183.とある年上女子の報告会SS 第三回
不覚だった……まさか、彼を取り巻く女子の関係が全く違っていたなんて。
それはともかく、今日も今日とて、人けのない会議室で話をしている。
「あゆさん、申し訳ありません。私ではもう……」
「期待していなかった。所詮、社員であって恋を本気でしたいとかでは無かった。無かったでしょ?」
「い、いえ……でも、彼は確かに年上に惹かれる傾向が……」
「姫は年下。さよりは同い年だけど? それについて何か言い分はある?」
あれ、あゆさんには池谷姉妹のことが伝わっていないのかな。
「言い分なんて無いです。あの、私はどうしますか? 引き続き、高洲君の近くにいて見張りますか? しかし……」
「彼の動向を見ていてくれる? そろそろ湊くんに仕掛けそうな気がするから」
「……直接お会いにならないのですか?」
「駄目。湊くんが分かってしまう。彼はわたしよりもタチが悪い人で容赦がない……湊くんに気づかせては駄目」
結局、あゆさんは後悔している。
好きになっていたくせに、どうして転校させたのか。
「もういいんじゃないでしょうか?」
「どういう意味?」
「高洲君をもう一度戻して、鮫浜で守ればよろしいのでは? 転校までさせても、いい方向にはなっていませんし……いい加減、あゆさんのことを気にさせなくてもよろしいかと……」
「明海のくせにわたしに意見するんだ? あなた、自分の身は誰に守られているかご存じ?」
「……脅しですか?」
今のところ、あゆさんの上……会長クラスが表に出て来ていない。
だけど、あの人の動き次第では鮫浜本体が動くかもしれない。
高洲君には全く関係の無い、黒い世界の人たちがあゆさんを駆り立てそうで、嫌な感じがする。
「湊くんのことは好き。好きだから、離れた。それの何が不思議なこと?」
あゆさんの本音がようやく聞けた。
どうしてその気持ちを本人に伝えてあげられなかったのかな。
分かりやすく伝えてあげれば、高洲君はあゆさんだけを愛したはずなのに。
「危険な目に遭わせたくないがための別れなのは分かりますけど、よりを戻したくはないんですか?」
「湊くん、怒ってる?」
「それは……」
あゆさんが自分の気持ちに素直になっても、それはもう遅いのかもしれない。
「わたしもあの学校に転校して、湊くんに――」
「それは危険です! あゆさんが転校すると全てが崩れます! あの人が高洲君の近くにいるんです。それでも行かれますか? 私は反対です!」
「……湊くんに会いたい。会いたくなった。どうすれば湊くんに会える? 明海、どうすれば?」
今さら素直になられても正直言って、困る。
鮫浜あゆといえば、気持ちを言葉に出さずに、容赦なく汚れ的なことを下して来た人。
「私を転校させてください。そして、あの人に交渉をします……あゆさんが転校するということは、学園が乗っ取られますが、本当にそれでいいのですか? 高洲君を学園に戻せばいいだけのことでは?」
「やれるものならやってる……だけど、湊くんは鮫浜と無関係。転校させた時点で、鮫浜の守りを得られなくなったし、そうしたのもわたし」
本当にどうして今になって、高洲君なのだろう。
そんなタイミングを見計らうように、部屋の中には浅海が立っていた。
『俺が行きますよ? あゆさん……』
「浅海? それは男の姿として? それとも」
「湊の傍に行くなら、あの姿でしか行きませんよ。そうすることが湊を素直にさせるって、ご存じですよね?」
「じゃあ明海はあの人に交渉して! 明海とあの人がいなくなったら、浅海……あなたが湊くんの傍に」
「俺はあゆさんよりも、湊を守りますよ? それでもよければ転校しますけど……」
「それでいい……明日、会長に伝えに行く。浅海は母に伝えなさい」
浅海を転校させて、私は用済みか。
これも筋書き通りなのかも。
会長……自分の父親に会いに行くなんて、初めて聞いた。
「浅海……湊くんは、わたしのことを何か……」
「……いえ、特には何も」
「そう……やっぱり恨まれたまま終わる、終わるのかな……気付いた、気付いたのに……」
高洲君に会いたいとか、今さら遅い。
鮫浜なんて消えてしまえばいいのに――




