194.下僕先輩、さよりさんを暴走させてしまう
よりにもよってさよりと一緒にいる時に、二度と会わないと思っていた野郎と会うとか、どういう偶然なのか。
「おいおいおい~? お前、土下座先輩だろ? 何とか言えよ、おい」
「違うな。下僕先輩だ! 土下座じゃないな。そういうお前は、モブ間だったか?」
「浮間だ! くそが! 真っ昼間に学校サボって女連れまわすなんて、いいご身分じゃねえかよ? あ?」
やはりコイツか。鮫浜とか、浅海にやられて学園追放までされたくせに、元気になったら懲りずに復活とか、そういう意味では転校したことは正解と言える。
さよりは俺の後ろに控えているが、恐らくすぐに気付いたのか、口を閉ざして下を向いている。
「下僕が鮫浜に守られてイキりやがって! 女連れでいい気になってやがる」
「そういう浮間は、ぼっちを堪能して昼間からお散歩か? いい身分じゃないか」
さよりがいる以上は、こっちもあまり事を荒立てなくないのが事実だが、浮間には本当に腹が立っているだけに、心の声が素直に出まくりだ。
「高洲! てめえのせいで学園にもいられねえし、やばい奴等に追われまくっていた毎日だった……卑怯者が!」
「知らん。悪いけど、鮫浜とは無関係だ。今は俺だってここに来ることはほとんどない。怒られても困るな」
「へぇ、そうかよ? さっきから後ろでビクついている女を置いていけよ。なら、許してやるよ」
何故に許されねばならんのか、そういやコイツはさよりの唇を奪った野郎だった。
「俺は浮間を許さないけどな」
「は? 誰が許さねえって? ってか、後ろの女はアレだよな? 顔が綺麗なだけの残念な女……名前は……」
「……っ!」
「悪いがそいつは残念な女じゃないな。浮間には分からないだろうけどな!」
どうやら相当なトラウマが発動したらしいさよりは、体を震わせながら目を合わせないようにしている。
だが今は昔と違うことが出来るので、浮間ごときに見せつければ泣いて逃げ出す可能性がある。
「(さより、腰に触れるが悲鳴を出すなよ?)」
「(ええっ?! こ、腰にですって……こ、困るわ困るわ……きゃぅっ!?)」
可愛いからやめてくれマジで。
「なっ!? ソイツとどういう関係になってやがんだ?」
今の時点で嘘ではないし、仮交際であってもキスじゃないことをするのはセーフのはず。
「見ての通りだ。コイツは、俺の女だ! 浮間なんぞに釣り合わない極上すぎる女なんだよ! 下僕先輩の俺に抱きかかえられても、抵抗しないのがいい証拠だ」
「思い出した……ソイツ、俺が唇奪った池谷さよりって奴だろ? へぇ、そうかよ? てっきり鮫浜とそういう関係になっていやがると思っていたら、ソイツとね……へぇ?」
思ったよりもダメージ受けてないな。しかも唇を奪ったことを、武勲のようにいつまでも言っているってことは、さよりに振られたことを根に持っていると見た。
「……鮫浜に報告しといてやるよ? なぁ、鮫浜の元カレさんよ」
「別に構わんぞ。俺は鮫浜とは無関係だからな。それを報告して金でも貰うつもりがあるなら、自由にすればいいんじゃね?」
「……高洲は鮫浜のことを何も分かってねえな……まぁいいけどよ。別の学校に行った奴等が、ここに戻って来てる時点で、素直に帰れるとか思ってんなら、それこそ俺以上にえらい目に遭うだろうぜ?」
「どうでもいいな。というか……俺とコイツの前から消えろ、浮間!」
「……今は消えてやるよ。高洲には思い出のように仲間を仕向けてやるから、楽しみにしとけ! くそが!」
思い出のようにって思い出なんかないし、浮間ですら思い出すのが怪しかったのに、他に男なんていただろうか。
意外とあっさり引き下がったのは少し気にはなるが、さよりに何かあるのは許せないだけに良かった。
「てことで、手を離すぞっ――って……ど、どうした?」
「湊が湊が……とうとうとう?!」
「落ち着け。こ、腰に触れただけでその先には触れてないんだからな? 勘違いしちゃ駄目だぞ」
「お、お父様の会社に行きましょ! い、今すぐ!」
「へ? 会社に?」




