336.白と黒の教室 1-2
「ど、どういうつもりが?」
「何のこと?」
「栢森に言われて俺のことはもう――うぷっ!?」
「おしゃべりはそこまで。鮫浜は細かい男の子は好きじゃないです」
真面目に先生っぽく年上っぽい振る舞いで俺の口を手で塞ぐ鮫浜は、何を考えているのか。
横顔だけでは判断出来そうにない。
「何だ? 高洲はもう鮫浜さんに目をつけたのか? 出戻り転校生は手が早いな!」
「うるせーな」
「ほう? 担任にその口の利き方……目先生の言っていた通りの男か」
どうやら問題児扱いとして認識されている様子。
問題児は浮間と鮫浜だったんだが、揉み消されたか。
白という男担任はどういうルートで先生となったのか今の時点では分からないが、鮫浜に関わりがあるのは間違いない。
「――というわけだ。高洲と池谷には酷だろうが、模試を開始するぞ」
ふぁっ!?
全く話を聞いてなかったのに、来て早々テストとか早くも落第確定か。
そのまま休み時間に突入するまで、動かない脳みそをフル回転するしかなかった。
もちろん、ほぼ無回答である。
「おま……さよりは急な模試に対応できたのか?」
「愚問ね。わたくしを誰だと、そして成績を気にして来なかったサボり魔に、言われる筋合いは無いわね」
「うぐ……くそぅ」
「それよりも、どういうこと?」
「俺も知らん。てっきり栢森によって、大人しくなったとばかり思っていたのにな……」
「ふぅん……まぁ、いいわ。あの子はどうするつもりがあるの?」
「沖水のことなら俺がフォローする。さよりがやれることは何もないだろうしな」
「ふ、ふん。そうね、わたくしには無関係というものですもの」
どういうわけか沖水とだけは席が離れ、さよりとは隣同士にされてしまった。
そして何故か、俺の前と斜め前の席は空席になっていて、危険人物扱いを受けている。
昼休みに入るまでに鮫浜副担任は教室に顔を出すことが無く、真面目に先生のようなことをしていることが分かって安心した。
隣の席とはいえ、さよりは俺にしょっちゅう絡んで来る訳でも無かったので、気は楽だった。
「はは、相変わらず仲がいいね。俺という彼氏を差し置いて、隣同士なんてさ」
「! お前、いつからそこに座ってた? というか、同じクラスなのかよ」
「腐れ縁ってことだろうね。湊とはダチだし、その辺も考慮してくれたのかな、あの人は……」
「ご、ご機嫌いかがかしら、浅海さん」
「……さよりさん、今日の放課後は空いてるかな?」
「えっ、ええ」
浅海がさより呼びとは珍しい……いや、初めてか。
さより本人も面食らった感じを出しているし、どういうつもりをしているんだ。
まあ二人のすることに口出しするのは違うだろうし、黙って置くが。
「湊も暇だろ? 転校したてだろうし」
「おっ、おお……そりゃあまぁ」
不意打ちのように俺にも声をかけて来るとは、浅海は隙が無いな。
「……それならさ、湊の部屋に集まらないか?」
「浅海がそんなことを言うとは珍しいな。集まるのはいいが、さよりと浅海だけか?」
「あぁ。栢森にいた者同士で、湊を救った同士の集まりだよ」
「そ、そうか。確かにそうだな」
「さよりさんもそれでいいかな?」
「わ、分かりましたわ」
鮫浜がいる学園に何気ない顔で戻って来ている浅海もただ者では無いが、俺の部屋に集まるとか、これも初めてのことだろう。
昼休みということもあり、さよりは席を立ってどこかに行ってしまったようだ。
俺はすぐに学食に行く気にはなれなかったので、そのまま座っていた。
「何を考えてるんだ? お前とさよりは付き合ってんだろ? 俺に遠慮しなくてもどこかに出かければいいだろ」
「遠慮しなくていいんだね?」
「そりゃあ……」
「それを確かめたくなっただけだよ。ここに戻って来られた……その時点で、俺は白黒つけたくなったんだ。本気を見せたいし、本気を知りたいからね。湊もいい加減……」
「ん?」
「いや、放課後に分かることだよ。湊の本気をね……」
「だから何がだ?」
「すぐに分かるだろうし、その気になると願ってるよ。湊にその思いがあればね……」
「んん?」
「じゃあね、俺は隣のクラスだから戻るよ。明日からまたよろしく頼むよ」
明日も何も放課後に会うのに何を言っているのやら。
ハッキリと言わないなんて浅海にしては珍しいことだが、何かを企んでいるのは確かだ。
しかも隣のクラスだったとか、不意打ちにも程がある。
鮫浜の登場にも驚いたが、まずは放課後だ。
浅海の狙いを見極めて、それこそ白黒つけさせてもらうとしよう。




