133.見知らぬ女の娘?が体当たりして来た日
『……というわけで、東上学園から転校して来た高洲湊君と、池谷さよりさんです』
担任の先生は学園ではお目にかかることが無かった女性で、しかも結構タイプだったりする。
「先生の名前は西森田さくらです。よろしくね!」
などと耳元で可愛く紹介されてしまったが、先生にときめきを感じるのは危険が危ない。
そして転校第一の試練が訪れた。
人前に晒された上に自己紹介をするというのは、転校しまくりでもない限り慣れないはず。
そして俺らの学園は名高い学園というより、悪名高い学園として恐らく知る人ぞ知る……らしい。
一部男女でザワザワと騒いでいたが、知らない人間にはどうでもいいことなのか、机に伏して眠りに落ちている奴の方が多かった。
「わ、わたくしは池谷さよりですわ。下等なる庶民――」
「高洲湊っす! この隣に立っている自称極悪令嬢、いや悪口令嬢かな。とにかく口は悪いけど、頭は弱いので仲良くしてやってください。同じ学園で同じクラスでしたが、他人です! よろしくお願いします」
「「イ、イケボだ……見た目は普通なのに」」
あぁ、何とも懐かしい騒めきが起こってしまった。
そういえば俺はイケボで有名だったことを思い出した。
見た目が普通なのはデフォルトなので許してくれませんか?
「み、みな――うぷっ」
「そんなわけでして、馴染めるように努力しますんで!」
隣に立っていることが幸いで、口災いの池谷を未然に塞ぐことが出来た。
もちろん、俺の手で。
『はい、みんな静かにね! 二人の転校生が来てからと思っていましたので、席替えをしますよ!』
やはり時期的に微妙、いや……ギリギリだったらしい。
そして運命の席替えを終えると――
窓側の一番前になってしまったが、何故か通路側にと言われて窓側は誰も座らなかった。
他にも転校生が来る予定があるのか分からんが、誰が来ても鮫浜より恐ろしい女子はいないだろう。
そして池谷は一番後ろの廊下側という、何ともお約束的な席順になっていた。
「むー……」
明らかに不満顔で俺を睨んでいるが、その声は独り言に聞こえているはずだからやめとけと言いたい。
それにしても学園の時は男の娘を含めて、圧倒的に女子が多かった。
そのせいか、これが普通なんだと思うくらいに男女がそこそこだ。
しかしやはり女子が多いのはどこも同じらしい。
学年が上がり始めの転校生だからか、特に質問攻めにあうこともなさそうなので、トイレに行くことにした。
――ドーン! と、トイレから出てすぐに体当たりを後ろからされてしまったが、池谷か?
「こらー秋! いつまでもトイレに籠っているなー!」
「な、何だ!? 池谷か?」
「って、あれー? 秋じゃない!? 背中を間違えるはずが無いのに……何だよキミは~! 秋はどこ?」
「知らん。体当たりしといて謝らないのはどうなんだ? キミは男の娘? いや、違うか」
「優雨はれっきとした女の子だぞ! 失礼しちゃうなー! で、キミは?」
「男の子だな」
「そういう面倒臭い所、秋そのものじゃんか! 名前のこと! はい、お名前は?」
「いや、君が名乗れよ! 謝りもしない上に名を名乗れとか、どこの姫さまだ?」
これはどういう展開なんだ? 個性的な普通高校で合っているのか。
「ひ、姫さま……そんな照れるよ。でも、優雨は好きな人がいるからごめんね~?」
「気にしなくていいよ。何とも思ってないから」
「むー何だか腹が立つなー! 名前を教えてよ! 恨んでやるから!」
「恨むのは勘弁して欲しいな。俺は高洲湊だ。キミは?」
「だーかーらー! 優雨! 椿優雨って言ってるだろー! 覚えた?」
「椿が名前で名字が優雨だな? オーケー! 覚えたぞ」
「あーもうー! 湊くんだな! 優雨は覚えたからなー! あー面倒臭いな」
勝手に覚えられた上に、くん付けとか妙に馴れ馴れしい子だ。
どうやら男の娘ではなく、女の子のようだが随分とボーイッシュだった。
アレは女子にも男子にも人気が出そうだが、あざといところがありそうなので敵も増やしそうだ。
もしかしたら池谷とライバル関係になるかもしれないが、誰のライバルだよって話になる。
『おい! そこの背中野郎! 邪魔だ!』
どうやらこの学校にも口の悪い女子がいるらしい。
平和で平凡な学校には転校をさせてくれなかった、そういうことですね分かります。




