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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
4章:カノジョの想い

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320/345

320.とあるSさんからのメッセージ 前編


 浅海とさよりのことは別にして、女子寮に監禁されるより全然ましな夏休みを過ごして数日が経った。


 新人が新たに入ったらしいがシフトが合わないのか、まだ会ったことが無い。

 それなのに相手は俺に会いたがっているとかで、何となくモヤモヤしている。


「そのうち会えるって! 店長は高洲くんに教えてもらうつもりしてたけど、シフト都合がどうしても合わないからって、ミウになったんだ~! うらやましいだろ」

「いや、別に……数日程度の俺が教えるとか、無いかと」

「高洲くんってもしかして、ソッチ側?」

「どっちだよ!」

「実は八十島やそじまくんを見ていたのかなぁって! どっちにしても叶わないから悲しいね」

「ちげー!!」


 すっかりからかわれる側の人間と化した。


 ミウはどうやらそこそこイイトコの女子高から来ているらしいが、バイトの時間帯にしか話さないし会わないので、素性は不明だ。


 嫌な感じは受けないのはいいとしても、からかうのが好きらしく、何かといえばさよりと浅海のことで俺をいじって来る。


「釣り合いというのを考えてみたまえ!」

「分かってるよ……」

「令嬢との付き合い、やがて恋仲……そして財閥の婿養子! 憧れるのは分かる! そんな高洲くんに耳寄り情報があるよ。聞きたい? 聞きたくなくても教えてあげる!」

「……反論する余地も無いので、聞いてやる」

 

 やはり優雨ゆうと似たタイプは、人の話を聞かないようだ。

 

 この手の話に何を期待しろというのかと言いたいが、聞くだけ聞くことにする。


「あぁ、その前に……高洲くんは年上好き?」

「下でも上でも……」

「ふむっ! 背の小さな子は?」

「低くても高くても可」

「おっけ! 紹介してあげようじゃないか! ここに高洲くんの住所と電話とアドレス……もしくは、この用紙の番号をメモるか登録したまえ!」

「は? 誰の番号? というか、知らない奴に住所を教えるつもりは無いんだけど」

「凄く可愛い……ていうと失礼に当たるけど、本物の令嬢だよ。イニシャルはSさん。令嬢好きな高洲くんなら、絶対好きになるよ。さぁ、書くか登録するか!」


 絶対怪しい奴だろコレ。


 令嬢と言ったってピンキリだろうし、イニシャルとか沢山いすぎる。


「とりあえず登録しとくだけにするけど、相手もこっちのことを知らないんだろ?」

「ん、多分ね。ミウは彼女とメッセージだけした仲だし。彼氏欲しいって頼まれたから、いいよ~! ってね」

「軽い奴なんだな」

「そこは人情に厚いと言ってよね! 登録したんなら、今夜にでもメッセ来るかもね。ガンバ!」

「くそ~楽しんでるだろ、ミウ」

「べっつに~」


 相手をしても面倒だったので、見知らぬ令嬢の連絡先を登録しといた。


 その日の夜、よりにもよって浅海が外している時に、メッセージが届いてしまった。

 電話では無く、文字だけだからまだマシではあるが。


 ◇


「こんばんは、高洲君。突然のメッセージごめんなさい」

「あ、こんばんは」

「わたしはA.Sと申します。今、高洲君にすごく会いたいです。今はどこに住んでいるんですか?」


 会ったことも無いのに会いたいとか、やはりヤバい系か?


 しかも住んでるところを聞くとか、ここに来る気じゃないよな。


「今はバイト先の住み込み……のようなもので、教えられないです」

「……テレビ電話は可能ですか?」


 おいおい、焦り過ぎだろ。


「顔出しは勘弁を……」

「大丈夫です。わたしも口元だけしか見せません。いかがですか?」


 部屋の壁でも最近は場所を特定されるらしいが、口元だけならいいか。


「では、どうぞ……」

「はい」


 メッセージだけのやり取りが億劫で、すぐに直電話とかどんな令嬢だ。


「ふふっ……高洲君?」

「はぁ、まぁ」

「ガード固いんだ?」

「自分の家でもそうですが、簡単には教えられないですよ」

「そこがお世話になっているお部屋ですか?」

「まぁそうです」


 何だか分からないが、この令嬢は声変換を使っているようで、俺だけが自分の声で話をしている。


 知られたくない理由でもあるのか分からないが、令嬢もガードが固いようだ。


「今、彼女はいるんですか?」

「いないです」

「寂しいです?」

「そう、ですかね」

「……わたしも寂しいです」

「あ、いや……えと」


 口元だけと変声器な彼女に何と言えば正解なのか、分からずに沈黙が続いた。


『湊~まだ寝ないの?』


 そう思っていたら浅海が戻って来たわけだが、これが失敗だった。


「あぁ、そうですか。()()に湊くんはいるんですね?」

「えっ?」

「いえ、よく分かりました。湊くんが寂しいって分かったので、これで寂しくなくなりました。またね、湊くん」

「へっ? あ、また……」


 浅海の声が漏れ聞こえたことで、何か分かられたか?


 まさかの身バレとか、シャレにならないんだが。


「浅海。俺、今すぐ自分の家に戻ったらダメかな?」

「それは危険すぎるって! 湊の家は知られ過ぎてる。湊のお母さんのことがあるから、何かされることはないけど、湊が戻ってしまったら危険度が上がる。俺の家で不便かけてて悪いけど、我慢してくれないかな?」

「悪い、多分ここがバレた気がする……」

「誰に?」

「とある令嬢だ」

「栢森? それとも……」

「浅海の思ってる方だ」

「いずれバレると思っていたけど、彼女がここに来ることは無いんだ……」


 何故だと聞くよりも先に、浅海の表情が暗く沈んでしまったので、この話は終わりにした。


 音信不通で安心していたのに、ちょっとの油断で”彼女”を呼んでしまったのは、本当に痛かったようだ。

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