326.キケンな彼女たちの狭間 前編
えーと……どうすればいいんだ、この状況。
どちらも弾力性のあるオムネさんであることは承知済みだが、何もこんな形で挟まれるとは思ってもいないことだぞ。
「みなとはあたしの男なのに、どうして今さら鮫浜の令嬢が邪魔をして来る?」
「違う、違うよ? 湊くんは、私のモノだよ」
「あんたからみなとを追い出しといて、また自分勝手に元に戻るなんて、みなとの気持ちも考えやがれ!」
「……ふふっ、よく言う。たった一人の男の子の心を手に入れられないからって、無駄な人間を動かしすぎ。それでも結果は? 見て分かる、分かるよね?」
「鮫浜だって使ってた手じゃねえかよ! みなとはあたしのような守ってくれる女を求めているってのに、鮫浜は相も変わらず、恐怖で支配とかどうしようもねえな! なっ、みなと!」
「湊くんは、あゆと付き合いたくて戻って来たよ? そうだよね、湊くん」
人生最大のモテ期!?
――そう思いたいが、栢森のお屋敷の中で嵐花とあゆに挟まれている、それだけで周りの彼女たちの視線が恐ろしく突き刺さっている。
栢森の彼女たちの中には、南中女子寮にいたユウの姿もある。
しかしあの浅利姉妹の姿が見えないということは、栢森とは無関係だったということになる。
彼女たちも、あゆにとって粛清されてしまうのだろうか。
それにしてもたわわなオムネさんに触れているだけで、動悸が収まらず、それでいてそれをしてくれる娘には何かしらの感情も抱いてしまう所なのだが……
「……い、息がで、出来……」
「え、大丈夫か!? みなと!!」
「湊くん、深く息をして?」
逃げられないこの状況は、本来ならハーレムと言っても間違いじゃないだろう。
しかし今はただの凶器でしかない。
どちらも年上? だからこそ、逆らうのも躊躇してしまう。
「……く、苦し――」
大好きなオムネさんに挟まれてあの世に行くのも悪くないが、そうは行かない。
ここはイチかバチかタックルをする勢いで、二人を弾き返してみるのもありか。
『う、うおおおおおおお!!』
「――っ!? み、みなと……?」
「……ん、そのまま私の元に飛び込んで?」
嵐花とあゆは迷うことなく、腕を広げて迎えの姿勢を取っている。
――が、それでは結局、苦しい板挟みが延々と続くだけだ。
この際誰でもいいので、突き刺しの視線を浴びせていた誰かの元に、思い切って突っ込んでみた。
「!? 困ることだな、それは」
「すんません、誰かは知りませんが助かりました」
「いいさ、君のことはお嬢に言われて観察をしていた。そういう意味では、可愛いくも見えて来るものさ」
「と、ところで、あなたは?」
「あぁ、失礼したね。私は楓子。栢森ヶ丘で会ったことは無かったかな?」
楓子? 見た目は浅海のような男の娘っぽいが、名前が女だし女子なのか。
俺を監視してたとか、かつての鮫浜と似たことをするなんて嵐花らしくない。
「俺はどうすればいいかな?」
「お嬢が決めることだよ。私には君をどうこうするよりも、もっと興味の惹く彼と接したいからね」
「そいつは栢森ヶ丘にいる奴?」
「そうだとしても、君には知る必要のないことさ」
なるほど、こういう中性的な奴も栢森家に仕えていたのか。
あゆと嵐花の戦いは終われるのか?




