305.栢森嵐花のキモチSS ②
「――ったく、何だって年下連中と同じ教室に通わなければならないんだ」
「お言葉ですが……」
「言わなくても分かっている! それで? 手筈は整えてんだろうな?」
「ご用命のまま、男はお嬢の隣になるようにしております」
「池谷は離したか?」
「一番前と一番後ろ。端と端。問題は無いかと」
「あたしと高洲だけは席替えなしな!」
「ええ、抜かりなく」
高洲湊をモノにする為、栢森家の令嬢は今か今かと、彼の登校を待っていた。
栢森の狙いは自分に従い、逆らわず、理想に近い教育を受けさせて、好みの男にするということを掲げている。
そして用意周到な登校日。
あたしは高洲湊に出会うことになる。
あの背中がそうか……顔の作りも悪くはない。
「そこの背中野郎! 邪魔だ!!」
高洲湊という男に、出会って早々に威圧したつもりだった。
妙に慣れてやがる……すでに鮫浜に仕込まれてやがんのか?
「あたしのことは姐と呼びやがれ!」
「で、ですよねぇ。美少女というより、姐御って感じっす」
「あ?」
「いやいや、凄まれても……」
年上慣れしているのか、高洲は栢森に怯えることなく接している。
これならすんなりと言うことを聞かせられそうだと、彼女は笑みを浮かべていた。
「何だ、笑えるんじゃないすか。美貌……とまではいきませんが、可愛いっすね!」
「……本気の言葉か? あ?」
「俺はハッキリ言うタイプなんで、思わなければ言いませんよ」
「へえ……気に入った! 高洲のことは今から、みなとって呼ぶからな! みなともあたしのことを呼び捨てで呼びな!」
「ら、嵐花?」
「ふふっ」
「……え」
おっといけねえ。しばらくは楽な言葉遣いでコイツに印象付けねえとな。
コイツが偽名であげていた浮間とかいう野郎を調べてみたら、案の定、鮫浜に飼われているチンピラだということが判明した。
後々に厄介を持ち込んで来そうだが、同じクラスにはすでに面倒な野郎がいる。
みなとへの態度次第では、ソイツに圧をかけておく必要がありそうだ。
「おい、そこの……」
「は、はい、何です?」
「みなとの情報は逐一、あたしに寄越せ! いいな?」
「お、お任せ下さい!」
鮫島とかいう奴は、常に腰が低いが目の奥に光る何かがあった。
みなとを知れるとはいえ、要警戒な野郎として伝えておくことにする。
そしてみなとを舎弟にしてから数日後、妙な野郎が絡んで来るようになった。
「あぁ、うぜえ! 何がおみ足だ、くそが!」
あたしを栢森と知ってか知らずか、高洲に出会う前から、ちょっかいを出して来る奴がいる。
コイツを逆に利用して、高洲に興味を持たせて近づけさせるのも、手かもしれないな。




