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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第九章:闘う美少女たち

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126.鮫浜あゆは包容力が半端ない件。


 冒険心を起こしたのは正解だったのか、あるいは無謀だったのかなんて、部屋に入った時には感じることはこれっぽっちも無かった。彼女は闇天使であり、ある程度の行動と行為は予想していたからだ。しかし――


「美味い! こ、これはおいくら万円? ってくらい高級そうな味なんだけど」


「普通。それは単に湊くんがお腹を空かせているからに過ぎない。何も食べていないし、飲んでいない。違う?」


「あ、当たり。さすがあゆだな。俺のことは何もかもお見通しなんだな」


「……ふふっ、愚問だね」


「さよりと似たことを言うんだな」


「似ていない」


「ご、ごめん」


 ついつい話し方も近しい感じにしているけど、さよりとは違うんだよな。あゆには何というか、くだけた感じで話してはいけない気がする。これは何となくの気配であって、彼女からそう言われているわけではないけど。


「いいよ? というより、差別しているならしなくていいからね? さよりと同じように話しかけていいよ」


「そ、そっか。その方が楽は楽だな。距離が縮まる気がするし、仲良くもなりやすいっていうか」


「うん。じゃあ、私もそっちにする……」


 人格スイッチあるいは、あゆの素を出してくれるのか? この家には相変わらず彼女一人だけっぽいし、両親の存在すら確認出来ないわけだが、それに関係なく俺に素のあゆを見せてくれるならそれは素直に嬉しい。


「湊くん、もうすぐ料理が出来上がるから待っててね。勝手にうろうろしちゃ、めっ! だからね?」


「う、うん。どこにも行かないと約束するよ」


「いい子だね。本当だね?」


「あぁ」


「うんうん、さすが湊くんだね。私が見込んだとおりの男の子だよ」


 何だ、全然素直で可愛い子じゃないか。学園の中のあゆは外用の顔と態度だってことか。彼女もさよりと同様に、不特定多数の人よりも特定の人間にだけは自分を見せてくるタイプってことなんだろう。


「あぁ、そういや、チカちゃんのことなんだけど」


「誰?」


「はっはっは~またまたとぼけちゃって。あゆの妹の鮫浜チカちゃんのことだよ。妹だろ?」


「……あぁ、そうだったね。チカがどうかしたの?」


「あの子も今のあゆみたいに、素直で可愛い所を見せるようになったんだよ。一気に親近感が湧いたっていうかね、やっぱり堅苦しく話されてもなーって思ってたから、良かったよ。俺を監視とかいいながら、今日は休みって、案外あゆも優しい所があるんだな」


「――ん、そうだね」


 あゆの口元が一瞬、微笑んだように見えたのでよほど妹のことを褒められたのが嬉しかったのだろうと思っていた。そして彼女の手料理のお出ましである。


「おぉ、すげえ! マジで全部手料理? あゆちゃん、最高だ!」


「うん。ありがと、でも……これからは毎日食べられるからね?」


「おー! それは最高すぎるな」


 俺は彼女の言葉の節々を軽く聞き流していた。そういうことを悪気も無く言う子だったし、それに対していちいち反応することでもないと思っていた。そう思っていたのに、甘く見ていたよ?


「うーむ、お腹いっぱいだ。てか、食べるとすぐ眠くなるのって何でなんだろうな。あゆちゃんもそうだろ? ホントはあまり良くないけど、眠かったらあゆちゃんも眠っていいよ。俺が起こしてあげるから」


「ホント? じゃあ、お願い」


「任せておけ!」


 って言っておきながら、グッスリと寝落ちである。俺が彼女の寝顔を拝んでやるぜ。なんて思いながら気づけば、しばらく深い眠りに落ちてしまったらしい。


「……んむむ」


「起きたかな? 湊、朝だよ」


 あ、朝……だと? 嘘だろ。どれくらい眠りまくってたんだよ。目を開けると、俺の頭は何故か彼女の膝枕の上にあり、またしても気づかないうちに甘えていた罠だった。


「うふふ……キミの頭は撫でるだけで気持ちいいよね。思わず胸にうずめたくなるよ。それともうずめたいのかな?」


「お願いします! あ、いや、冗談ですよ?」


 冗談はさておき、俺には新たな武器が備わったようだ。背中とイケボに加えて、撫でたくなる頭? の誕生である。これも結局のところは、二人の美少女限定なのかもしれないが。それにしてもタメのはずなのに、どうしてこうも彼女の膝枕は心地よいのか。エロい思いを抜きにしても、気持ち良すぎるぞ。


「ねえ、湊くんの気持ちを聞かせて?」


「ん? それはどっちを好きかどうかってこと?」


「それは答えを聞いてるから、そうじゃない答え。最後にはどうしたいのかなって聞いておきたいの」


「あぁ、うん……俺は、出来たらあゆもさよりにも、悲しい思いはさせたくないって思ってる。そりゃあ、好きって気持ちは確実にあるけど、俺らは友達だろ? どっちかを彼女にして、どっちかが辛い思いをするのなら、それは出来れば避けたい。もちろん、俺は確実にどっちかと付き合いたいんだけどね。調子いいこと言ってごめん」


「……へぇ? それがキミの気持ち?」


「いや、本当に調子よすぎだよね。だけど、バトルロワイヤルかなんかそういうので決着とかじゃなくて、俺がきちんと告白をして付き合いたい。それに、知らないままであゆちゃんと別れるとかは考えていないからね」


「知らないまま? 私の全てを知りたいんだったかな?」


「知りたい。仲良くなったのに、まだ全然キミのことを知らないからね。知ることが出来たら、もっとあゆちゃんに興味を持てる気がするんだよな」


「――そう、そうだね。じゃあ、このまま私を受け入れてくれる?」


 これはキスが来るパターンか。膝枕をされていて当然のごとく、俺の顔はあゆの顔の真下に固定されている。彼女の瞳の奥まで見えてしまうような距離だ。そんな彼女の顔が俺の顔へ近づいて来ている。


「もちろんだよ」


「私のキスを最後に、キミの次の目覚めで私をさらけ出してあげる……だから、お休み――」


「えっ?」


 どういう意味なのか考える余裕もないキスをされて、俺は再び眠りに落ちた。というか、あゆのキスには睡眠効果が含まれているのかな? だとしたら、眠くない時にはキスをお願いしたいぞ。不純だけど。


「楽しみだね、湊。キミには初めから池谷が釣り合わないと思っていたし、言っていたからね。でも、選んでくれた。嬉しいな。だから、イイモノをキミに見せてあげるね……それまでおやすみなさい。私の湊――」

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