306.帰りたくなかった場所に帰されていた件
「……ん~んんん……ぬあっ!? って、あれ?」
「えへへ……起きたぁ? 駄目だよぉ、どうして逃げたの~?」
な、何でベッドにこの子が寝ているんだ?
それも際どい格好で。
「に、逃げたって、どこから? いや、というか……ここは病室ですよね?」
「逃げたのは、キ・ミ。もちろん、寮からだよ? ここはお部屋。また借りに来たんだよね?」
そんなバカな……さよりにおんぶされ、危険じゃない普通の病院に送られたんじゃないのか?
どうしてここに戻って来ているのか。
南中女子寮の部屋にいつ連れて来られたのか……それも、浅利姉妹の危険な彼女の方に。
「か、借りるって何を?」
「ん~? 封筒の中身を使って脱走したんだよね~?」
「や、学校から自由な日をもらっただけで、逃げたわけじゃ……」
「そうなのぉ? だけど、使ってくれたよね~」
タクシーに乗る為に、仕方なく使わせてもらったお金の封筒のことだろうが、後で返せばと思っていたのが間違いだったのか。
「じゃあ、新しい封筒を渡すね~」
「い、いいですって! 今すぐは無理ですけど、後でバイトして返しますんで!」
「借りは返してもらわない主義だから~モノになってくれたってことで合ってる~?」
「ち、違いますよ」
何なんだ恋海は。
浅利姉妹の姉の方が安全に思えたのに、一番危険な子から借りを作ってしまった!?
「具合は良くなったよ? だから~キミの局所に新しい借りを入れておいたよ」
「きょっ局所……!?」
「無防備なキミも好き~じゃあ交代して来るね~」
「う、受け取れませんって! というか、局所って……」
どうやらここは病院ではなく、さよりもいなく、南中女子寮の部屋に戻されてしまったらしい。
途中までは、確かにさよりの優しさを感じていたはずなのに、そこからの記憶が全然無い。
「生きてたんだ、ふーん? つまらない奴」
「お、お前……」
「海夏って呼べよ! お前って上から言われるとマジムカつくんだけど?」
「あ、あぁ……そうだったか」
「恋海から借りを作って、すぐに返さなかっただろ?」
「手持ちが無いんだよ」
「見たくないしどうでもいいけど、そんなところに借りを増やして、どうなっても私は知らないからな!」
好きで借りを作ったわけじゃないのに、酷い言われようだ。
しかしタクシー代として使ってしまったのは、完全に俺のミスでもある。
浅利姉妹の姉は鮫浜や嵐花とは、まるで種類が違う危なさがありそうだと感じていたのに、女子寮から出る為にお金を使ってしまったのは、真面目に悔やまれる。
「それと高洲!」
「な、何?」
「……お帰り」
「た、ただいま」
「もう出て行くなよ? モノにするって決めたんだからな!」
何だ、ツンデレか?
浅利姉妹の言葉はどこか危なく聞こえるが、実は彼氏が欲しいとかじゃないだろうな。
嵐花に言われて南中女子付属に来たはいいが、本当に数日後には帰れるのか?




