301.さよりさん、目撃するSS
「全く! 湊は一体どういうつもりをしているのかしら!」
さよりは俺と彼女契約を交わしたあと、ずっと納得が行かないままで、街中を彷徨い続けていた。
「いつもはぐらかすし、たった二文字の気持ちも口にしないし、あんなに根性が腐った野郎だなんて、思わなかったわ!」
などなど、誰にでも聞こえる声量の独り言が、洩れまくりだった。
『ははは、顔だけは綺麗なのに、妄想癖とか。独り言洩れてんぞ?』
周りが見えずに歩き続けるのは、さよりの悪い習性だが、相変わらずトラブル野郎を呼んでしまうらしい。
「頭に来ているせいで、雑音が聞こえて来るわ。これも全てあの男のせい!!」
「おい、シカトすんなよ! 一応令嬢だろ、あんた」
「ふふん、当然ね! そういうあなたは……鮫なんとか」
「いい加減覚えろよ、残念美少女が!!」
「はぁ~……やはり違うわね。そうやって心に余裕が無い対応をして来る辺りが、アレと違う所なのかしらね」
「あ?」
さよりと遭遇する確率が何故か高い鮫島もまた、あゆを探してうろついていたようだ。
「あゆなら近くにいないのだけれど、いたとしてもあなたとは不釣り合いだと思うわ」
「高洲とはお似合いってか?」
「……それも違うわ。湊はあゆに近づいているんじゃなくて、様子を見ながら彼女の言うことに素直なだけなの。どうしようもない男だわ」
「そうだろ? どうしようもねえ奴だからこそ、鮫浜に相手をされてんのが気に入らねえ!」
さよりは鮫島の言葉に、何も答えなかった。
「ところで、あなたいつも声をかけて来るけれど、寂しいのかしら? 友達もいなさそうだし……」
「一応いるぜ? 最近はお互い忙しくて会ってねえだけで」
「負け惜しみ……そんなところみたいね。どうでもいいけれど」
「そういうあんたも、何が良くて高洲に付きまとっているのか、思い直せばいいものを」
お互い様と言いたかったさよりは、またしても押し黙った。
それくらい鮫島は、面倒くさい男と認めたらしい。
「あらっ? アレは……あゆ?」
「あんた目だけはいいんだな。サンキュー! 彼女に会えればそれで……あん?」
「……そういうことなのね」
「悪いが俺は高洲を許すつもりは無いんでな。あんたは帰れよ」
「くだらないわ」
「あぁ、そうかよ」
さよりと鮫島が目撃したのは、あゆに連れられている高洲湊の姿だ。
鮫島は迷うことなく、あゆがいる所に向かって行く。
「……あの学校に行っているはずの湊が、どうしてあゆといるのかなんて……本当に、どうしようもない男。わたしはアレの為に、出来ることをやるしかないんだわ」




