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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第4章:彼と彼女たちの思惑

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167.思い出と確信の昼休み 後編


 鮫浜が俺を転校させたのは、単に俺を振り、距離を置きたいだけかと思っていた。


 それなのにどうやら別の意味も含めての転校らしい。


 またしても権力を無理やり使っての転校なのかと思うと、うんざりする。


「湊くん、イラつく気持ちを抑えて聞いて欲しいんだけど、大丈夫?」

「……分かってますよ。鮫浜はああいう子だし、俺が厄介だから物理的に距離を離した……それだけじゃないってことくらい……でも、それとか関係なく放っておいて欲しいですよ」

「鮫浜あゆ……彼女は初めて……ううん、短い期間だったとはいえ、湊くんという彼氏が出来たの。それまでは、感情をあそこまで出す人じゃなかった。冷淡に物事を動かすだけの令嬢。彼女をどうにかしたいと感じて、母方が彼女を表に出した。だからこその出会い方をここで果たせた」


 話を聞くに、鮫浜あゆと出会えたのは姿を見せない母親のおかげということらしい。


 そうだとしても、鮫浜はそう簡単には変われないということか。


「それで、俺にどうしろというんです? このお店に思い入れだとかそんなのはありませんけど、バイトして来た店をあっさり潰すとか壊すとか、鮫浜のすることは理解出来ないですよ」

「人の気持ちを知るには、同じ想いを有すること……だけど、彼女はそれを拒んでしまった」

「鮫浜が俺より年上なのは承知ですけど、年に関係なく隣同士で楽しくやって来た。それも無かったことにしたいとか、そういうことです?」

「ん、んと……そうじゃなくてね」


 どうして昼休みの限られたこの時間に、今さら鮫浜のことを気にしなくてはいけないのか。


『明海さん! すみません、洩れました! 湊は俺が学校に!』


 ――なんて思っていると、入り口を見張っていた浅海が慌てた様子で戻って来た。


「ごめん、後よろしくね! 私はこのままあの人に接触するから」

「了解です。ってことだから、湊は俺と一緒に学校へ戻り。ちょっとムカついていただろうけど、鮫浜と湊のことをどうこうするわけじゃなくてね」

「お、おー……」


 何だかよく分からないまま、かつてのバイト先であるファミレスを後にした。


 浅海の手に引かれながら、昼に息を切らせて走るとか何とも急すぎたが、嫌じゃなかった。


 学校とは真逆の辺りで一息ついた俺たちは、余裕もないまま話を始めた。


「はぁはぁはぁはぁ……は~……」

「鈍ったね、湊」

「中学くらいだろ? 昼食べた後に走るとか……」

「急でごめん。本当は俺だけが湊を呼び出して、時間を使って話せればよかったんだ。でも、監視の目はあゆさんだけとは限らなかった。だから、側近の明海さんを味方にするしかなかった」

「何をしようとしてる? 明海さんが側近って何のことなんだ?」

「明海さんは鮫浜グループ所属で、あゆさんの側近。だけど、不満を持ってたから味方に出来た」


 あんなに馴れ馴れしく話しかけてきたのは、単純に年上の特権だとばかり思っていた。


 だけどそうじゃなく、明海さんも鮫浜の人間として転校して来たらしい。


「あんなに年上ばかりが同じ学年にいるわけはないだろうなとは思ってたけど、そういうことか。それで、何がどうなって何をしようとしてる? 何で今さら俺に接触を?」

「あゆさんは湊に会わないまま、思い出も記憶も忘れようとしている。だから転校させたんだけど、簡単には行かなかったんだ。湊を守るためだったのに、まさか相手がすでに来ていたなんてね……」

「悪い! 何を言っているのかわかんないぞ」

「今言えることは、俺と明海さんは湊の味方。湊が誰を好きになるのかについても、口出しはしない。だけど、湊のいる学校には敵がひそんでいる。そいつは湊のことを知りたがっていて、近付いて来る」


 庶民の俺に何をしようというのか。


「俺は庶民だぞ。すぐに正体なんて暴かれるだろ」

「いや、そうじゃないんだ。敵は、あゆさんの許婚なんだ。だから、あゆさんと近しくなった湊のことを知ろうとしている、逆恨みもいいところだけど、あゆさんを少しでも動かしたのは湊だけなんだ。だから敵にとって湊は、あゆさんの気持ちを揺れ動かす危険人物としか思っていない」


 あゆを彼女にしただけでも、闇世界の人が来るだろうなと覚悟はしていた。


 しかし結局、彼女が先に俺を離した。学園から追放したことで、会うこともなく話すことも無い。


 それだけで俺的には平和が訪れたかとばかり思っていたが、甘くなかったらしい。


 真面目に闇世界の人が来ちゃってたし、というかあゆの許嫁とか聞いてない話だ。


「許婚相手がいたことなんて初耳だぞ! そういうのがいながら俺に、あんなことやそんなことまでして来たのか……」

「あゆさんは湊を自分のモノ……つまり、許婚に関係ない人間を傍に置きたかったんだと思う。でも湊は、言いなり人形にはならなかった。まぁ、湊だからね」

「自分のモノとか、そう言われて喜ぶのは一部だけだしな。で、洩れたってのはその相手に?」

「そうだね。ファミレスで湊と会うことは、あゆさんは認めていた。だけど、許婚には知らせてもいなかった。相手にとってあまり楽しい話でもないからだろうけど、湊を相当気にしているってことが分かった」


 マジで怖いぞ。闇世界の許婚相手が近くにいて、おれを監視しているとか鮫浜どころじゃない。


「……昼休み時間なんて無かった」

「うん、ごめん。サクサク話してそのまま戻る予定だったけど、相手も外に来ていたのは誤算だね」

「ソイツはどんな奴?」

「分からないんだ。でも、俺より強いと聞いてるし、あゆさんの相手には相応しいかもしれない……」

「心当たりがあるけど、ソイツとは限らないしな……」

「湊はとにかく、いつも通り過ごしてて欲しい。敵は、湊とあゆさんを会わせないようにしているから、そういうことを湊がしなければ、危険な目に遭うことはないはずだから」


 普通に彼女が欲しい……それだけなのに、関わってしまった相手がやばかったということか。


 敵がなにに警戒しているかはどうでもいいが、俺を振ったあゆが俺と会うことはないだろうし、会いたいという気持ちも無いだろうから、そこまで心配することはないはず。


「学校から距離離れたけど、戻っていい?」

「うん、ごめん。車も用意出来なくて」

「いや、いいよ。浅海にも会いたいと思ってたし、しずと会えたしな。あの店が綺麗さっぱり無くなるならそれはそれで……」

「湊はいま、好きな人がいたりするの? 池谷さん……とか」

「いや、さよりは……」

「ま、とにかくさ、湊が誰かと付き合うなら俺は応援する。昼休みにごめん。またね、湊」

「気にするなよ、浅海」


 昼休みを利用して明海さんに呼ばれたら、そこには浅海がいて何やら訳ありまくりな話が始まった。


 しかし核心をつく前に、何やら敵が来たらしく結局何が何だか状態。


 話を聞いた限りでは、あゆに近づくのはかなり危険ということのようなので、普通に彼女を作れということらしい。


 好きになりかかっている人もいることだし、とりあえず彼女を作るところから始めるのがいいのかもしれない。

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