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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第6章:見えない何かからの逃避

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198.ろりっ子は一筋縄ではいかない


「いやぁ~ど、どうぞ、お構いなく」

「いいえ、娘のパートナーとなられるお方には、上座に座して頂かないと困りますの」

「湊さま、どうして駄目なのです?」


 上座っていうと、身分が高い人が座る席の場所なことくらい分かる。分かるが、これは果たして上座と言っていいのか。


「あっ……んっ! 湊さま、そんなに動かれると……」

「申し訳ありません……や、やっぱり無理です!」

「あぁっ!? 湊さまぁ~」

「いや……ルリは一人で座ってくれるかな? しかもお母さんが見ている前なわけだし……」

「ルリは気にしないです。お母様も認めています」

「とにかく無理だから」


 上座に正座するまではまだ良かったのに、あろうことかルリがその上に座って来たのには参るしか無かった。


 すっぽりとおさまる小さな体が、正座している俺の上に座って来るのは何の拷問だというのか。


 しかも親が見ている前で堂々としてくるし、親も遠慮なくとか言ってくるあたり、公開処刑に近い。


 この時ばかりは、上に座っていたルリを抱っこして、ひょいと隣に降ろした。


 傍目には兄と妹の仲睦まじい様子に見えなくもないが、一応彼氏彼女という関係であれば、それをすることの意味合いが異なってくる。


「湊さま、お部屋ではしてくれるのです?」

「それはまだ早いよ。出会ったばかりでそこまでじゃないのに、さすがに……」

「……案外お堅い思考なんだ……ふぅん」


 ちょいちょい本音をそのまま発言するルリを、黙って見過ごしているが、普段は相当猫かぶりと見た。


 そういえば転校する前の学校は、女子だけだったと聞いたけど、この子も何かのクセがあるのか。


「ルリは西下高校だったかな?」

「はい! 興味があるのです?」

「もしかして、しず……いや、お姉さまと呼んでいる人がいたんじゃないかなと思ってね」


 学園に転校して来たしずは鮫浜のいとこだったが、それに関係なくいい女だった。


 それに引き換え、俺のことを様付けで呼んできた女子はとんでもなかっただけに、トラウマがある。


「……どうしてそれを? 嵐花お姉さまにお聞きしたのです?」

「違うよ。でも、友達に西下高校からの子がいるから気になっただけ」

「――でしょうね」

「ん? 何か――」

「いいえ、湊さまが気になさることなんて何一つありませんの」


 最初はエビとか呼んでいた子が、俺をすぐに慕うようになっていたが、やはりか。


「そういえば、報告は済んだのかな? 何か急いでいたみたいだけど」

「はい、それはもう……すぐでした」

「それはよかった」


 湖上家の車に乗せられてきた俺は、さぞやご立派過ぎる邸宅かと期待していた。


 しかし車から見ていた景色は、知らぬ間にトンネルに入り、そのまま駐車場に突入していたので、邸宅の外観は見ることが出来なかった。


 そこから厳重な警護に囲まれながら屋敷の中に通されたので、内装は不明だ。


 さすがに母親がいる大広間らしきお座敷は見ることが出来たが、きょろきょろすると罰せられそうなくらいの監視人がいたので、ルリだけに集中した。


「湊さま……少ししたら、もっともっとも~~っと! 近くにいられることになります! お楽しみにお待ちいただけたらと思います」

「近くに?」

「はい! 湊さまの傍にはお姉さま以外では、ルリしか認められませんから」

「……ん?」

「……それでは湊さま。お母様にも許されましたので、湊さまを開放します」


 どうやら何かの許可の為だけに俺を連れて来たらしい。


 嵐花の前では、か弱きロリっ子そのもので甘えまくりで常識知らずの女の子だと感じていたのに、俺の記憶の中にいる、狡賢そうな女の子に思えるのは気のせいだろうか。


「ルリはいつでも湊さまを見守り致しますわ……じゃあ、名残惜しいですけど……」

「じゃあまたね、ルリ」

「教室にもお会いしに行ってよろしいですか?」

「学年が違うから、無理しなくていいからね」

「い、嫌なのです……?」

「そ、そうじゃないからね?」


 年下の子は苦手だ……というか、姫のことがあってか、油断してはいけない本能が働いている。


 この子だけは本当に甘々なロリっ子だと思っていたのに、所々に感じる言葉の違和感には嫌な予感しかしない。


「ルリは同じ過ちはしないのです……だから、湊さまには不快な思いにはしないのです」

「え、うん?」


 心の中でも漏れ聞こえたのかは定かではないが、お別れの時には切ない表情になっていた。


 車は見慣れた場所に着いていて、見送りも無く降ろされたものの、それはかえって気楽に思えた。


 ――って、ここは学校の近くじゃないか! 


 しかも夕暮れ時に俺の家から遠い所に降ろすとか、何のお仕置きなんだ。


「独り言の高洲……家出?」

「家出じゃなくて……お前、えっと……」

「恩人の名前忘れた?」

「待て、思い出す」

「歩きながら思い出して。夕ご飯食べれば思い出すから……」

「ご飯を奢ってくれるのか? なら、ついて行く」


 しばらく嵐花とかさよりとか、ルリといった令嬢ばかりにしか会っていなかったせいか、庶民っぽい子の名前をド忘れしていた。


 しかしこの萌えるような可愛い声といい、俺より背が高い女子の名前は何だったか。


 自宅から遠い場所に置き去りにされ、家に電話したとしても夕飯には間に合いそうに無かっただけに、ご飯の奢りはありがたかった。


「泊まる?」

「泊まる仲だったか?」

「高洲とは裸で添い寝した仲。大丈夫」

「それならいいか」


 普段なら首を縦に振ることは無かったはずだが、ルリの家でトラウマ発動したこともあったので、考えることを放棄していたようだ。


 裸で添い寝とか、普通じゃないことくらい分かるが、全てが疲れていた。


「今日はチャリがないね?」

「あ、あー……気づいたらそこにいたっていうか」


 朝からサボっていたのが正解だが、気付いたら夕方だった。


「高洲は焦ってるのが見える」

「へ?」

「だからまずは、ご飯大盛り」

「ご馳走になれるなら遠慮なく食べるけど、いや、焦ってないぞ」

「いつもよりも優しくするようにするから」

「ありがとう?」

「もう少しだからついて来て」

「分かった」

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