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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第八章:ダークネス エンジェル

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105.ダークネス ストリーム⑦


 誰かヘルプミーと心の中で叫んだ結果、脳裏に浮かべた彼女は来てくれなかった。


「あはっ、高洲様はどういう縛り方がいいかなっ! 汐見、お前どう思う?」


「手足の自由を無くすとかどうすか?」


「つまらないことしか言えないの? 汐見、お前もう帰れよ」


「え……」


「二度は言わねえぞ? こっから消えろ」


 おおう、おっかない女子だなぁ。そして汐見君はあっさり退場である。せっかく出番がもらえたのにさらば、汐見君。押さえ付けられていた俺の身体は急に自由を得たわけだが、鮫浜並に怖い女子の眼光が激しすぎて、金縛りのような感覚に陥っている。


「何が目的なのかな? ほたるちゃん」


「目的? 高洲様を奪うことだよっ。鮫浜も、池谷も……その他の雑魚には二度と会わせたくないかな~」


「ほぅ? 二度と? もしや俺をペットのように飼うおつもりがあるのかな……」


「うんっ! ってことで~縛るから。眠っとけよ、下僕」


 おっふ。ツインテのロリっ子に恐怖のイメージを植え付けるのはやめてくれ~。


「ダレカーヘルプミー! ロリっ子は可愛いのが当たり前であって、こんな悪魔のようなロリっ子じゃないんだぞー! おーい! 誰か~」


「無駄だと思うけど? っていうか、暴れんじゃねえよ! 縛りづらいだろうが!」


 うーむ。もう諦めるしかないのかな? こんな時に来て欲しいのはもちろん、鮫浜。もしくは最強のイケメンな浅海なわけだが、どういうわけか来る気配がない。ほたるの悪事は管轄外なのだろうか。うう、こうなったら泣いてみよう。泣いて弱々しく見せれば誰か来てくれるかもしれないし。


「う……やだよぉ~怖いよぉ~僕が何をしたって言うんだよ。はーなーせー! ううっ、しくしく……」


「あーうぜえな。泣いたって無駄。ほたるのモノになれるんだから嬉しくしろよ!」


 あぁ、こんなことならさよりに早く気持ちを伝えて、もっと幸せな気持ちになっていたかったな。そしてどうして鮫浜や浅海はこういう時に来てくれないんだ。助けに来てくれただけで心は動くものなのにな。


 手足はしっかりと保健室のベッドに固定縛りをされて、もう諦めようってくらい色々弱気になった。それなのに、ほたるは俺に構わず制服のボタンを外していくじゃありませんか。いやいや、それはあかん。


「おい、それはまずいぞ! 俺もほたるも退学になっちまうぞ、おいっ!」


「ん~? それが狙いだし? いいじゃん、気持ちよくなって二人で退学しようよ~」


「わああああああん! 僕はそんなの望んでないよぉぉぉ……たーすーけーてー!」


 誰でもいいから助けて欲しくて、恥をしのんで泣きまくってみた。普通に考えれば保健室でまさに卑猥な行為が出来るという夢のような出来事。しかしこれは色々よろしくない。第一、好きでも何でもない女子にそんなことをされても幸せになれるはずがないのだ。


 諦めて涙を流しまくりながら、目を閉じた時だった。ついに天使が現れてくれたらしい。


「……高洲君、そのまま眠ってていいよ」


 んん? そうですか、闇天使さんが降臨ですね、分かります。これでほたるの悪事も終了乙かな。良かった、よかった。なんて思いながら上半身裸な状態で闇に吸い込まれるようにして意識を落とした。


「さ、鮫浜あゆ? 何であんたがここに」


「ふふっ、全て見ていたよ……海野ほたる。高洲君にはひどいことをしないって言われたはずだよね?」


「……見ていた? ど、どこで?」


「ずっと天井、壁、窓……あらゆる所から、だよ? 忘れたの? ここが学園内の保健室だってこと」


「――あっ……」


「……ほたるはもっと、高洲君とさよりを引き裂く役目をしてくれると期待していたのに、残念だね。たかが縄で彼の手足を縛るだけで満足するなんてがっかり。だから、もういいよ……ほたる、さようなら――」


「え、あっ……待っ――」


 海野ほたるは鮫浜が指示を出した謎の男たちによってどこかに連れて行かれたらしい。俺は何故か耳だけは聞こえていて、声と音だけは無意識に拾っていたようだ。


「高洲君、私の正体を知りたい? 知りたいよね? だけど、まだお預け。だって君はさよりが好きだもの。まずはほたるとの記憶をキミの中から消してあげる。しばらく眠っていてね……保健室でしばらく眠った後に、キミは私を求め始めるよ――」


 むぅ……鮫浜の正体は何なんだろうな。とはいえ、またしても助けられたな。目が覚めたらお礼を言わないとダメだろう。とりあえず今はせっかく保健室にいることだし、寝かせてもらおう。


 そうしてとにかくここぞとばかりに寝まくった。この間、誰も起こす奴もいなかったのが幸いだった。


「――と」


「んー?」


「湊、湊ってば! いつまで保健室で寝ているの?」


「眠い……」


「もう、そんなに欲しいの?」


 寝ぼけていて誰の声なのかは判別できなかったが、この話し方はさよりだろう。そう思って、そのまま逆らわずに、素直に返事を返した。


「キス……していいんだろ? 湊――」


 ん? 口調が違うな。俺のことを湊と呼び捨てするのは、さよりと浅海としずだよな? これはもしや浅海か!? それはまずいぞ。開かれた禁断の道が調子よく前進しまくるじゃないか。


「うおおおおおお!」


「っ――!」


「や、やめてくれ! 俺はノーマルだ! 決して、アブノーマルな男を目指しているわけじゃないぞ」


「あん? 何言ってんだお前……頭でも打ったのか?」


「って、あれ? お前、しず……? 何でここにいるんだ?」


「何でじゃねえよ! いつまで寝てやがんだ。もう放課後だぞ? バイト行くんだろ? ほら、立って」


「お、おぉ」


「どうした? あたしの顔に何かついてるのか? あんまり見つめるなよ。勘違いするだろ……」


 しずが鮫浜に見えたのは気のせいか。いとこだからって似てるわけでもないし、ポニテのしずが可愛く見えてしまったぞ。ううむ、それにしても浅海だったとしたらマジで危なかったな。


 予想以上に眠りすぎたが、バイトに行くしかなさそうだ。しかし何で保健室で寝ていたんだろうな。全然記憶に無いがまぁいいか。

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