310.仮カノと仮カレの協力
さよりにおんぶされたのは幻だったのかと思いながら南中付属に戻されていた頃、栢森に通学していた某令嬢と某イケメンが再び手を組もうとしていた。
「はぁ~あ……早く戻って来ないかしらね。まさか本当に入院するだなんて……」
「本当ってどういう意味?」
「え? えーと……な、何でもないわ! そ、それよりも、夏休みはどうするの? 湊を雇ったと聞いていたけれど、諦めたのよね?」
「諦めてない。住み込みバイトを探していたのは高洲だから。でもさよりは駄目」
「わ……わたくしだって、ファミレスでアルバイトくらいしたことがあるわ!」
確かにさよりもウェイトレスをしたことがあったが、すぐにキレてクビになったと思うが。
「狭い庶民の家に寝泊まり出来ないだろうし、さよりは諦めて」
「んもう! みちるってば、強情すぎるわ!」
「彼よりも仕事が出来る自信は無いはず」
「な、無いわね……庶民代表の湊には勝てそうにないわ」
いつから俺が庶民代表になったというのか。
さよりとみちるは友達らしいが、噛み合っていそうで噛み合っていないようだ。
そして俺の知らぬ間に、さよりとは長く因縁関係にあったあいつとも、打ち解けていたらしい。
「ここ、空いてるかな?」
「あら? あなたお一人?」
「まぁね。俺は基本的に一人だからね。湊だけが特別なだけ」
「……さよりの彼氏?」
「「違う!!」」
「息が合っている」
不思議な関係を保っているようだが、かつてのさよりと浅海の関係は、加害者と被害者だ。
直に手を下したのはさよりでは無かったが、そういう集団にいたのは黒歴史だったのだろう。
「……君は蒼葉みちるさんだよね? 湊の雇い主の」
「そう」
「そ、それを言うなら、わたくしだって湊の主だわ!」
「まぁまぁ、池谷さんは少し黙ろうか」
「んっもう!」
どうやら浅海は、以前に比べてさよりの扱い方が上達したようだ。
「それで悪いんだけど、池谷さんと話があるんだ。蒼葉さんは先に戻っていてくれないかな?」
「……そうする。邪魔しているみたいだし」
「違うからね?」「違うわ!」
みちるもさより並に人見知りのせいか、浅海の言うことを素直に聞いて、教室に戻ってしまった。
「――それで、あなたはわたくしに何を求めているのかしら?」
「それは俺のセリフ。湊が今どこにいるのか聞いても?」
「あ、あなた、まだ湊のことを……?」
「否定はしないけど、湊はダチだから。湊がどうなっているのか知りたい。そうじゃないと、何のために……」
そこは否定してくれと浅海に言いたいところである。
「湊はもうすぐ戻って来るはずなのだけれど、嘘が本当になってしまったわ」
「……入院が嘘なのは知ってた。それが本当になった? 誰がやった?」
「鮫なんとかって男が湊を吹き飛ばしていたわ。そのままあゆとどこかに――」
「――っ! あいつか! 池谷さんは湊をどこに連れて行ったって?」
浅海は興奮気味に、さよりに詰め寄ってしまったようだ。
「し、知らないわ! わたくしに言われても答えようが無いですもの……」
「……鮫島のことは彼女に任せるとして、今は湊を助けに行かないと」
「え、でも病院にいるはず……」
「違うよ。湊は入院していないんだ。だからきっと、栢森嵐花が何か隠している」
「そ、そんな……」
「池谷さんは湊がいる学校に行ったんだよね?」
「え、ええ」
「湊はそこにいる。おかしなことに巻き込まれていると思う。だから、俺と協力しないか?」
「ふふん、当然ね!」




