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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第二章:美少女たちの恋活祭り

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30.鮫浜あゆと恋の目覚め。 後編


 どこの救世主? かとも思ったけど、あゆ一人では俺を助けることは出来ないのではないだろうか。いくら病み属性が強くても、いかにもな連中も部屋から出て来たし。そもそも入江先輩自体の力がやばいぞ。


「キミ、誰? というか、同じ学園の子かな?」

「……」

「シカトかな? まぁ、別にいいけど。高洲くんは私が連れて来たんだよね。だから帰さないよ?」

「湊……目をつぶる」

「え? あ、うん」

 手は入江先輩に掴まれたままだ。それでも何か得体のしれない闇の力でも使ってくれそうな期待を込めて、俺は言う通りに目をつぶった。というか、その途端に意識も落ちたよ? ちょっとあゆちゃん? 何をした。


 入江先輩の声も聞こえず、周りの音も何もかもが聞こえずに、俺はどこかのベッドの上で眠っていたらしい。もちろん、全く見たことも無い天井だ。もしや人体実験ですか?


「おはよ、湊」

「お、おおはよう? こ、ここはどこかな? というか、先輩は?」

「先輩なんて知らない。ここはわたしの部屋。湊が寝ているベッドはわたしのベッド」

「何ですと! こ、これはまずいじゃないか! ご、ごめん、起き上が――あらっ? 起き上がれませんよ?」

「ふふっ、いい子」

「おっふ。いや、撫でるのは俺の役目であって、あゆちゃんがするのは……」

「ううん、湊はわたしの弟でもあるし、兄でもあるし……それに――でもあるから」

 聞こえなかったけど、兄と弟ってことは姉でもあって妹でもあるバージョンか? いや、それにしたって動けないのは非常にまずい。しかもあゆのベッドってそれって。


「――湊、好き」

 え? 今なんて言った? 幻聴かな。薬か何かの効果が強いせいか、まるでふわふわと体が浮いているような感覚なのだが、手足は麻痺か何かでびくともしないし、仰向け状態で天井しか見えない。耳も通常の状態じゃない。こんな非常事態な状態で何かを言われたりされても、それが本当かどうか分からんじゃないか。


「湊にあげるからね」

「ふぁっ? な、何を」

「初めての――」

「まてまてまて! そりゃあ早いぞ! 付き合ってないんだぞ? 好きかどうかもハッキリしてないのにそれはあかんぞ! あゆちゃん、俺なんかに早まるな! 制服姿、いや……制服だけでいいじゃないか」

「嫌いじゃない」

「それはそうだけど……いやっ、落ち着け。あゆちゃんは可愛いし、その微笑みには男の誰もが好きになるんだぞ? 俺なんかに使っては勿体ないぞ」

「うん」

「おぉ、分かってくれたかな?」

「あげる」

「ちょ、ま――!」

「んんっ――ぁ……はぁっ――」

「い、息が出来ない……あ、あゆちゃん、落ち着い……ぬぐぐぐ」

 身動きも取れない状態でのキスは、どうすることも出来なかった。受け入れるしか出来ない。これがあゆの初めてのキスなのか? それにしては大胆すぎるし、息も出来ないし、ものすごく魂ごと吸われている気がするんだけど。俺は生きているよね?


「ここも触れていい」

「ふぉっ! そこはさよりには絶対ないオムネさん!」

「さよちゃんのも触った? でも、わたしのは全て触っていい」

 何が悔しくて泣けるかというと、さよりの時はほぼ背中しか触れていなかった。それは事実である。あいつが勝手に勘違いして胸を触れられたとかキレていたけど、そんな感触は無かった。だけど今回は本物です。それなのに、俺の手の感触は何も感じられず見たままで答えると、とてもふわふわな感じのする丸くて柔らかそうな何かである。だが何も感じない。俺の手をあゆが勝手に動かしているだけでございます。だから、キスだけが妙に生々しく感じられた。キスだけはあゆの気持ちそのものが注がれた感じだった。嫌いじゃないってだけで、あんな息も出来ないくらいのキスをしてくるのだろうか。俺だったら出来ない。


 キスと言えば、前に俺の家で姫ちゃんとしたけど、それと似たような気持ちを感じることが出来た。これって、あゆの気持ちってことなんだよな。嫌いじゃない。だけど、好きとは言えない気持ち、か。こんな気持ちは俺も初めて、いや、姫ちゃんを想う気持ちに似ているかもしれない。ずっとあゆには好かれていないと思っていた。だけど、嫌いでもないと言っていた。友達で隣近所で時々不法侵入してくる、恐ろしい子くらいにしか思っていなかった。それが何でこんな気持ちになるんだよ。


