158.蒼か緑か?
「しゅう、何言ってんの? モブ浜って誰?」
随分と親し気に呼んでいるようだが、もしや優雨の兄が彼なのか?
「だから彼だ。そうだろ? モブ浜モブ男くん! 変わった名前でもオレは気にしないぞ」
「ハハハ……」
「妹が迷惑をかけに行っているみたいですまん! 勝手に俺の名字を名乗っている育ちの悪い奴なんだ」
「俺の名字? 優雨は椿が名字なんだよな?」
俺も偽名で自己紹介をして、しかも信じさせているから強くは言えないけど、優雨の名字は実は違うって奴か。
「い、いいじゃんか! 優雨の勝手だし! それよりもしゅうだって騙されてるって気付いてないじゃん」
「騙し?」
「そこにいるイケボの彼は、湊くんなんだぞ? 何だよ、モブ男って! バカなの?」
「ぐはぁっ……」
「え、湊くんにダメージ? あ、あ……そ、そうか~しゅうに名前を知らせたくなかったってことだとしたら、ごめんね。ボクは緑木優雨が本名なんだ~」
兄妹で別姓ということは、何かしらの事情がありそうだが……どうでもいいな。
「湊くんか……なるほど」
「悪いね、騙して。俺は高洲湊。クラスは多分2-2だ」
「いや、面白いことを考える人間はいいな! 気に入った。俺は椿秋晴。友達になってくれないか?」
「それはいいけど、優雨とは兄妹で合っている?」
「合ってる。それは別の機会に話すとして、優雨のことを頼む! 俺は妹よりも気になるおみ足が三人ほどいて、優雨の相手をする暇はないんだ」
そういや、足を追いかけて嵐花に付きまとっていたのがコイツだった気が。
あんなコトをされているのが後二人もいるとすれば、友となった以上はやめさせるべきか。
「椿がやっていることは間違いだ。足フェチなのは構わんけど、女子に嫌がられるのは最低だぞ」
『そうだ、そうだ~! しつこいのは駄目なんだぞ~』
お前も似たことをしているぞと言いたいが、兄に構って欲しいっぽい優雨を見ていると、姫ちゃんのことを思い出しそうなので口出しは控えておく。
「それはもしかして栢森先輩のことを?」
「それな。俺はあの人の舎弟なんだよ。ああいうことはやめてくれ」
「そ、そうか。俺は人というよりは、綺麗なおみ足しか見ていなくて……ごめん」
結構な衝撃的告白のような気がするが、足が綺麗女子ということは、さよりも危ないのか?
さよりも俺では無く、背中しか見ていなかったし、案外この椿と合いそうな気がしないでもない。
「椿君が素直だー! すごいね! たまには素敵な感じになるのかな?」
「あぁ、いや……」
「そこのイケボくんもすごいなぁ! へりくつばかりの椿くんを素直にさせるなんて、さすがだよ!」
「ど、どうも……」
なるほど……このクラスも女子が多いようだが、椿が中心ということなのか。
話しかけて来た女子は随分と、すごいだの素敵だのと言い放っているが、どこか心が冷めた感じに聞こえている。
その辺が鮫浜っぽいと感じるということは、多少は免疫が出来たかもしれない。
「湊君、もっと話をしたい所だが、俺はこの子たちを送りながら帰るよ。偽名のことは気にしていない。優雨のことをよろしく頼むよ!」
「それはいいけど、いや、優雨のことは良くないけど……じゃあまた、椿」
鮫浜タイプの女子と仲良くしている優雨の兄なら、解決しそうな気がする。
そう考えると、俺はやはりうざくても、分かりやすい女子の方がいいのかもしれない。
「ボ、ボクも、しゅうと帰ろうかな~。湊くん、またねー!」
「じゃあな。兄貴と仲良くしとけ!」
「やなこった!」
よく分からん兄妹と、鮫浜タイプな女子が帰った所で、ぎゅむぎゅむ……と、俺の両足に触れまくっている存在がいることに気付いた。
さっきまでそれなりの人数が教室に残っていたが、椿が女子連中を引き連れて行ったせいか、ほぼ人が残っていないと思いきや、野郎が数人ほど残っているようだ。
足フェチな奴なのに、女子人気があるのは何とも不思議だが、あれも個性のうちか。
「高洲、足、鍛えてる?」
「そりゃあ、チャリだからな」
「まだ、来ない?」
「それはもしかしなくても、ホームか?」
「それ」
「ここじゃ話しづらい。廊下行くぞ」
「行く」
俺を見下ろしながら、感情を出さずに話すみちるは、淡々としながらも廊下に出てくれるらしい。
しかし優雨の言った通り、みちるは野郎にモテモテのようで、教室に残っていた男連中が俺をずっと睨んでいる。
「蒼葉に会いに来たのか? 高洲湊」
「お前、誰だっけ?」
「砂庭だ。一度で覚えろよ、イケボ野郎!」
「……なるほど」
分かりやすい奴だ。みちるのことが好きで、俺が気に入らない……と。
鮫島にしてもそうだが、本人に言えばいいだろうに。学園にいた時の男連中とは面倒くささが違う。
優柔不断な俺が言うのもアレだけど……
「みちるなら廊下にいるぞ。好きなら伝えれば?」
「バッ……ちげーし! そ、そんなことより、高洲湊は蒼葉と緑木とどっちが好きなんだよ?」
「緑木? あぁ、アレか。強いて言えば、オムネさんだな」
「最低な奴かよ……その辺までへりくつ野郎と似てるとか、何で……」
野郎と話をしても面白くないな。それも勝手な嫉妬野郎と。
「高洲? 廊下はこっち」
「今行く。廊下の行き方くらい分かるからな?」
みちるに関して言えば、好意を持たれているということも理解していないとすれば、怒りの感情を俺にぶつけてくる砂庭とかいう奴には、同情しか出来ないかもしれない。
「砂庭って奴、お前も廊下でみちると話せば?」
「な、何でだよ!」
「あっそ」
これは久しぶりに浮間っぽい奴が出て来たか? あそこまで強い奴でもないけど、面倒だな。




