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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第4章:彼と彼女たちの思惑

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173.池谷姉妹は譲らない 姫パート2-2


「なっ……!? あ、あ、あなた! 姫をどうするつもり!?」

「さよりは黙って!」

「そ、そうだけれど……で、でも」

「邪魔しないで! さよりはそのまま端に詰めて! このまま湊さんが乗り込むんだから」


 姫ちゃんをお姫様抱っこしながら、車の後部座席に乗せて降ろそうとしたのに、彼女は首に回した両腕を離してくれず、そのまま乗り込むことになってしまった。


 運転手が親父さんじゃなくて助かったと言っていいのか悪いのか、苦笑されまくりだった。


 予想通り、さよりはすぐにパニクりまくったが、姫ちゃんの迫力に押されて何も言えなくなったらしい。


「しゅ、出発してちょうだい! 早くお家に着いて欲しいものだわ」


 動揺しながら、さよりはすぐに家に到着させて欲しいと、ドライバーさんにお願いをしていた。


 しかしもはや俺はロクな動きをさせてもらえない状態のまま、ずっと姫ちゃんに見つめられている。


「湊さん、どうしたんですかぁ? わたし、ずっと見ていられますけどぉ?」

「い、いやぁ……俺はこう見えて非力だからね。いくら姫ちゃんが軽くても、姿勢を崩さずに座り続けるのは大変なんだよ」

「駄目ですよ? 女の子を支えている最中に、大変なんて言葉はタブーなんですよ? ふふっ、湊さんだから許しちゃいますけどぉ」

「ど、どうも」


 ずっと体を密着して、なおかつそのまま目的地まで同じ姿勢というのは、今回が初めてだ。


 そしてもう一つ気付いたことがあるのは、姫ちゃんが偽鮫浜ではなく、恐らく今が素の状態なのだということに気づけた。


 今までは、まるで鮫浜に近づけたような言葉遣いと雰囲気を出していたが、ここに来てようやく彼女は自分を出し始めた。


 ちょっとばかり、いや……かなりわざとらしく甘えながら、語尾を伸ばして話してくる彼女は、やはり年下の女の子なんだなと感じてしまった。


「姫ちゃんはどうして、あいつ……砂庭と?」

「あぁ、そのことですか? 意味なんてないですよ? でも、手駒はいくつでも必要じゃないですかぁ。大好きな人にどうすれば近づけて、気にしてもらえるのかとか、それを遠回しにやろうと思っただけですよ?」

「す、好きじゃないの?」

「会ったばかりでしかも、学年も違いますので、そんなことにはなりませんよ」

「で、でも、あいつはそういう感じで姫ちゃんを見ていなかったみたいだけど……」


 どんな出会い方にもよるが、いくら何でも、出会ってすぐに彼女だという認識にはならないはず。


 それなのに、砂庭の反応はそうじゃないように見えた。


「それはだって、認識の違いですよ。男の子って、見つめられただけでもそう思いがちですよね? それとか、すごく話しかけて来られただけで思い込んでしまうんじゃないですか? 湊さんも……ですよ?」


 かつてファミレスでバイトをしていて、告白しまくっていた俺を思い出せば、人のことをとやかく言えなくなるが、それはそれとして強く言わなければ。


「だ、だとしても、そいつは姫ちゃんみたいに可愛い子に話しかけられて、浮きまくっていたと思うんだ。だから、その気になってもおかしくないというか……」

「……でも好きじゃないです。分かってるくせに、どうしてそういうことを言うんですか?」

「あ、いや……い、一般的なことを言っただけで、姫ちゃんが悪いとかじゃなくてね……」


 真下に姫ちゃんがいる上に、手の平には常に姫ちゃんの柔らかな肌の感触がある状態で、俺は何を諭せるというのか。


「クスッ……湊さん……」

「んっ……!?」

「しっ! そのまま受け入れてくださいね……大丈夫、さよりには見えていません」

「……っ、んむ……ん……ぐ――」


 姫ちゃんの両腕は、抱っこしている俺の首にがっちりと絡めて離さず、そのまま口を重ねて来た。


 すぐ隣にはさよりもいて、ドライバーさんも前にいるというのに、姫ちゃんは容赦なく襲って来る。


「……こんなにも好きなのに、どうしてなのかな……」

「姫ちゃん?」

「……んんっ、でも、今の湊さんの中にいるのは別の人みたいだし、それだけで諦めがつきます……」

「ごめん」

「いいんです。湊さんの心を動かせなかった私にも責任があるので。あの女と一緒に動いていなければ良かったなぁ……って今思えばですけど」


 あの女とはもちろん鮫浜のことであり、姫ちゃんと鮫浜の行動が、後悔を生んだということになってしまったらしい。


「ふふっ、湊さん。気付いています?」

「え?」

「さっきから私のムネをジッと見つめまくっていることです」

「ぅおぅ……!? ご、ごめ――むぎぁっ!?」

「ぁ……」


 姫ちゃんの口づけから解放されてすぐ、目の前には姫ちゃんのたわわなオムネさんが眼前にあり、そこからどこを見ればいいのか状態だったわけで、決してそのつもりはなかった。


 両手は腰に固定されたまま少し痺れてもいる中で、彼女が取った行動は、俺の顔をオムネさんダイブさせたことだ。


「み、湊っ!? あ、あなた、何をしているというの! ひ、姫から離れなさい!」

「……ち」


 いやいや、舌打ちが間近で聞こえましたよ? 


 姫ちゃんによって計画的に仕組まれた既成事実は、さよりをキレさせるには十分な光景だった。


 池谷家に着いたところで、姫ちゃんへのお姫様抱っこは強制的に解除され、さよりに耳を引っ張られながら土下座をする羽目になってしまった。


 さよりに引っ張られている俺をチラッと見ながら、姫ちゃんはさっさと家の中へ入って行った。


 横顔からチロっと舌を出していたところを見る限り、相当な小悪魔であることが判明した。


「さぁ、湊! まずはお母様がお待ちよ! 言い訳をするならしてみなさい!」

「……無い」

「そ、それもそうね。ま、全く、油断も隙も無い野蛮すぎる下民だわ!」


 何も言えないが、車の中であんなことまで計画していた姫ちゃんは、鮫浜よりも黒いかもしれない……そう思えた。

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