「俺のことが好きなの?」

「――分からない。嫌いじゃない……」

「俺は……あゆが――気になる。気になってる……だから俺は――」

 言いかけた所で意識が途絶えた。というか、落ちた。本当に一体何をされたのかまるで見当がつかない。そういうところが不思議すぎて、少し怖れを感じているのかもしれない。


「湊はまだ知らなくていい。少しずつ……少しずつ、わたしだけを知ればいい。さよちゃんにも、他の誰にも湊は渡さない。あなたはわたしが守るから――」

 夢を見た。というか、出てきた。入江先輩に連れられた怪しげなビルに一人現れたあゆ。のはずだったが、よくよく見ると、本物のイケメンが俺に微笑んでいるじゃないか。浅海かな? 浅海だよね。


「しょうがないなぁ、湊は。あんまり男っぽい所は見られたくないんだけど、鮫浜さんに頼まれるのなんてほとんどないし、俺は本気を出すよ。いいんだね?」

「ん、平気、湊の意識はもう無い。好きなだけ暴れていい」

「おっしゃ! じゃあ、そういうことなので入江先輩? 俺、女性でも容赦なくおしおきしますよ?」

「や、やめっ……」

「うん、嘘。女性は傷つけないよ。湊もそうだろうし、だけど先輩。湊にひどい目見せるとか、遭わせようとするなら、俺はたとえ女性でも痛めつけるよ? だから湊にはこれからも普通に接してくれないかな?」

「は……い。ごめんなさい」

 おぉ? さすが本物のイケメン! そしてよく見えないけど、何その強さは! 確か中学の時は黙ってやられていたんじゃなかったのかな? それを俺が助け出したわけだけど。浅海に惚れちゃうじゃないか!


「おし、お掃除完了! こいつらはどうする?」

「すでに手配。浅海は家に帰っていい。ありがと」

「うん、わかった。湊は俺の大事なダチなんだ。だけど、鮫浜さんでもいいし池谷さんでも、どっちでもいいけど、彼を本気で好きになって欲しいんだよ。俺も大好きなんだ。俺が本当の女だったら、どこかに連れ去りたいくらい、好きなんだ。だから今は本気になれなくても、いつか好きになって欲しいんだ」

「ん。分かった」

 あれ? 浅海ルート確定来た? いい男すぎるじゃないか。どうしてくれるの、この胸のトキメキ。ああ、くそう。意識が失われていくじゃないか。真面目にあゆちゃん、この症状は何なんですか?


「……って、あれ?」

 知っている天井どころか、お母さん? 随分久しぶりすぎるんだが。

「あんた、湊! いつまで寝てんの? ただいまーって言ったのに、おかえりも言わないで寝てばっかりとか、お母さんたちが留守にしたからって、寝てばかりだったんじゃないわよね?」

「そんなわけないだろ! おかえり」

「部屋も散らかし放題だし、何やってんだか。ご飯作ってるから早く下に降りてらっしゃい」

「う、うん」

 って、夜か? 確か俺はあゆの部屋のベッドに寝ていて、濃厚すぎるキスを頂いたはずなのに。まさかの夢落ちか? いやそんなはずは。浅海にも恋をしかけたしな。でも今のこの気持ちは、明らかにあゆに向けたものだ。苦手意識を感じて接していたけど、俺は鮫浜あゆが気になっている。嫌われてはいないのだから、本当に気づいたら俺は、あゆに気持ちを伝えたい。今はまだ、誰に気持ちを伝えていいのかなんて俺には分からない。でも、あゆのことが気になる、気になるよ。明日学校で話をしよう。あゆと話を――。

キャラクター紹介 高洲たかす みなと


身長172㎝。体重68㎏。

中学にアニメと中の人にハマった関係で、非モテ確定。美少女姿の浅海と出会ったことで、本物の美少女を求めるようになる。その際に抱きあい、胸がなかったことに失望&男と判明。以後は、完全な美少女だけを理想とするようになる。


背中がかなりイケていて、後ろ姿は間違いなくイケメン。また声もイケボな為、後ろ姿の湊は女子を骨抜きに出来ることで有名になった。


自分の家の両隣にワケありな美少女転校生が越してきたことで、嬉しいやら悲しいやらで戸惑いがある。また、道路を挟んだ正面の家や、裏の家など転勤家族が多い為にそうした出会いが多い。


美少女な彼女を作り、幸せになることを目標にしている。

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