135.妹か姉か?
「――そう、高洲君はあの子と接触したんだ?」
「池谷姫は危険なのでは? 姉の方は放っておいても問題ありませんが、妹はあゆさんに似た感じかと……」
「似てない! 一緒にしないでくれる? 浅海を行かせるつもりをしてたけど、やめる。代わりにあなたがあの高校に行きなさい! これは命令だから」
「えっ? で、でも私は彼よりも年上だし……」
「それも調査済み。高洲君のクラスにダブり女子がいるから平気。だからあなたもダブり転校生で接触して!」
「そ、そんな……あの、あゆさん。もし仮に、彼が私のことを好きになったらどうすれば?」
「付き合えばいいよ。私に気にせずに。とにかく、池谷姫と接触させないで! さよりはともかく、姫は厄介だから。そういうことだから、さっさと手続きをして!」
「は、はい」
とある場所。鮫浜あゆは誰かを転校させ、高洲湊に近付けさせようとしていた。
「あゆさんが行けばいいのに。何で別れたの?」
「彼は普通の男の子。私が近づくと良さが消えて行く……会わない方がいい。どうせ一緒になんかなれない、なれないから。それは浅海がよく分かっているはず」
「まぁ、ね。それにしても彼女を湊のクラスにね……部下が彼と付き合うとか好意を持たれるとか、それは許せるものなのかな?」
「……そうなれば高洲君は鮫浜の人間になれる……そう、それだけのこと――」
◇
「あわわわわ……!? 湊くんって、シスコン!?」
「アホか! あの子は俺の妹じゃ無いぞ。お前こそ妹だろうが!」
「大胆な子だったなぁ~。凄く肌白で綺麗なのに、どうして湊くんなんだろうね?」
「知るか! とにかく、いい加減俺を解放しろ! こう見えて俺は真面目だ。転校早々にさぼるつもりは無いぞ。お前も入学したばかりなのにサボるなよ?」
「は? 誰のこと?」
「お前だ」
「ボクは妹だけど、湊くんと同じ学年だぞ?」
妹なのに同じ年で同じ学年!? 何なのこの学校……フリーダムなのか!?
「そうか、じゃあな」
「自分のクラスを知らないくせに戻れるの? 優雨が付き添ってあげよう!」
「しっしっ! 帰れ!」
「ガシッ! と掴んじゃうよー!」
「勝手にしてくれ……」
何てことだ。わがまま娘なさよりよりも、厄介な妹女子に目をつけられてしまった。
そういう意味じゃ、姉の方がまだマシかもしれないと思ってしまいそうになる。
しかし姫ちゃんは妹だけど出来た妹だ……ただし、危険を感じる大人っぽさがあるのが何とも言えない。
腕に無理やり引っ付かれながら、自分のクラスがどこなのか迷いながら歩いている時だった。
廊下で直立不動姿勢で突っ立っている極上美少女が、こっちに気付いて近づいて来ているじゃないか。
「わー! すごい綺麗な子だー! 足も綺麗だし、髪も光っている気がするよ」
「それは目の錯覚だ」
近づくにつれ、すぐにさよりと分かった。コイツはすぐに自己アピールをするから助かる。
「――あっ! み、湊……んんっ! 高洲湊、下民の分際でどこへ行っていたというのかしら?」
「湊くん、下民って何?」
「下々な民。そのまんまだな」
「み、湊くん!? そこのガキ……んんっ! 小娘は高洲湊の何なのかしら? う、腕にくっついてる……」
「彼女! になる予定かな? キミも、このクラスの子? 見たことないけど転校生だったりする?」
やはり予想通りの展開になる運命だったようだ。
プライドと見た目は極上なさよりのことだから、人懐っこくて馴れ馴れしすぎる優雨とは合わないだろう思っていた。
「か、か、か……」
「ん? どこかかゆいのか? 俺は無理だが、コイツに掻いてもらえ」
「彼女ですって!? わ、わたくしでもなれなかったのに……あ、あり得ないわ」
彼女になる、ならないのことに関して、さよりはずっと悔しがっていた。
それでも挫けずへこたれず、俺と変わらずの関係を続けているのは評価に値する。
「落ち着け。予定って言ってるだけで、嘘だからな?」
「嘘でも本当でも優雨はいいよー! 湊くん次第だし」
「兄が好きな奴に興味はない。とにかく、俺のクラスはここらしいから、お前も戻れ」
「そうするー! じゃあ、またね! 湊くん」
「永遠にバイバイしとく! じゃあな」
「ムカつくー!」
かなりの難敵が早くも出来てしまった。
妹キャラ恐るべしだ。兄に会うことがあったら説教をしておきたい……が、会うのは何か嫌だな。
「み、湊くんだなんて……何てことなの」
「ん? あっちが勝手に呼んでるだけで、俺は許可してないぞ」
「高洲くん……湊、高洲湊……違う、違うわ」
「落ち着け」
さよりの出会ったことの無いタイプの女子だったせいか、混乱をきたしているようだ。
「――おい! もうすぐさくらの授業が始まんだろうが! 廊下でいつまでもさぼってんじゃねえ!」
「……ん?」
「あ?」
この口の悪さといい、さよりよりもさらに鼻筋の通った姉っぽい女子は、もしや?
「そこに突っ立ってる女はてめえの女か? 早く席に着けって言え! お前も早く座りやがれ」
「お、おぉ……悪いな。で、キミは誰だ? 同じクラスか?」
「見た目通りの大バカ野郎かよ! だったら、あたしは今どこから出て来た? あ?」
「冗談だ。そう怒るなよ。せっかくの美貌……って程でもないが、怒りすぎると老けるぞ? 俺より年上に見えるとか、言ってはならないことを言ってしまいそうになるじゃないか」
「てめえ、名前は?」
おおぉ……中々に怖いじゃないか。
しかし転校して来て何も分からないとはいえ、あの学園から来た俺にとってビビる程度ではない。
「転校したての高洲湊だ。そういうあんたは?」
「栢森嵐花だ。高洲! お前、今日からあたしの舎弟だ!」
「へ? 舎弟って……何でタメの女子に……」
「あたしはお前の年上だ! 文句あんのか?」
「いえいえ」
「早く教室に入りやがれ! 自力で入る気が無いなら、あたしが引っ張ってやる!」
早くも舎弟化!?
年が同じの妹に、同じクラスにいるのに年上で挙句に舎弟化とか、とんでもない学校だった。
俺の名前呼びで混乱しているさよりは、まだこっちに戻って来ていないが、その内気づくだろう。
「うーん……湊。湊? そうよ! 湊でいいんだわ! さぁ、湊――あら?」




