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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
4章:カノジョの想い

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324.俺と彼女の言えないカンケイ 2


「じゃあ早く行こ?」


 こうと決めたら迷わず行くのは、あゆのいい所であり、らしいといえばらしい。


 しかし嵐花と話し合いをこれからするとか、とてつもなく修羅場に突入なのでは?

 夏休み前に南中から逃げて隠れていたのに、わざわざ自分から姿を見せて……俺はどうなるんだ。


 以前嵐花は、鮫浜なんか相手にもならず、俺を守ってやるとか言っていた。


 それが今や、逆になっている。

 鮫浜なら栢森は分からないが、南中女子たちに無駄に立てたフラグごと、簡単に滅してしまいそうだ。

 

「知ってる、知ってるよ?」

「な、何が?」

「湊くんはわたしを求めて、求め続けて……手当たり次第に優しくした。そうだよね?」

「や、優しくはしてないと思う……たぶん」

「うん、だから全部終わらせてあげる……湊くんを困らせているんなら、全て……」


 おぉぉ……寒気と悪寒を同時に感じてしまった。

 あゆと付き合うってだけで、他の存在全てが抹消されるとか、マジですか。


 うっ……というか、知らぬ間に手を握られていたとか、真面目に怖いぞ。

 全然気づかなかった。


「行こ」

「屋敷の場所も分かっている……んだな?」

「もちろん。わたし、こう見えて一番の令嬢だから」

「あ……うん。ソウデスヨネ」


 否定出来ないのは確かだし、鮫浜の令嬢はそれくらい強い。

 

 個室から出て、そのまま外に出ようとすると――


『お、お待ちになってくれないかしら?』


 お? 出て来ないと思っていたが、さよりが止めに来たのか。

 コイツはどういうわけか、あゆに強い感じがある。


 他はてんで弱くて残念なのに、俺よりもずっと前からあゆを知っているからこそ、強気な態度になれるのか。


「――さより、何?」

「おい、さよ――」

「庶民は黙っていてくれないかしら! わたくしは鮫浜あゆと話があるのだけれど」

「……うぐ」


 どういうわけか、いつになく令嬢っぽい強さを感じる。

 お前は浅海と付き合いをしているだろうが! などと言うつもりだったのに、制された。


「湊を、あゆ……あなたの思い通りにさせるつもりなんてなくってよ! この男はだらしないけれど、悪人になれない小者だわ! あなたの側に連れて行くなんて許したくないわ!」


 小者だとか庶民だとか、その通りです。


「……さよりには関係ない」

「大ありだわ! 湊は、わたくしの彼氏ではないけれど、お……」


 おって何だ? 何故か顔を赤くしながら、唇をギュッと噛みしめているのはどういうことだ。


「お、おおおお……お友達なのだわ! どうしようもなく情けなくて駄目な男だけれど、あゆの好き勝手にしたくないお友達なの! だから連れて行くつもりなら、わたくしは――」

「そう、さより……あなたもわたしの敵?」

「と、ととと、当然ね!」

「ふぅん……? さよちゃんがわたしの、ね。いいよ? でも、先に片付けて来たいから、その後……その後でいいよね?」

「――! え、ええ……」


 おぉ、眼圧半端ないぞ。

 天使が早くも闇に堕ちて行くとか、早すぎるだろ。


「湊くん、車で待っている、いるから。すぐ来てね」

「は、はい」


 財力も強さも、どう考えてもさよりに勝ち目は無いのに、どうしてコイツは……。

 思わず憐れみの目で見つめてしまったじゃないか。


「な、何かしら? あなたに見つめられたら妊娠してしまうのだけれど」

「それはもう古いから」

「何よ! そうやってあなたの無意識な視姦で、わたくしをどうにかするつもりがあるのかしら?」


 コイツ、とうとうそこまで言うようになりやがったのか。


「しねえよ」

「ど、どうにかするつもりがあるのなら、きちんと手続きを踏んでからにしてくださるかしら」

「手続きって何だよ、そりゃあ」

「知らないわ」

「……ったく、心配して損した」

「ふ、ふん、あなたはわたくしを見破る……ではなく、見くびりすぎるんだわ!」

「してねえっての」

「さっさとあゆを助けにお行きなさい。話はそれからだわ」

「はいはい、じゃあまたな」

「! う、うん。またね、湊。それから、はいは一度だけよ」


 あーうるさい。

 教育ママタイプかよ。


 とにかく今からというか、もうすぐ夜なのに栢森に襲撃なのか。


 怖すぎる……嵐花も怖いけど、あゆが怖い。

 ヨリを戻して鮫浜の力も復活とか、シャレにならないんだが。

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