174.さよりさん、妄想するSS④
全く、湊も湊だわ。姫とは必要以上にくっついて欲しくないと、さっき言ったばかりじゃない!
それがどうしてあんなことまでさせられているの!?
これもあえてわたくしに課せられた試練だというのね? 耐えて見せようじゃない!
「……あのっ、姫っ――」
「何?」
「な、何でもないの……で、でも、でもね……く、車の中はその……」
「……」
うぅっ、妹に睨まれただけで何も言えなくなるだなんて。
さっきから湊は同じ姿勢のまま動こうとしないし、姫を抱っこしたままでいい気になっているというのかしらね。
自分がされたときは感動ものだったのに、どうして傍目から見ると悔しくて仕方ないというの!?
「だ、駄目だよ、姫ちゃん――」
湊が姫を止めている言葉がさっきから聞こえてくるのだけれど、湊が慌てるだなんて、あの子は何をさせているというのかしら。
何が駄目なのか、気になって仕方がないわ。
それにしても姫のわがままぶりは、以前よりもあからさまになって来た感じがする。
今夜はお母様から、姫に突き付けて頂くことになるとはいえ、姫はまだ知らないはず。
それなのにそれを察しているかのような、大胆な行動を湊にけしかけているように見えて仕方がない。
「あっ……ん……、えっちですね、湊さ……ん」
ええっ!?
い、今のは私に聞こえて来た妄想? それとも現実!?
すぐ隣でしかも、車の中で一体何が繰り広げられてるというの?
こ、これは、もう黙っていられないわ!
「み、湊っ! あなた、いい加減になさい! 姫から離れなさい、すぐに!」
「た、助かった……悪い、さより」
「早くなさい!」
あろうことか、湊は姫の胸に顔をうずめて喜びを感じていたわ。
あんなに顔全体を青ざめさせるまで、姫の胸に飛び込んでいたというのかしら。
「ちっ……同じことが出来ないくせに」
「……えっ!?」
これも姫からの幻聴!?
た、確かに胸に顔をうずめられても、湊はそのままぐっすり眠ってしまいそうだけれど、それにしたって、姫は言い過ぎだわ。
怒ろうとしたけど、姫はすぐに家の中へ入って行くし……示しがつかない。
これは湊を叱っておくほうが得策というもの。
そうでなければお母様を味方になんて出来っこないのだから。




