104.某お嬢様の日常すぎる日常 SS∎
とうとう湊と結ばれる時が来たのね……で、でも、どうすればいいのかさっぱり分からないわ。こういう時は男の子からキスをするのが普通って何かに書いていたわ。湊からのキスをジッと待つことにするわ。そうすれば流れでそのまま……きっと。
「み、湊っ……んっ――」
く、苦しいものなのね。こんなに男の子から求められるだなんて、どこで息を吸えばいいというの?
「――さより」
「はぅぅ……その声はわたしをどこまで弱くさせれば気が済むの……も、もっとわたしを呼んで……」
これが湊の包容力ということなのかしら。この男の子なら、わたしを……わたしの心に巣食っている後ろめたさをも、消し去ってくれるかもしれない。どうしてわたしはあんな女子たちと一緒にいたのだろう。あの時、湊のような男の子に出会えていたのなら、今とは違う気持ちのままで学園に来られたかもしれないのに。
そして彼女はわたしを見逃してはくれなかったわ。あゆはわたしの過去の過ちを誰かから聞いて知っている。いいえ、もしかしたらグループの中のリーダーのことを知っているかもしれない。それとも、あの時の綺麗な女の子と繋がりがあるかもしれない。わたしを許してはくれないのかな?
湊……わたしはグループの中にいただけなの。だけれど、一緒になってあの子を追い詰めたのは事実なの。どうか、本当のことを打ち明けても、わたしを嫌わないで……好きなの、好き。
「湊……あのね、好きなの。だ、だから――」
「――分かってるよ、さより」
これ以上は何も言うことが出来なくて、彼に抱きしめられながら安心を覚えた。覚えたのに、どうしてそんなところにいるの? ううん、いつから見ていたというの? それに、彼女……いいえ、彼を見ただけでどうしてわたしの心はざわついてしまうの?
まさか、彼がそうだというの? 初めて出会った時から感じていた違和感はこれだったんだわ。湊、湊に言わなければいけないことがこんな身近にあったなんて。そんなのあんまりだわ。
「あ、あぁぁぁ……」
「おい、さより? ど、どうした?」
「高洲君は優しかった? さより」
「……何で、どうして――」
「浅海! お前なんでいるんだよ? 何でそこに……そこは鮫浜の――」
湊の驚き方は、前々からあゆがここに来ていたことのように思えた。そこがあゆの部屋なの? そんなことあり得ないわ。どうしてあゆがいるの? いつからわたしたちを見ていたというの。彼女をライバル認定して、敵だなんて言ったけれど、わたしの言った意味とはまるで違う。違う怖さが彼女にはあるわ。
湊が驚いているのはあゆがそこにいたからじゃない。浅海さんがそこにいたことに驚いているわ。そう、そうなのね。やはり浅海さん、あなたがそうなのね。湊にはきちんと話そう。話さないと彼の心はわたしから離れて行ってしまうもの。
高洲湊君。好き、好きになった男の子。どうか、わたしのことは嫌いにならないでください。好きなの。
池谷さより ショートストーリー 完
一足先にさより編のSSは完結です。この続きは本編で明かしていきます。




