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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第2部第2章:彼女×カノジョ×かのじょ-after remain Story-

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143.思い出よぎりとお姉さん女子


山女やまめ明海あけみと言います。あの、みなさんより年が少し上ですけど、全然気にせずに話しかけてくれたら、その日のご飯が美味しく頂けちゃいます! よろしくお願いしますね」


 どこかで聞き慣れたことのある名前で、しかも留学していた関係で真面目に年上だった。


 彼女の実年齢は明かされなかったが、どう見ても年上のお姉さんにしか見えない。


 とはいえ、ゆるふわパーマのロングな髪を一つに結んだいわゆるポニテのような髪型は、ドキっとしてしまう。


 つくづく髪型で萌えるのは俺の悪い癖だ。


「明海……浅海……似てるな」

「湊くんは、出会ったばかりの女子を呼び捨てする男の子?」

「――ち、違いますよ? てか、いきなり目立ちたがり屋だったりします?」


 明海とかいうお姉さん女子は、自己紹介を終えるとすぐに俺の机に手をついて、顔を近づけて来た。


「おい、そこの! ホームルームは終わってねえんだぞ? 早く自分の席に着きやがれ!」

「おっと、それもそうですね。ごめんなさーい! 番長さん」

「あ?」

「ま、まぁまぁまぁ……嵐花さん、転校生の言うことなんですから落ち着いて」

「みなとも愛想振り撒いてんじゃねえ! てめえはあたしだけ見てればいいだろーが!」

「でしたねー」


 ダブり女子の嵐花さんは単なる姐御キャラかと思っているが、彼女の本心はよく分かっていないのが現状だ。


 情報を持っていると豪語していた鮫島の奴は、優雨ごときを攻略することに精一杯らしい。


 本人ではなく周りから固めてみれば、優雨との距離はかなり近くなると思うが、兄が果たしてどんな野郎なのか。


 兄なんぞに興味は無いし、鮫島の恋路が進もうが退こうがどうでもいいが、嵐花さんを攻略出来るのかどうかは知りたい。


「みなと、さくらの話は一言一句聞き漏らすんじゃねえぞ! さくらのホームルームはタメになるんだからな!」

「もちろんですとも」


 しかし姐御は真面目過ぎる。何故にダブっているのか、この学校の七不思議認定されてもおかしくはない。


「湊くん、シカトは悲しいな」

「へっ? って、隣すか? いや、いまホームルームなんで……」

「だからさっきから小声で声をかけまくっていたのになー……悲しいな」

「涙が出ない悲しさですね、分かってますよ」

「泣いてもいい? そうすると誰が困ることになると思う?」

「誰ですかね~」

「ふーん? 食えない男の子……かな。やる気出すかー奪うのが本業でもあるし……」


 何やらぶつくさと言っている隣の明海さんは、少し鮫浜に似ている気がした。


 鮫浜あゆ……か。付き合っていた期間は長くなかったというのに、彼女の近くにいた時は細かい仕草なんかにも、いちいち興味を持って眺めていたのを思い出す。


 ◇


「湊くんはわたしを見つめるのが好き、好きなのかな?」

「あ、いや、うん……あゆが俺の彼女なんだなーって」

「何故? 不思議なこと?」

「そ、それはそうだよ。学園を仕切ってるスゴイ女子な上に、さよりと並ぶ極上の美少女なんだよ? 俺なんかにどうして興味を持ったのかなって」

「湊くんはわたしのモノ。最初に言った、言ったはずだよ」


 あゆが俺の部屋に不法侵入しだした辺りから、彼女の口癖は『キミはわたしのモノ』だった。


 しかしその言葉の真意は未だに掴めていない。


「あゆのモノ……それなら、キミは俺のモノでもあるって認識で合ってるよね?」

「違う……」

「それこそ違うだろ。俺はあゆのことが知りたい。もっと知って、本当のキミを引き出したいんだ」

「……」

「お、怒ったのか?」

「怒ってない、無いけど……そう、キミはそういう考えを抱いているんだ。それは危険かな」

「うん?」


 あゆに告白をして付き合うことになった。


 俺に近づいて来た闇の美少女は、俺を助けたり優しくしたり……恐怖を感じたこともあったけど、彼女とその彼氏となれば、関係にも変化が生じるのだと信じていた。


「湊くんはさよりが好き?」

「嫌いじゃないな」

「あの告白、本当は……どうするつもりがあった?」

「告白?」

「わたしは見ていた、見ていたよ? さよりに告白して、すぐ振った。あれはどういう意味を持つ?」

「見たままだよ……その後の告白が、今の俺とあゆの関係に繋がっているじゃないか」

「――ん、そう……そうだね」


 あゆのことが分からないとずっと思っていたが、あゆも俺の心が分からないとでもいうのか。


 ずっと見られていた関係が、近くにいるというそれだけで彼女は戸惑っているのかもしれない。


「――湊くん、海に行こう? 浅海も連れて行く、行くよ?」

「あそこのことかな?」

「ん」


 何て言っていた彼女とは、結局海に行くことが無かったわけで。


「鮫浜あゆ……か」


 ◇


「湊くん、わたしを呼んだ?」

「呼んでないです」

「キミって好きな女の子の名前を思い出したように、口にするタイプだったりするのかな? それだとしたら母性本能くすぐりまくりだよね」

「ノーコメントですね」

「可愛くないね」

「野郎は可愛いと言われて、嬉しく思わないもんですからね」

「格好いい……って言われたい?」

「俺は専門外じゃないすかね」

「素直じゃない子だね……」


 隣に座っているお姉さん女子は、間髪入れずに話しかけて来る。


 正直言ってうざいレベルだ。見た目がお姉さんしているだけに、邪険にも出来ないのが辛い所だ。


 どうしてか、今頃になって元カノとなった鮫浜あゆを思い出してしまった。


 未練が無いと言えば嘘になるが、忘れることなど出来るはずもない。


 同居することになったみちるのこともあるし、女子を知って今度こそ、ちゃんと心の通じ合う彼女が欲しい。


「彼女……か」

「んー? 欲しいんだ?」

「そりゃそうですよ」

「そっか。それはいいことを聞けた」

「紹介してくれるんなら引き受けますよ!」

「そこは素直なんだ。そういう所は好きだなぁ」


 ただし闇と病みを兼ね備えた、絶対権力チートな美少女は勘弁して欲しい。

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