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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
5章:日常、再び

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337.彼女と彼の本気な日 前編


「お、お邪魔しますわ! お母さま」

「あら、さよちゃん? 随分見ない間にまた綺麗に……え? あなたは?」

「初めまして……湊の友達の八十島やそじまです。湊のお母さん、これから湊の部屋が騒がしくなりますが、どうかお許しを」

「まぁそれはいつものことだけど、肝心の湊は?」

「部屋を片付けている最中みたいですよ。しばらく帰って来なかったはずですから」

「本当にねえ……遠くに行ったかと思えばまた戻されるなんて、鮫浜って子は一体何を考えているのかしらね」

「……その心配はもうすぐ必要なくなりますので、ご安心下さい」


 浅海の企みなど知ることもなく、俺は埃だらけの部屋を必死に掃除中である。

 こんなに長いこと留守にしていただけで、汚くなっているなんて正直思っていなかった。


 俺の母さんは俺の部屋には滅多に入らないことも関係しているが、まさか掃除もしてくれていないとか、その辺はいいのか悪いのか。


 数十分以上かけて、ようやく客人であるさよりと浅海を、部屋に通すことが出来た。

 一息入れつつ話が始まるかと思いきや、遠慮なく俺を使い始める浅海である。


「久々に湊が入れる黒すぎるコーヒーを飲みたいんだけど、頼めるかな?」

「おー。お安い御用だ。懐かしいな、そのセリフ」

「ファミレスで俺の今の姿を見た時の湊は、可愛かったよ」

「おぉぉ……サ、サンキュ」

「……仲がいいのね」


 いやいや、友達同士のシャレの利いた会話であって、深い仲では無いのだが。

 さよりの嫉妬心も大概にして欲しいものだ。


 部屋の掃除をしたのに、さらに俺の部屋に浅海とさよりを二人きりにさせるとか、空気読みすぎだ。


 しばらくして、二階からさよりの大げさすぎる悲鳴のような叫びが聞こえて来た。

 しかしあいつの大げさな悲鳴は、大概が大騒ぎしすぎな感動か、驚きによるものなので特に気にしていなかった。


『きゃああああああ!!』


「ね、ねえ湊。さよちゃんのあの悲鳴って、いつものアレで合っているの?」

「そんなとこだろ。てか、何度か聞いてるだろ。いい加減、慣れろって!」

「で、でも、今いる男の子ってさよちゃんの何?」

「彼氏だ」

「あんたじゃなくて?」

「違う」

「そ、そうなのね」


 母さんはさよりの大げさすぎる悲鳴には免疫があるはずなんだが、何故か気にしているようだ。

 俺も多少は気になるが、今はまずコーヒーを淹れるのが先決だ。


 ◇


「ふふっ! 久しぶり過ぎてホコリが舞い上がっていたのかしらね」

「湊は自分の家よりも、他人の家にばかり入り過ぎなんだよ」

「本当ね」

「――ところで池谷いけがやさん」

「えっ、はい。あら? 呼び方が戻ったのね」

「湊の部屋には何度も入っている?」

「あゆほどではないけれど、まぁまぁね……それが何かし――えっ!?」

「……それじゃあ、存分に湊の部屋に寝転がっていいんじゃないかな」


 ◇◇


 黒すぎるコーヒーをコポコポと慎重に入れていた時だった。

 俺の部屋にいるであろうさよりの大げさすぎる悲鳴と、何かがぶつかったような音が聞こえて来た。


『きゃ、きゃああああああああ!』


 全く、いつもいつも大げさすぎる悲鳴を上げやがって。

 どうせ浅海と一緒に、俺の黒歴史アルバムでも見て興奮しているに違いない。


 そう思っていたのだが――


「――え、あ、浅海さん? な、何をされているの?」

「池谷さんを押し倒している」

「じょ、冗談なのよね? た、確かに湊の部屋のじゅうたんは存分に味わったのだけれど……何も浅海さんまでそんな、そんなことを」

「……本気だよ」

「やっ――」

「本気を見せないと、彼女にするつもりは無いだろうからね。俺は本気で池谷さんを奪うよ……」

「やめ、やめていただけないかしら……湊のお友達にしては冗談がきつすぎるわ。そ、それに、いくらお付き合いをしていても、湊のお部屋ですることでは――」

「池谷さんは湊しか知らない。湊よりも、俺の方が上手く”キス”出来るよ」

「……キス――」


 トポトポと濃ゆいコーヒー自分用を淹れていた時、またしてもさよりの大げさすぎる悲鳴が聞こえて来た。


『や、いやああああああああ!!』


 またかよ。

 付き合っているのは分かるが、まさか俺の部屋で?


 何となくの予感がして、コーヒーを放置して自分の部屋に向かうことにした。 

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