39.イケメン対抗リレーに俺が出ていいわけが……あった件。
「――というわけで、ウチのクラスのイケメン代表は高洲だ。みんな、拍手!」
拍手喝采。そんなことが起こるわけが無い。誰がどう見ても本物のイケメンは、浅海一択だろうと思っていた。
残念ながら浅海は、学園内において真の姿に戻る気は無いらしい。イケメン対抗リレーの参加条件は男の姿として参加しなければならないからだった。
そして俺に白羽の矢が立ったのは、参加条件は顔のみにあらずであったこと。要はイケメン要素があればほぼ誰でもいいという適当な競技だったことにある。
「高洲君なら私が認めてる」とか「湊の背中はわたくしが推して差し上げるわ」などと、約二名の本物美少女が拍手ではなく、手を挙げてしまった。
そして肝心の浅海が俺をかなり推薦したこともあり、イケボとイケ背中である非イケメンな俺が代表になった。
対抗リレーは普通は走るだけのはずなのに、イケメンが主題になっているというから、激しく嫌な予感しかしない。それを知っているのか、浅海が俺に耳打ちをしてきた。
「湊なら大丈夫。俺がいるからね! たとえ、鮫浜さんと池谷さんに拒否られても、俺が湊を助けるよ」
「お、おー。何が?」
「うん、スタートすれば分かるよ」
「わ、分かった」
ハッキリと答えを教えてくれない所も浅海らしい。察するに、女子の協力が必要不可欠なリレーってことなんだろう。だとすれば、俺に協力してくれそうな女子はさよりか鮫浜しかいない。
だが、素直じゃない二人が俺に協力してくれる可能性はほぼ無いとみていい。だからこその浅海頼みなのかもしれない。
浅海が出れば非協力的な女子なんていないはずなのに、それなのに男の姿には戻らないというのだから困りものだ。
なんだかんだでようやく体育祭本番日になった。
「社畜の親父さんに感謝しとけよ? さより」
「社畜ではないわ! お父様はそこそこ偉い立場なの。湊ごときに心配されるほど、落ちぶれてはいないのよ」
「お? 社畜の意味を理解したんだな? 前は何の動物かしらなんて言ってたものな」
「な、何のことかしらね」
「それよりお前、何で俺を推したんだ?」
「あら? あなたには背中と卑猥な声があるじゃない? その二つで十分な要素が備わっていると思うのだけれど。も、もちろん、それだけでは……」
「イケメン、ただし背中に限る、か。背筋しすぎたかもな……それ以外に何だ?」
「空耳よ! と、とにかく、リレーの時間になったら心の中で応援してあげるわ」
「だろうな。さよりは恥ずかしがり屋だしな。それならせめて手を振るくらいはしてもいいんだぞ?」
「背中に気づいたら振ってあげるわ」
やはり背中フェチは揺るがない。しかし声に関しては俺の声を聞き慣れたせいか、さすがにあまり卑猥だとか何とか言わなくなってるし、どういう心境の変化だ?
意識はしないようにしているが、美少女が俺の目の前にいるのは紛れもない事実だ。
性格とアレとあれはともかくとしても、嫌われてないってのはいいことだと考えるべきだな。
「高洲君以外の他の男子が脱落するように応援してあげる」
「何をするつもりだ? 鮫浜は何かの術でも得ているんじゃ?」
「そんなのない」
「でもな」
「心配なんていらない。いらないから。だって、キミは私が認めた。認めたよ?」
「お、おう。鮫浜に認められたのか(何かは聞くまい)」
「でも私は見守るだけ。救えないから、助けを求めるなら浅海にして」
「へ? そ、そうなんだ。元からそのつもりだけど。鮫浜が見てくれるだけでも心強いよ」
「……ん、ありがと」
イベント行事的な時はいつもに比べて闇が少ない鮫浜。彼女のことを分かっているようであまり分かっていない俺だが、そのことはとりあえずリレーが終わってからにしとく。今はリレーに集中だ。
この学園は圧倒的に女子が多く、女子たちによって支えられている。それもあって、こんな非モテな俺にとっては理不尽すぎる対抗リレーも、一つの競技として成り立っているというわけである。
そこに俺が代表とかマジですか? その辺の基準が曖昧過ぎるおかげで、イケメン代表に選ばれたと言っても嬉しくない。
スタート地点に行くとさらに現実を思い知る。俺だけが場違い感を出しているのだ。俺以外ほぼイケメン勢揃いで、むしろこんなにいたんだな感が半端ない。
彼らは男の俺から見ても整いすぎている。
「はぁ……何で俺かな」
「おっ! リーダー! じゃなくて、高洲じゃん。やっぱ、高洲が代表に選ばれたか。さすがだな」
「お前は浮間か。いや、俺じゃなくて本来は浅海が選ばれるべきだろ」
「八十島は男の娘だから無理だろ。いやー高洲はイケメンだと思うぜ? 武器と盾さえあれば、このリレー活躍できるしな。それにお前って自分が思ってるよりも、女子人気高いし。まっ、その子たちも奪うけどな」
「武器と盾か。背走リレーなら最強かもな」
「はははっ! それはいいな! 願っとけばいんじゃね?」
「そうする」
「じゃあ、俺は他の奴のとこに行くよ。スタートしたら手加減なしな?」
「いや、手加減よろしく」
浮間は嫌味が無くて、話しやすいイケメンだ。奴は男のダチが多いだろう。しかし、奪う奪うって何を奪うんだろうな。よく分からんけど、気にしたら全てにおいて負けそうだ。
そして俺にとって、後ろめたさが十分すぎるイケメン対抗リレーが始まろうとしていた。




