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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
悪役令嬢編

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313.闇彼女の仄かな息吹 後編


「なぁ、何でこんなことをするんだ? ユウはここの生徒でもなくて、嵐花の命令で来てるんだよな?」


 俺の背中にオムネさんをくっつけているユウは、特に意味は無いといった抑揚のない声で答える。


「――命令に関係なく、ミナトを嵐花よりも先に手に入れることに変更した。感情は関係ない」

「感情抜きでそういうことしてるのかよ? 言っとくが、俺には一応カノジョがいるんだぞ? そういうことをしても、俺もユウにも得になることなんて無いと思うが……」

「だから、好きとか嫌いとか関係なくても、されれば嬉しいんだろ? 男は」

「それは相手によるのであって、誰でもいいわけじゃないぞ」

「オレのこと、どう思う? さっきから背中に当ててるけど、悪い気はしないんだろ?」


 確かに何かの突起部が当たって来ているが、だから何だと言いたいが言えない。


 コイツもそうだが、浅利姉妹……特に姉の方にお金を借りて、なおかつ使用してしまっている以上は、返さないと地の果てまで追いかけて来そうで怖い感じを受ける。


 しかしユウは栢森から来ていて、独断で俺に迫って来ているに過ぎない。

 嵐花の狙いが俺なのは何となく分かるが、結局どういうことなのかさっぱりだ。


 こんな異常な迫られ方をしてもモテ期が来たとは言い難いし、望んでこの学校、女子寮に住むことになったわけじゃない以上、そろそろ俺自身がハッキリさせるべき時かもしれない。


「悪い気はしないが、そういうことばかりをされても嬉しくはないな。悪ぃけど、この部屋から出てって――っ!?」


 一瞬何が起きたのか分からなかったが、背中にオムネさんをくっつけていたユウが、いきなり俺の首に絞め技をかけて来たかと思えば、そこからマウントを取られた。


「嵐花に取られる前に、オレがミナトを喰う」


 いやいや、どこのモンスターですか。


 もちろん意味は分かっているが、そういうことを今まで強引にして来た相手といえば、姫かあゆくらいで、彼女らは最後までしようとはしていなかった。


 してしまうと、色々と大問題に進むことになることを知っていたからこそだが……

 

 この石伏いしぶし友禅ゆうぜんなる女は、言葉遣いは嵐花に近いが、行動はあゆよりも病んでいる気がしてならない。


 ユウは俺の上に馬乗りになっていて、さっきまで俺の背中につけていたオムネさんは、当然のように胸元がはだけている状態をキープしたままだ。


「……いいよな? オレで」

「良くは無いな……」


 たとえ今の状況が、今までのモテない人生と東上学園時代よりもオイシイ状況だとしても、このままこの女にやられるわけにはいかない。


 割とヤバイ状況にあるが、ここであの彼女から言われたことが、咄嗟に頭に浮かんでしまった。


 口にしたところで、どこかのヒーロー……いや、ヒロインのように目の前に駆けつけてくれるとは限らないが、今の俺は抵抗する間もないくらい危機を迎えていて、考えている時間は無い。


 この言葉を口にする時点で、彼女に俺の気持ちが伝わることを意味するが、致し方ないだろう。


「ミナト……舌を出しなよ――」


 非常にまずい状況が迫って来ている。

 多分こういうことになると見越して、俺に耳打ちとメモを渡していったんだろうが、コレを言った時点で元カノとは終わりを告げることを意味する。


 もうそれでもいい……迷うことなく、俺は叫んだ。


『俺はあゆよりも、お前がいい!! 頼むっ! 助けてくれ!!』


「あん? 急に大声を出して、誰に救いを求め――」


 俺に覆いかぶさり、とても危険な行為に及ぼうとするユウではなく、とにかく合言葉のような言葉を見えない誰かに向けて言い放った。


 だが部屋の扉が開けられた感じを受けないし、足音も聞こえて来ない。


「――ハッ……誰もいないのに、大丈夫か? 頭……」

「……やめろって。舌を口中にしまえよ」

「嫌だね」


 ほぼ真上から、ユウが俺の顔に迫って来る。


 何もかもが病みまくりな闇女の息吹が、俺に近づく――


『そこまでにしてくれる? 高洲湊は沖水……私の男だから。手を出したら、栢森に伝えることになるけど?』


 ギリギリで登場した……あみ。


 この学校で無事に過ごす為の”告白”は、あみに気持ちを伝えることだった。


「ミナト、沖水と?」

「……そういうことだ。俺はあみと付き合うことにした。嵐花に伝えてくれて構わない」

「ふーん?」


 横目であみを睨みながらもユウは俺から離れ、はだけた胸元を正して、部屋を出て行く。


「ふぅー……間一髪というか何と言うか……」

「ヤラれるところだった?」

「まぁ……見ての通りというか」

「未遂だし、いいけど。私を待ち望んでいた?」


 合宿から帰って来るまで、気が気じゃなかったのは事実。


 ここは素直になっておこう。


「待ってた。ずっといなくて、寂しいって感じてた。あみがいない間、あゆと色々あったけど……」

「……あの人への気持ちは?」

「無いって確かめた。だけど俺には仮カノジョがいる。それに栢森ヶ丘に戻るって決めている。それでもいいのか?」

「……うん、私も決めたから」


 俺のカノジョはさよりであり、別れるとかという考えは無い。


 しかし今の俺が好きなのは、目の前にいる彼女だ。


「助けに来たついでに、お礼でもしておく……か?」

「うん、して」


 さっきまでユウからの深すぎるキスを拒み続けていた俺だったが、いま目の前にいる好きな女の子には、素直に顔が近付き、その瞬間が訪れようとしている。


「――あみ」

「……うん」


 あみと俺の気持ちが近付いている。

 こんな感覚でするのは、いつ以来だろうか。


 そうしてお互いの唇に触れた時――


『あなた、そこで何をしているというの――?』

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