122.添い寝タイムin本人だった件。
俺の監視及び、観察のためにと妹派遣された鮫浜チカちゃん。もはや俺の家ではすっかり妹として馴染み、実は最初から妹だったんじゃないかと思うくらいに、解け込んでいた。
「もう食べないの? ダイエッ……」
「あ? そういうこと言うと一生モテないけど?」
「ご、ごめん……」
「ん、許す」
兄妹ってこんないいものだったのか。あぁ、マジで妹サイコー! しかしこの子は派遣の妹さんである。
「湊兄さま、あの……今夜」
「ん? どうかしたの?」
「んーん、何でもないです。けど、今夜はどうか、下手なこと言わないで下さい」
「へ?」
「約束、ですよ」
何やら雰囲気が違っているわけだが、こんなので気づくはずもなかった。添い寝を数日以上もしていると、もはやそこにえっちいことなど皆無。ホントに、ただの添い寝する良き兄貴として寝ていただけなのだが……。
「今日は何を話そうか?」
「……」
「あれ? 寝ちゃったかな……じゃあ、お休み」
いつもいつも話をするのが当然になっていただけに、たまに背中越しではなく、まるで包み込むかごとく胸の中で顔を見ながら話すこともあったりした。俺って包容力あるんだなと自分で感心したくらいに。
しかし今夜は様子がおかしかった。チカちゃんは俺を監視ではなく、いつの間にかマジ兄貴として接するようになってしまったことに、密かに危機感を感じていたのかもしれない。なんせ目的は違ったわけだし。
「……湊」
「ん? どうしたの?」
いつもは呼び捨てで呼んだりしなかったのに、今日は甘えか? これはこれでいい!
「好きなの……わたしを助けてよ、湊」
「俺も好きだよ? 助けてって、どういう意味かな。あ、好きってのはもちろん、妹としてだよ」
「どうすれば振り向いてくれるの? もっとキミの近くに行きたいのに……どうしてわたしじゃダメなの」
んんん? これはマジで甘え声。すごく切なくなって来るじゃないか。いつもと違う声だけど、甘えの声だとこんな感じなのかな。
「ここは一つ、優しく包み込んであげようじゃないか。だから、今日は背中越しじゃなくて、キミを俺の胸の中に……体勢を変えるから、少しだけ離れてね」
「……へぇ……? そんなことをいつもしているんだね……」
何か違う声色にも聞こえたが、体の向きを変えるまではチカちゃんだと信じて疑わなかった。
「お待たせ……って、えっ? あ、あゆ? え、ど、どうして」
「うふふっ……何を驚いているの?」
「チカちゃんは?」
「最初からわたしだったよ? チカなんていない……夢でも見ていたのかな?」
いやいや、あり得ん。あれは間違いなく一人の人間で、妹ちゃんで……ということは、夕飯の後にすり替わったのか。
「どこから?」
「添い寝から……ねえ、キミの胸の中に潜っていいんだよね? ねぇ?」
「あ……うん」
「どうしてかな? どうして私をそんなに否定するのかな? 初めはあんなに受け入れてくれたのに……」
「う、受け入れ……あぁ、不法侵入のことだよね? 窓は元から閉めたことなかった。それだけだから、だから……」
「ねぇ、さよりのように私も抱きしめてよ……? 私、湊と触れ合いたい」
「え、えっと……」
体勢としてはすでに抱きしめているといえばそうなのだが、あゆはそれ以上のことを求めているのか?
「寂しいのに……どうして誰も私を見てくれないの? どうして私は消されているの? どうして?」
「――え」
「鮫浜の力が怖いの……? 何も……していないのに、私はわたしだよ? あゆ……あゆとして、私を愛して」
これは本音か? 鮫浜の力ってのは財閥的な関係のことを言っているのだろうか。学園でも気にはなっていた。ぼっちのさよりは自業自得ではあるが、鮫浜あゆはさよりが転校してくる前からいたようなのにも拘らず、まるで相手にされていない感じがあった。そこにいるのにいないような、そんな変な感じを受けた。
だとしたら、俺の目の前にいるあゆは本音をさらけ出しているってことなのか? 権限を持つ鮫浜か。だからなのか、学園の先生や関係者は鮫浜を恐れている気がしてならない。でもそれが何なのかは分からない。そこにたどり着けたら、俺はもっとあゆのことを知りたくなるのだが。
「……私を、探して……んっ――」
「ぁ……」
いつもの突発的なキスとは違う、軽く触れてきたキスは何故か俺の胸を熱くさせた。これはどういう気持ちなんだ。俺がいつも見てきている鮫浜あゆは作られた人格ってことか? いやいや、まさか。
とりあえず、目が覚めたら妹でよろしくお願いします。もしくは、それに近い感じ希望! お休みあゆ。




