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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
4章:カノジョの想い

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316.とにかくそういうことらしい。


 勢いで言ったというわけではないのか、浅海は優しい力でさよりの肩を抱いている。


「お、お前、マジなの? さよりだぞ? 昔はだって……」

「そんなのとっくに許しているし、いつまでもこだわっていたって進めないだろ。それを言っていたのは湊なのに、それも忘れたのか?」


 忘れてはいないが、この組み合わせはあんまりだろ。


「さよりはどうなんだよ? 肩を抱かれて予定にない告白をされて、浅海のことは好きとかじゃないだろ」

「す、すすす……好きだわ。少なくとも、わたくしをきちんと見てくれるという意味では好きよ。それに引き換え、あなたって人は本当に本当に……」


 思いきり動揺してるじゃねえかよ。


「じゃあ浅海と本気で付き合うんだな?」

「つ、つ……つつつ」

「いい加減にしときなよ、湊。俺の彼女をこれ以上からかうなら、本気で一撃入れるけど?」

「あっ、いや……これは俺とさよりのいつものじゃれ合いであってだな……」


 これはマジなのか。

 さよりはともかく、浅海の目はふざけている感じじゃなさそうだ。


 そうなると、あゆとの婚約をどうするつもりがあるのか。

 

「じゃあやめてくれよな。友達だから殴りかからないけど、そうじゃなかったら……」

「わ、分かったよ。ごめんな、さより」

「う、うん」

「……それに、湊が思っていることなら俺はきちんと決める。それよりも湊の問題の方が大問題だろ? 手当たり次第に心を置いてしまっているってこと、気付いてんの?」

 

 中途半端に接触している南中付属の女子たちのことを言っているんだろうが、そこまで俺と上手く行きかけている子はいないはずなんだが。


 あみの心も果たしてどこまで本気なのか、あゆ同様に見えなかったわけで。


「このままお前の部屋にいる時点で夏休みに入るし、自然消滅だろ。しかもバイトもあるし、何かあったら何とかするしかないけど、お前たちに迷惑はかけない」

「俺も今回ばかりは助けないけど、大丈夫なんだよな?」

「任せろ」

「……やっと湊らしくなって来たね。とりあえず、ここでしばらく休みなよ」

「おぉ……」


 何がいつもの俺で俺じゃなかったのか自分では分からなかったが、機嫌は良くなったらしい。

 ここでさよりだけは家に帰るらしく、迎えの車が来ているということで玄関まで送ることになった。


「じゃ、また。池谷いけがやさん」

「ええ、ごきげんよう」


 ううん……自然な光景を目の当たりにしている気がする。

 さすがに名前で呼ばないみたいだが。


「そこの腑抜けたツラした湊! あなたも浅海さんみたく、頑張りなさいよね! ふんっ」

「さよ……池谷もな!」

「いいわ、あなたが今さら池谷と呼ぶのは不自然というものですもの。それに、お友達なのではなくて? 友達であるなら、今まで通り呼べばいいわ!」

「し、しかしだな……」


 思わず横にいる浅海を見ると――

 さっきまでの殺気はどこへ行ったのかと言わんばかりの、爽やかすぎる笑顔が返って来た。


「そこは変えられないだろうし、湊は変えなくていいんじゃない?」

「いや、だって、彼氏のお前が名字で……」

「俺は女子を呼び捨て出来ないからね。とにかく、そういうことにしときなよ」

「そ、それなら……さより! じゃあな」

「またね、湊」


 最後の方は、さよりも機嫌良く車に乗り込んで帰って行った。


 真面目に浅海とさよりがそういうことになるとは、予想をするはずも無く、何をどう言えばいいのか。


「……じゃあ、母がご飯用意してるし、戻ろうか」

「え? こっちの離れじゃないのか?」

「あぁ……言ったろ? 母と会わせるわけにはいかないって。だからだよ」


 それはつまり俺はともかく、さよりを浅海の親に会わせるのは、まずいという意味か。


「湊にも話していなかったけど、俺が女の姿としてなる時のモデルは、池谷さよりなんだよ。母は俺と彼女とのことに心を痛めているままだ。その本人に会わせるわけには行かないからね」


 ここに来て初カミングアウトかよ。


 美少女姿の浅海はさよりと何となく似ている感じだったが、俺と浅海が出会った時は、美少女として疑わなかった。 


 俺と出会う前よりも前に、浅海はさよりを含んだ連中と因縁があったし、そういうことなのかも。


「それなのに彼女にしたのか。お前の親には会わせないで付き合うのかよ」

「……湊に言われる筋合いは無いな。告白も言葉も、いつも逃げている湊に言われたくない」


 またも不穏な空気になりそうなので、この話でやめとくことにする。


 夏休み中は、浅海と同じバイト三昧になる……それだけでも、よしとするしかない。

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