179.令嬢による候補の為の教育 B-2
栢森嵐花も、ある意味では権限者なのかもしれない。
しかし鮫浜と違って闇ではなく、堂々とした令嬢だ。
今立っているお屋敷の中も、常に使用人らしき人が忙しそうにしているし、それぞれでリーダーっぽい人がいるのか、的確な指示を与えて動いている。
ルリの転校手続きを嵐花自身がやるという、何とも豪快な令嬢と言わざるを得ないだろう。
「湊……さま」
「うん? どうかしたのかな? ルリ」
「ルリね、お着替えしたいの……お部屋に来て欲しいの」
「着替え? あぁ、そっか。さすがにヒラヒラスカートのままでは動きづらいよね」
「お姉さまみたいに動きやすくなりたいの」
「嵐花はどこに行ったのかな。嵐花がいないと俺も身動きが取れないんだよ」
高そうでゴージャスな身なりをしているルリは、間違いなくお金持ちのお嬢様で疑いが無い。
とはいえ、転校してくるとなれば、さすがに服装ももっとラフな格好にするべきだろうし、誰かお付きの者でもいないと、危なっかしい気がしてならない。
「えっと、ルリは護衛の人とかお付きの人は近くにいないのかな?」
「外にいるの」
「あぁ、そうだよね」
西下高校ではどうなのか知らないが、うちの学校に転校して来た時も、お付きの人間を傍に置くのだろうか。
学年も違うから様子を見に行くわけにもいかないし、何より姫がいる学年なので油断出来ない。
『みなと~! ルリ! 待たせたな。部屋を案内するからついて来いよ!』
1時間も経たないうちに戻って来た嵐花だが、どうやら手続きを済ませたようだ。
そんなにあっさり出来るものなのだろうか。
あまり深く追求しても、庶民の俺にはどうする事も出来ないし、気にしては駄目かもしれない。
「今回は地下じゃないんですね?」
「ルリも一緒だしな。地下部屋より広い部屋にした」
「え、一緒ですか? それは大丈夫なんですかね……」
「何がだ?」
「ルリはあの、非常に幼くて……」
「彼氏なんだから気にすんなよ! あたしも一緒にいるし、気にすんじゃねえよ!」
「そ、そうですよね」
控えめに後ろで待っているルリを改めて見つめても、あどけなさが残りまくっている女の子にしか見えない。
多少の闇を垣間見た俺が、果たして手をつけてというと語弊があるけど、一緒にいていいのだろうか。
「お姉さま、お洋服を……」
「そうね、せっかくですもの、彼にしてもらいましょうね」
「はい」
「はい? 俺が何でしょう?」
さすがにルリに対しての言葉遣いは、令嬢のソレになっている嵐花だが、普段の野郎言葉とのギャップがありすぎて、今でも緊張してしまいそうになる。
俺の気持ちに気付いているのかは聞けないが、ルリと交際させるとはさすがに思わなかった。
今回の交際に関しては、どこまでなのかは分からないものの、最後には嵐花にとってプラスになると言っていたし、もしかしたら単純に恋についてを知りたいということなのかもしれない。
「みなと、ルリの服を脱がせ!」
「はひっ? 今なんて?」
「お、お姉さま……湊にお着替えを? そ、そんなそんな……」
「ルリの着替えを手伝えって言った。出来るよな? 彼氏だもんなぁ?」
「いや、彼氏は彼女のお着替えの補助までしませんよ? まさか嵐花は知らないとか?」
「そうか、ルリもビビるよな。なら、あたしから脱がしてみろ!」
「……ご自分でお着替えをするという選択肢はありませんか? なんなら、侍女さんを呼んで……」
「駄目だ。みなとがあたしのことを想うんなら、出来るよな?」
俺の気持ちが見透かされているのか?
「ルリは、しばらく広間で休んでくる?」
「い、いる。いるです……ここでお姉さまと湊を見ていたい」
「そう……じゃあ、よく見ててね」
「は、はい」
服を脱がせるといっても、どうせ一枚か二枚の世界だろう。
これも何かの教育としてやらせようとしているなら、俺はやるしかない。
「みなと、そこに跪け」
「しますが……本当によろしいのです?」
「大したことじゃねえだろ。お前もあたしの舎弟を張ってんなら、根性を見せやがれ!」
「じゃ、じゃあ……」
「ほら、まずは足からだ」
足……すなわち、ソックスを脱がす行為である。
すでに姫に対して強制的にやらされてきたことが、ここで生きるとは思わなかった。
「いつもこんなことをやらせるわけじゃねえんだ。潔くやれ! そうじゃなきゃ、あたしは認めないぞ」




