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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第2部第1章:メモリーズリターン~カノジョになるにはまだ早い!

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139.ご馳走と家と三つ編み女子


「……ってことなんで、引っ越したいから金くれ!」

「そういうのはお金に余裕のある家……じゃなくて、親に頼んでくれる?」

「そこを何とか! お母様!」

「さよりちゃんの送迎車に乗ればいいじゃない! どうして乗らないのよ」

「他人だから」

「え、付き合ってたんじゃないの? キスまでしといて振ったとか?」

「何でキスのことを知っているのかは聞かないでおくけど、付き合っていたのは別の子だし……別れたけど」


 無駄と分かりつつ、言ってみたけどやはり無駄だった。


 俺の家は親父が長期単身赴任中で余裕がないし、母さんだけでは俺の食事だけで手一杯らしい。


 それもあってか、母さんは俺とさよりが付き合うことを早期に認め、社畜の親父さんと親交がある。


「いい子で美人なのに勿体ないなぁ。妹さんも綺麗な子なんでしょ? どっちでもいいから付き合えばいいのに」


「俺にも色々心の準備と気持ちの問題があるんだよ。少なくとも今は付き合う気が無いな」

「ふーん……とにかく、さよりちゃんが駄目なら、母さんも知りませんからね。引っ越しを考えるなら、湊が稼いで越しなさいね?」

「甘くないのか……むぅ」

「あんたを転校させた学園の偉い人と連絡が取れないし、母さんはお手上げです」

「あーうん……ホントすんません」


 やはり家を近くに借りるには、甘くない現実……マネーが必要なのだと知る。


 翌日、池谷家の車とは逆方向に進む俺のチャリは、とても遅く辛いものだ。


 車の窓から眺めて来たさよりと姫ちゃんは、それぞれで反応が異なったが、やはり二人がいる車に乗る気は起きなかった。


 転校初日と違って、二日目となると俺は見向きもされなくなり、さよりは一部男子に声をかけられている……といった光景に変わっていた。


「あの美少女は高洲と同じ学園だっけ?」

「まぁな。何だ、鮫島は興味あるのか?」

「昨日も言ったが、俺には椿さんしか見えないんだ! 頼むぞマジで!」

「あ、あぁ……俺に構わず話しかけて来い! 土下座すれば興味を惹かれて声をかけられるかもしれないぞ? 知らんけど」

「いや、それはすでにやっている……それも入学式に」


 コ、コイツ……俺より強者だ。


 そして本物のバカかもしれない……何故一年も経って、印象を相手に残せていないのか。


「ところで職員室はどこだ?」

「ん? バイトのことか?」

「多分それだ。放課後辺りに行っとこうかと思ってる。昼にわざわざ、先生がうじゃうじゃいる場所に行きたくない」

「そういや栢森先輩来てないな。いつも通りだけど」

「先輩ってマジなんか。ダブりってことは、サボりが原因か」

「その辺は謎だけど、栢森先輩は成績はいいんだよなぁ……」


 成績優秀者だから、先生たちのウケはいいのか?


 あの言葉の悪さはさよりの悪い見本になりそうな気がするが、今のところはどっちも関心が無いみたいだからさほど影響は無いだろう。


 放課後になり、鮫島に職員室まで連れて行ってもらったところで、奴と別れた。


「失礼します」

「その背中! あなたが高洲湊?」

「背中で有名人とか、それは過去の話だけど……ん? その声……」

「あ……ごめんなさい。わたしの声、嫌ですよね? よく言われるんです」


 幻聴さんの声で間違いないようだ。


 どういう声かと言えば、かつて俺が中学の時にハマっていた某アニメのヒロイン声なわけだが。


 それよりも注目すべきは身長の高さで、俺よりも大きい女子は初めてだということだ。


 履物次第でさよりが俺より高くなることはあったが、大体は俺より低い女子ばかりだっただけに、新鮮さを感じる。


「いや、好きですよ」

「……どうもです。それで背中の件なんですけど、椿ちゃんから聞いてました」

「椿? あー……アレですか」

 

 扱いが危険な上に、厄介な妹キャラだ。


 嵐花さんよりも、実はアレが学校の裏番か?


「それはそうと、高洲はこれから帰りですか?」

「ここに寄ってからそのつもりだったけど……」


 何で早くも呼び捨てされているのか。


 可愛い声だからスルーしてあげちゃうけど、普通だったら激しいツッコミを入れる所だ。


「夕ご飯はご自宅で?」

「まぁ、家なんで」

「それじゃあ、その夕ご飯を食べませんか?」

「へ? いや、名前も知らない女子の家に誘われた挙句に、夕ご飯をご馳走になるとか……どこの怪しい集まりかな? 言っとくけど、俺はトラウマ抱えてるから素直について行かないぞ」

「あ、そうでした。わたし、蒼葉あおばみちるです。みちると呼んでいいですよ」

「いきなり下の名前はちょっとな……」

「でも椿ちゃんのことは呼んでいるのでは?」

「デスネ……でも俺は礼儀はわきまえてますんで、蒼葉で」


 色々とにかくアレが関わって来るのは非常にキツい。


 ボクっ娘は実は女子には嫌われていないのか。


「それで、夕ご飯を……というのは、どういう意図で?」

「あ、とりあえず廊下に出てください。バイトの件で来られたのですよね?」

「何で知ってる?」

「うちの学校、厳しいんです。誰がどこでバイトしているのか、なんてことを全員に開示するので隠し事は出来ないです」


 ってことは、さよりにもいずれバレてしまうのか。


「それはどこで開示を?」

「携帯、ネットです。変なバイトは出来ないことになってます」


 おぉ、それならさよりにはバレないかもしれない。


「で、俺がバイト申請したこともすぐに知られたと?」

「そうです。そうすれば協力も出来ますから」

「協力?」

「それはこれから分かることですけど、とにかくご飯食べますね? 家、探してますよね?」

「家とご飯に何の関係が……」

「ご馳走してから説明……いえ、現地に着けばお探しの家が見つかると思います」

「ほー?」


 それにしても可愛い声だ……だけど何かが残念だ。


 さよりのソレとは種類が違う残念さがこの子にはある。


 見下ろされながらの可愛い声、連なる二つのオムネさんに、俺の周りでは見ない三つ編み女子。


 何かが引っかかるが、ただ飯を頂けるうえに家も手に入るかもしれないなら、行ってもいいのか。


「それにしても高洲の背中は見事です」

「ちょっ……!」


 蒼葉とかいう可愛い声の女子は、何度も俺の背中をさすって来た。


 何のために!?


「何か?」

「デリケートな背中をそう何度もさすられるのは好きじゃない」

「あぁ、でも合格ですから」

「は?」

「学校から近いので、これから一緒に来てください」

「分かった」


 どうなるか分からんけど、行ってみるしかないようだ。

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