165.普通の学校と聞いていたのに令嬢が何気に多いことに気づいた日
「あの~高洲君」
「はい?」
「違うクラスなのかな? 分からないですけど、高洲くんを呼んでいる子がいます。廊下で待っているみたいなので、後お願いします~」
「あ、はい」
休み時間になり、一息つこうとしたらクラスの女子が声をかけて来た。
俺に声をかけてくるのは野郎では鮫島くらいなもので、他は嵐花と明海さんとさよりくらいだ。
それでもイケボが取り柄の俺は、声聞きたさに知らない女子から話しかけられることがそこそこあるという、悲しい現実があったりする。
一番前の席にいるというのも一つの原因であり、嵐花の目が光っているというのも関係している。
廊下に出てみたものの、右も左にも女子らしき姿は確認出来ない……と思っていた。
『そこの甲殻類! こっちだ、こっちをご覧なさい』
これは初めてなパターンか? 俺の背中がとうとう甲殻類に認定されるとは。
背中はアレでも猫背だからかもしれないが、エビほど折れ曲がっているわけでもないのに。
「……こっち? どっちだよ!」
「下! 足下!」
「もしや微生物か!?」
「そんな訳あるわけないでしょーが! ここ!」
「ん? 何だよ、真後ろにいるなら素直に教えてくれよ」
色気を感じない声でこっちを見ろなどと言われても、さすがに真後ろに立たれていれば見えるはずも無かった。
見ると小生意気な表情で、頬を膨らませながら俺を睨む、小さな女の子が立っていた。
「随分と小さいが迷子か? 駄目だぞ、ここは高校なんだぞ。いくら口の利き方が偉そうだからって、いちゃいけない場所くらいは……」
「口の利き方がなっていない! 噂通りの庶民ね、お前」
「庶民だけど、何の用でございますか?」
「お、お前に彼女は似合わない! 彼女を選ぶなら、ルリにしろ! ルリにしとけ!」
「ルリ? いや、その前に彼女って誰のことだ?」
「彼女は高貴な……あっ――」
「高貴?」
「とにかく、そういうこと! バイバイ!」
「バ、バイバイ……」
何かに気付いたのか、あっという間に走り去ってしまった。
名前からしてどこかの令嬢っぽいが、そもそも彼女とは誰のことなのか。
「みなと! そこで何してやがる!」
「ひっ! や、やだなぁ……小さな令嬢と話をしていただけですよ」
「令嬢? あぁ、あいつか」
「お、お知り合いですか? ルリって言ってましたけど……」
「湖上ルリは、あたしが可愛がっている令嬢の一人だな。みなとに接触して来たか」
ここは鮫浜が追放してくれた普通の学校じゃなかったのか。
普通どころかやたらと令嬢だの、経営者の娘だのがひしめき合っているんだが。
「何で俺に?」
「近いうちに会わせようと思っていたが、我慢できずに会いに来たってことだろうな」
「会いに? え、いつ会うんです?」
「近日だ。ほら、教室に戻るぞ! みなと」
「は、はぁ」
勝手に付いてきたとはいえ、さよりも一応令嬢だった。
思わずチラッと見てしまったが、恐らく『――ふ、ふん! 許可なく見ないでもらいたいわね』などと、ほざいているに違いない。
みちるも定食屋の娘だから経営者の娘……優雨は不明だがどうでもいい。
明海さんもだが、恐らく只者ではないはず。
何にしても嵐花は機嫌がいいらしく、以前よりも柔らかい感じに思えた。
「湊くん、隣の子と仲がいいようだけど、好きなんだ?」
「へっ? いや、どうなんですかね」
「ふぅん……? 年上女子の厳しさと優しさに落ちちゃうんだね~なるほど」
よくは見えないが、明海さんはメモを取って俺? のことを研究しているみたいだ。
「あぁ、そうだ! 湊くん、今日もお昼一緒にいい?」
「ええ? 重箱は勘弁して欲しいかなぁと……それに明海さんだけというのも……」
「それなら心配いらないよ? 助っ人が遊びに来てるから。その子がいれば、君は自分らしく話が出来るでしょ? いい?」
「助っ人が誰かは分からないですけど、明海さんだけじゃないならいいですよ」
「おけおけ! じゃあお昼になったら外に出ようか」
「あ、はい」




