくらダチでもさすがにな。ただこうも言っていたのを俺は覚えている。自分が認めている女子ならオススメしたい、と。それはさよりではなく、鮫浜のことを言っていた。ということは、あの男の娘なら鮫浜のことを教えてくれるかもしれない。それか、転校してくる鮫浜のいとこと親しくなって、聞くという手段も残されてはいる。ただ今はまだ、聞ける段階じゃない気がする。今のところ、俺は池谷いけがや姉妹が気になっているのが正直なとこなわけで。


 鮫浜を好きになりかけたのに、どうしてその距離が離れてしまったんだろうな。そういう意味じゃ、気になって気になりすぎて、頭の中はいつも鮫浜のことしか考えられなくなっている。それでも彼女が望んでいる展開にはならないということなのかもしれない。俺は彼女が欲しいだけなのに……。


「湊ー! 開けて欲しいのだけれど?」

「てか、チャイムを押せっての! 何で玄関先で大声出すんだよ、あいつは」

 というか、玄関にさよりが来たのは鮫浜の家のことじゃなくて、俺の家のことか! や、やはり監視カメラが設置済みなのか……プライバシー問題はどうなっているのやら。考えてみればさよりが鮫浜の家に来れるわけが無いよな。ライバル視してるし、仲がいいかというとそうでもないし。そういや、ファミレスで鮫浜の家族を見たはずなのに、まるで思い出せないな。あの時はさよりにしか目に付かなかったというのもあるだろうが、どちらかというとさよりの親父さんくらいしか見えなかった気がする。どういうことなんだろうな。まぁ、親と会うとかってのは、必要ないことではあるけど。出てきても困らないのは、せいぜいさよりの親父さんくらいだろう。


「――で、何か用があるんだろ?」

「そ、そうね。立ち話も失礼なのだから、上がらせていただくわ」

「いや、待て。失礼なのはお前の方だ。失礼だと思ったら上がらなくていいぞ?」

「そ、そうもいかないわ。きっとあなたの部屋にはあゆがいるに決まっているもの。あなたの肌に触れるだけでは妊娠なんてしないでしょうけれど、部屋にいたらあなたのワイセツすぎる声でどうにかされるかもしれないわ」

「お前、俺に喧嘩売りに来たのか?」

「ち、違うわ……とにかく、動かぬ証拠を押さえて突き出してあげるんだから」

「どこにだよ」

「ひ、姫に……」

「はぁ? 何で姫ちゃんが出てくる」

「姫の夫になるのでしょう? 浮気の証拠を教えてあげなければいけないの。姉として……」

 なるほどな。早く部屋に移った方が身のためってこういう意味か。ってことは、俺の部屋でも鮫浜の部屋でも、部屋の中では迂闊なことは出来ないって意味でもあるな。サヨリの奴は空気は読めないけど、野性的な勘でも備わっているのかもしれない。嫉妬深すぎるさよりの相手でもするしかないか。

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