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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第二章:美少女たちの恋活祭り

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29.鮫浜あゆと恋の目覚め。 中編


「鮫浜さん、大丈夫? 全く、背中ごときが偉ぶってんじゃねえっての!」

「湊のこと悪く言うのは許さない……彼のことは良く知っている。関係ないのに、こんな時にだけ優しくしてくるとか、あり得ない……」

「え、そんなつもりは。ご、ごめんね、鮫浜さん」

「湊は渡さない……彼。彼だけは私の……」

「本当にごめんなさいっ」

 

 やっちまったああああ! 昨日の今日での流れであゆに怒りをぶつけるとか、何なの俺。ちいせえ野郎と罵ってくれても泣かないよ? ずっとバイト先で告って来た入江先輩に誘われたってだけなのに、舞い上がりすぎた。紹介された岬先輩は、恋とかそんなのに進めそうな先輩でもないからそれはいいとしても、入江先輩ルートに進めそうなのに、こんなチャンスはほぼ無いだけによりにもよって、あゆに当たってしまった。しかも何もあんな余計なことまで言わなくても良かったじゃないか。確かにあゆは俺のことは好きでも何でもない。でも嫌われてはいないし、どっちかというと遊ばれてる感があるがそれは嫌じゃなかった。俺が勝手に苦手意識を持ってしまっただけなんだ。とりあえず、放課後は入江先輩とデートなんだ。それでどうなるもんでもないだろうし、あゆには後で大いなる土下座を実行しよう。ごめんな、あゆ。


 放課後になるまでの授業時間は、そわそわしつつどうにも気持ちが落ち着かなくなっていた。入江先輩と会うことも関係しているし、あゆに悪いことをしたという罪悪感を抱えてしまっていたからだ。彼女は俺の方を見てくることは無く、いつも通りに授業を真面目に聞かず、何かの本を真面目に読み続けていた。以前はしつけに関する内容だった気がするけど、今回は何を読んでいるのだろうか。とは言っても、今は話しかけることは出来ない。全ては入江先輩とのデートが終わったら、そしたら俺からあゆの家を訪れよう。


「……反抗期にはおしおきと、甘々。ふふ――」


 あゆが自分の席で何かを呟いていたらしいが、それはさすがに聞こえなかった。そして放課後になって、約束通りに入江先輩が堂々と前の方から教室の中に向かって声をかけてきた。さすが上級生。そこに憧れます。先輩が俺を呼んだ時には、あゆもさよりもいたし、浅海も俺と先輩を交互に見つめていた。それでも特に声はかけてこなかった。まぁ、デートなんだしそもそも今教室内に漂っている重苦しい雰囲気も先輩には無関係だ。黙って先輩について行こう。


「どうかした? 高洲くん」

「い、いえっ、た、楽しみだなぁと」

「だよねー! わたしも高洲くんとこうして出かけられるなんて夢みたい!」

「そ、そんな大したことじゃないですよ。いつもバイトで会ってたじゃないですか」

「バイトと外では違うよ。だからキミの告白も受けられなかったんだ。今でも好き?」

 ぬお? 浅海の言った通りじゃないか。やはり仕事中というか、そこでの想いは別物だったってことか。ううむ、そして好きとか聞かれて俺はもちろん、答えよう。非モテ脱出のビッグなチャンスだ。


「好きです。変わってないですよ、俺の気持ちは。それはバイトの中だけの気持ちじゃなくて……」

 いや、何かおかしいな。あれだけ仕事中に好きだのなんだのと告りまくっていたのに、外で出会ってる先輩に対して、どうにも何とも言えない気がする。ずっと好きなのに、なのに。


「そっか、そっかー! じゃあ、合格! 高洲くん。わたしといい所に行こうか」

「へ? 合格……? い、いい所ですか? そ、それはどこに」

「手、掴むね。っていうか、手を繋ごうか。恋人繋ぎすれば、離れられないだろうし……ね?」

「恋人繋ぎですか? そ、それは伝説の――」

「あはっ、伝説って大げさだなぁ。とにかく、行こうよ」

「あ、はい」

 学園を出て、てっきり向かう先は定番の映画館だったり水族館だったり、まぁ、水族館は遠いけど。もしくは適当なカフェでも行くのかと思っていた。そして、先輩は俺の手をがっちりと繋いでいて、指先から温もりさえ感じられるような錯覚に陥っていた。そして知る。俺は何も知らないガキだったのだと。昼休みに紹介された岬先輩こそ怪しいと思っていたのに、まさか入江先輩がそんな人だなんて思うはずも無かった。


「着いたよ。ささ、中に入って。入口のテーブルに名前と住所と電話番号を書いてね」

「え? 名前は分かりますけど、どうして住所と電話を? ここは何なんですか? 先輩?」

「まぁまぁ、書くだけだから」

 これはもしや? いや、怪しいのは岬先輩ではなくて、入江先輩だったのか? マジか。入江ルートで非モテ脱出の夢がまさか、こんな怪しすぎる集会の手引きとかショックすぎる。確かにバイト先以外で出会ったことは無かったし、急に学園で声をかけてきたのは何でだろうとは思ってたけど、まさかこんな。もちろん、部屋の中がどうなっていて、怪しいかどうかも分からないけど、入り口で何かよく分からない名簿記入になってるし、そもそも店じゃないし。デートでこんなよく分からない所に来ること自体があり得ん。


「いや、俺帰ります。俺、用事があるんです。先輩とデートってことに何か期待しすぎたみたいです。そもそも先輩は俺のこと好きなんですか?」

「好きだよ? だから一緒にここに来たんだよ。それの何が不満なのかな?」

「前にバイト先で言われたことをそっくり返しますが、今の先輩には心がこもってないです。俺が好きな先輩はこんなんじゃなかった。なので、帰ります。昼休みは誘ってくれてありがとうでした」

 ふ、これでファミレスが再開されても俺は同じところにはバイト出来なさそうだな。店長も変わるし、そもそも気軽な名も無きファミレスでもないだろうし。他にどこかバイトを探すしかないか。


「……帰さないよ? 何で帰っちゃうの? 名前その他を書くだけで怪しいとか、それってひどくない? 私が高洲くんに何かひどいことでもした? 中に入ってもいないのにそれはどうなのかな」

「それがあり得ないんですよ。なので、帰ります……くっ」

「うふふ、恋人繋ぎはがっちりと。だよ? 高洲くん」

 なんつう力なのこの人。嫌だあああ! こんなんで非モテ脱出の夢を潰えてしまうとかあり得ーん。誰かヘルプミー! 何て言ってもそもそも俺の居場所を知る奴はいないしな。なんて思っていたけど、俺を追走してくれている彼女がいたよ? 普段は恐ろしい行為なのに、来てたよこの子。マジっすか?


「湊……帰ろ?」

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