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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第2部第3章:新たなる恋芽生え

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150.姐御による舎弟の為の教育 A-1

 

 舎弟が不埒者だと許さねえなどと、チャリの後方からグチグチと説教をされながら、言われるがままに俺はチャリを漕ぎ続けていた。


 まさかの姐御登場により、雨に降られながらのチャリで疲れる予定が、それどころじゃなくなった件。


「みなと。止まれ!」

「ぐえっ!? く、首を絞めるのはやめてください……」

「悪ぃな。ともかく、チャリをどこかに隠せ!」

「え? ど、どこに?」


 必死に指示されながら漕いでいただけで、周りの光景は見る余裕が無かった。


 それなのに、気づけばさよりの家よりもさらに豪邸の、どデカイ家が目の前に出現していた。


「この辺りに置いとけ!」

「え、でも……」

「盗られる心配してんのか? それは断じてないと約束してやる! そこの電柱にでも置いておけ」

「は、はい」


 どうみても雨の中、わざわざ庶民のチャリを盗もうなどと企む人間は、近くにいなさそうである。


 どう見てもお城のような外観な豪邸を見れば、そう思ってしまうのも無理はない。


 さよりは令嬢だが、社畜の親父さん以下略によるものだ。だが、姐御はどうやら本物らしい。


「……んだよ? 何か言いたそうだな?」

「ほ、本物ですか?」

「あ?」

「もしかしなくても、ご令嬢とかいう……」

「う、うるせえな……い、いいか! ここから先は笑うな! 靴の音を立てるな! お前はあたしの舎弟なんだ。家のモンには口出しさせねえ。だから、笑うなよ? 分かったか?」


 どうやらそうらしいし、家の中と外では人格もしくは言葉遣いが、別世界になりそうな予感がする。


 何だかんだで本物のご令嬢のお宅拝見! をしたことが無い俺にとってはドキドキが止まらない。


 鮫浜あゆと付き合った時、密かに期待していたのが彼女の本当のお屋敷だったわけだが……


 謎のまま明かされることも無ければ、恐らく存在しているであろう両親の存在も、結局分かることが無かった。


 もしかしたら鮫浜は、彼氏になったからといって、あからさまにそういう興味を持たれたのが嫌だったのかもしれない。


 浅海は会いに来てくれたが、鮫浜は俺と会わないらしい。


 また思い出したら、鮫浜と付き合った時のことを思い浮かべてみるか。


「みなと」

「はい?」

「ジッとしてろ……そのままじゃ中に入れねえ」

「え? あっ……」


 年上の姐御のオムネさんではなく、どこからともなく取り出したふわふわなタオルで、俺の頭をゴシゴシと拭いてくれているようだ。


「い、いい香りが……」

「黙ってろ!」


 タオルもふわふわな感じで気持ちいいのに、間近すぎる姐御からの香りが、俺を見事に夢中にさせた。


 年上で夢中になりかけた人というと、怪しい集会に連れて行かれそうになったあの人くらいなだけに、年上も悪くないのかなと思い始めてしまう。


「これでよし……頭がボサボサしてるが、元からだからこれでいいか。とにかく、今からお前の手を握る。一言も発するな! 表情を変えるな! そして、もう一度言う。あたしの言葉遣いに笑うなよ?」

「も、もちろんでございますとも!」


 さよりで免疫が出来ているから、言葉遣いの豹変には驚きはしない。


 どうせ姐御の普段のソレと、家の中では本物ということでアレなんだろうし。


「で、では行くぞ」

「いえっさー!」

「あ?」

「なんでもありません」

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