341.華麗なる令嬢と庶民 ②
さよりをさよりらしくしたはずなのに、またしても赤面少女に逆戻りである。
それはともかくとして、庶民の俺にとって最大にして最難関な場に来てしまった。
ゴージャスで真っ赤なシルクのレースカーテン……もはやそれしか出て来ない俺の語彙力。
そんな煌びやかなパーティなる場に俺は来ている。
さよりをエスコートする為に来たわけだが、肝心の彼女はいつもの挙動不審な女の子ではなく、極上美少女ここに現れり的な恐ろしく綺麗な彼女となって現れた。
あれが俺の彼女――
くそう、やっぱり成り上がりでも令嬢として見れば、庶民の俺には眩しすぎて近づきがたいぞ。
さよりは令嬢同士の挨拶で忙しくしているようだし、適当に歩くことにした。
『そこの庶民・ザ・庶民! 端を歩けよ!! 邪魔だ』
ほぅ……?
やはりいるのか、こんなふざけたことを言い放つ輩が。
「いかにも俺は庶民だが、そういう貴様は喧嘩上等な金持ちか?」
「あ? 庶民が口答えしてんじゃねーよ! そもそも何で庶民がここにいやがる!! どの面下げてここに来てるってんだ。とっととそこからどけよ! この――」
名無しの偉ぶり野郎が庶民に喧嘩を売るとは、コイツは一体何なんだ。
いっちょまえにしやがって……
そう思っていたが、急に青ざめているじゃないか。
とりあえず大ごとにしたくないので、俺はひたすらピカピカすぎる床だけを眺めることにした。
「――そこにいるのは高洲くん? そしてあなたは……どなた?」
「あ、あぁぁぁ……」
「いかにも! 俺は高洲くんですが、ワケあって顔を上げられません。あしからず」
「まさか、この場において庶民だとか、そうでないだとかで言葉遣いを荒々しくしている……そうなのですか? そして彼にこのようなことをさせている……」
「ひぃっ――!? ぼ、僕は汐見の家の……」
おや? 汐見だと!?
いつかどこかで出会っている気がするが、どこだったか。
「どうぞ、大人しく去って頂けます? そうじゃないと、消しますよ?」
「わああああああああああ!!」
何やら恐ろしいモノでも見たかのようにして、全力ダッシュで逃げて行ったじゃないか。
汐見くんか、随分とイキっていたが急に弱体化したな。
「助かりましたが、あなたは?」
「ふふっ、顔を上げていいよ?」
床を見るのも飽きて来たので助かった。
そうして顔を上げると――
「会えたね、高洲くん」
「あ、あゆ……か?」
「……ん。そうだよ」
そうか、さよりの令嬢レベルだといないと思っていたが、やはりいるのか。
短くて丸みのある黒髪はいつもと違って、長く伸ばしたストレートになっていた。
短い髪だったはずだが、ウィッグでもつけているのか。
正確な歳は分かっていないが、やはり大人びた雰囲気を醸し出している。
「浅海と一緒にいるんだろ?」
「いるけど、それが?」
「すでに知っているだろうけど、俺は彼女がいる」
「……うん、だから?」
「いや……そう言われても」
「来て?」
「いや、俺は行けないんだけど、どこに?」
「浅海がいる所に連れて行くから、来てくれると嬉しい」
やはり浅海と来ていたのか。
上手く行ってくれたなら心配することは無いが、俺一人だけであゆに付いて行くのはあまりに危険だ。
「彼女と行っていいか?」
「さよりなら挨拶で忙しいと思うけど」
「うぐ……」
「……嫌いになった? 高洲くんは、もうあゆと離れる? 離れるのかな?」
「そ、それは……」




