311.闇彼女の仄かな息吹 前編
あゆに監禁されていた方が、まだマシだったのだろうか……などと考えてしまうくらい、ここでの移動に制限がかけられている。
そもそも俺が単独で南中付属に来たのも、「数日のうちに友達、運が良ければ彼女になってくれる子が出来ればいいぞ」と、嵐花に言われて来ただけであって、望んで来たわけじゃない。
日数が少ない割には早々に打ち解けた感があるが、現実は甘くない。
浅利妹の海夏に言われたまま、トイレで一人寂しく着替えようとすると、中で待っている奴に出くわした。
「――って、お前女なのに何で男子トイレにいるんだよ!?」
「細かいことは気にすんなよ。男装してんだから、怒らなくてもいいだろ」
「や、ユウは女だ。男装してたって、女だ」
「ちぇっ……意外と細かい男なんだな。嵐花から聞いたまんまだな」
「大事なことだろ。そういうわけだから、さっさと出てくれ」
「嫌だね。オレは嵐花から頼まれてんだよ。ミナトに尽くせ! って」
この辺があゆと違うところだ。
あゆは自分だけで不法侵入したり襲って来たりしていたが、嵐花は人を使って俺に接近して来ようとしている。
それがあるから、嵐花の気持ちが掴めないでいる。
「あぁ、くそっ……外で着替える!」
「そうはさせない。ミナトの着替えはオレが全てしてやるよ!」
「ちょっと待て!! 自分でやれるって!」
「言うことを聞かないと悲鳴あげる。ここの警備は怖いぜ? 外に出られなくなるかもよ?」
「……勝手にしてくれ」
俺の意思ではなく、人の手によって着替えをさせられるのは、姫やあゆによって免疫が出来ている。
男子トイレの中で女が悲鳴をあげるなんて、どう考えても不利なのは俺だけだ。
「ミナトがここに来るって分かってたから待ってたんだ。ここじゃないと、ミナトを嗅げないもんな……」
そう言いながら、ユウは俺のシャツを脱がし始めた。
何故に男装女子な奴に男子トイレで脱がされる羽目に陥っているのか。
これも嵐花の計画の一部だとしたら、もう素直にいう事を聞いてはいけない気がする。
「やはり背中……背中がいいな」
シャツを脱がしたユウは、俺の背中にオムネさんをくっつけて、恍惚な表情を浮かべている。
ユウにしても、浅利姉妹にしても、ここの女子たちはもしや、みんな病み女子なのか。
闇天使よりもヤバイ気がするが、これからどうなるんだろう。




