195.某闇天使は、やり直したいSS②
湊くんはいまどうしているんだろう? 私のことは嫌いになったのかな。
あれだけ不法侵入して会いに行っていたのに、今はこんなにも遠くて儚いなんて思わなかった。
逐一報告をして来る山女明海は、言って来なくてもいいことを伝えて来る。それは私には得ではなく、胸の中にくすぶりが残るだけ。
「……以上です」
「さよりが追いかけて転校……ね。予想はしていましたけど、妹もですよね?」
「妹は学園に来る予定だったのを変えて、あの学校に入学をしたとのことですから、関連は無いのでは?」
「あの妹は私に近づいた女。事前に湊くんが転校させられることを知っていたのは、間違いない」
「まさか、そんな……」
調子に乗って妹を引き込んだのは私の失敗だった。
落ち込んだところで湊くんは戻らないし戻せない。私が今出来るのは、使える人間を使って湊くんの様子を確かめてもらうだけだ。
学園にはもう、使えそうな人間は残っていない。使っても害にしかならないあの男は、後で使うとしても。
「明海」
「はい」
「浮間と上福岡をここに呼んで」
「え? 浮間というと、鮫浜に反抗し続けたチンピラですよね? 何故……」
「理由なんてない。とにかく呼ぶ!」
結局、チンピラに成り下がった男は、捨て駒として使える。湊くんに使うのは嫌だけど……
「上福岡というと、高洲湊の友達でしたか?」
「そう聞いてる。使えるから呼ぶ」
「では、そうしますが……他に候補をピックアップしますか?」
「任せるから」
湊くんに間接的に近付くためならどんな手段でも取る。たとえそれが、会長でも。
「浅海、いる?」
「いつでもいますよ。何か?」
「浅海は今日を持って、鮫浜との関わりを解除。今後は自由の身だから、お好きなように……」
「俺のことは飽きたんです?」
「好きな人の傍に行きたいなら行っていい」
「なるほどね。心変わりってやつですか。母方には何と?」
「今言った通りのことを言えば通じる。そういうことだから、私への好意、義理……全て消して構わない」
八十島浅海は古くから鮫浜に仕えているし、浅海とは付き合ってもいた。
湊くんを見つけなければ、浅海でいいとも思っていたけど、今になって許婚なんてそれはあんまりだ。
「俺のことは嫌いに?」
「どちらでもない。あなたもそうでしょ? 私と湊くん……どちらを選ぶ?」
「……ま、ご想像に」
男の浅海は、湊くんの前でだけ男の娘となり、湊くんの好みのタイプを演じる。
その気は無いにしても、内面で惹かれてしまったのか、男の娘よりも女に近くなってすらいる。
「俺はあゆさんを助けない。それでいいんでしょ?」
「いいけど、さよりは――」
「それは別なので」
「そう。それでいい」
さよりと浅海の因果関係が薄まることはないのだろうけど、私にはどうでもいいこと。
それよりも、湊くんに近づくための人間をもっと、もっと集めなければ……




