表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
3章:彼氏彼女じゃないわけで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

303/345

303.その言葉、禁忌につき


 一日だけの自由な時間は元カノあゆの監禁から始まり、自称許婚野郎に吹き飛ばされ、今は一応カノジョであるさよりが、俺を発見に至っている。


「み、湊! さっきから黙りこくって、何とか言ったらどうなの!!」


 ちょっと会わなかっただけで、状況判断も出来なくなるくらい退化したのか?


「……さ」

「言葉! 人の言葉をおっしゃいなさい!!」

「びょ……病院を呼べ」

「それを言うなら、救急車ではなくって? って、あら? あなた……ち、ちちちちちち……」


 やっと気付いたか。


 正確には血は出ていないが、この際どう誤解されても構わないから、早く病院に送って欲しい。


「こ、こうしてはいられないわ! 湊の背中はわたくしが守らなければ」

「……ぉぃ」

「え、えーと……この場合はおんぶが適切かしら? それとも……」


 逆のパターンはあったが、いくら何でもさよりが俺をおぶるとか、大丈夫かコイツ。


 しかも本体じゃなくて、背中を守るとか何を言っているのか。


「うーんうーん……重い……」

「だから……呼べと……」


 意識が落ちかけていたのに、さよりのせいで意識がハッキリして来た。


 何で俺を背負おうとしているのか、理解出来ない。


「きゃぁっ!?」

「ばっ――!?」

「うぅぅ……か、彼氏の危機に何も出来ない女になるつもりなんて無いのに……」


 正式な彼女としてでもないのに、コイツは意外に責任感があるようだ。


『そこの人、手伝おうか?』


 鮫浜と鮫島がいなくなったおかげか、心優しき人が通りがかるようになったか。


「ご心配に及びませんわ! こう見えても、わたくしは人並程度の力がありますの」


 人並だったら全然すごくないぞ。


 さよりの姿すらぼやけてよく見えないが、根拠のない自信で自分の胸を叩く姿が、容易に想像出来る。


「いや、あんたでは駄目だな。オレが連れて行く。外に出れば、こういうことが起きるって身をもって知っただろうからな」

「ど、どこへ連れて行くというの? 病院なら近くの……」

「そういうのもオレの仕事なんでね。……よっ……と」


 うおっ!?


 何か軽々と抱えられてしまったが、こいつは誰だ?


 声質からして男ではなく、逞しい女のようにも思えるが。


「じゃあ、連れて行くからな。あんたは家に帰りなよ!」

「おっ、お待ちなさい!! 誰の許可を得て、湊を連れて行くというのかしら?」

「誰って、もちろん栢森だけど?」

「か、栢森ですって!? あなたも栢森さんの関係者だというの?」

「そ。ついでに言うと、高洲湊専用の――」


 この声と栢森ってことは、こいつはユウか。


 以前は浅海が俺を護衛してくれていたが、今は男装する女に守られているとか情けないな。


 このままだと病院ではなく、南中女子寮に直行されてしばらく出られなくなりそうだ。


 何かないか何か。


 体中が痛くてどこでもいいから布団に入りたいが、このままだとさよりの前から、しばらくいなくなりそうな予感がする。


「湊専用の何ですって?」

「――聞きたい? あんた、この男の何?」


 元はと言えば嵐花の教育で南中に行かされたのであって、俺から望んだわけじゃない。


 こうなれば禁忌タブーな言葉を使うしか無いが、すでに聞き慣れた言葉なだけに効きそうにないかもしれない。


 力を振り絞って、さよりが答える前に答えてやる。


「……ざ、残念なカノジョ(さより)だ……」

「彼女? 釣り合わない感じの綺麗な女子だけど、彼女がいたのか?」

「あぁ、ユウに言うほどでもないくらい……残念――」

「残念だと思っているんなら、このままオレと一緒に戻って手当てを受け……」

「残念ながら、残念な奴でも残念と思えても、コイツは――」


 大事なことだから3回ほど連呼したが、やけに大人しいな。


 それを言われても、もはや耐性が付いてしまったか。


「うるさーーーーい!! うるさいうるさいうるさいうるさい!!」

「な、何だ?」


 やはり以前のような言葉の悪さは消えているが、言われて相当キレているのは確かか。


「ムカつく!! ムカつく! 悪いけれど、湊の面倒を見るのはこのわたくしの役目なの!! 栢森だからなんだというの!? 勝手に声をかけて来て、連れて行く許可を出した覚えなど無くってよ!」


 あまり使いたくなかった禁忌だが、火事場の底力を発揮しそうだ。


「おっ……? 何だ、あんたもやれば出来る女って奴か」

「湊はわたくしが連れて行くわ! 栢森にはそう伝えて頂戴!!」


 とにかく病院に連れて行ってくれるだけでいいのに、何でこうもトラブルを呼び込むのか。


「……好きにしなよ。今日一日だけは、自由にさせてるし。明日になったらオレじゃなくても、貸しをあげた女が取り戻しに来るだろうしな」

「と、とにかく湊を返しなさい!」

「変わった女だ……返すから、手当てをしてあげな」


 俺を抱え上げていたユウは俺を下ろし、力の抜けた腕をさよりに預けて、この場から離れたようだ。


「バカッ!! 湊の大馬鹿野郎!! 無駄に優しくするから、次々と狙われるって何故気付かないの!」

「びょ……病院……」

「ウザいウザいウザい!! 何でこんな男に――」


 そこそこキレているが、さっきまで感じられなかったバカ力を出して、俺をおぶっている。


 いや、携帯で誰か呼んでくれ。


「あなたがどこで何をしていても、わたくしはあなたのことが――」


 何やらさよりが呟いていたが、限界が来たのか視界は真っ暗になり、そのまま眠ってしまう。


 あゆと鮫島のことも気になるが、今はさよりに委ねることにした。


「さよ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