103.ダークネス ストリーム⑥
さよりにはハッキリと聞いておきたいことがある。それが何なのか分かるまではお預けにしとこう。返事にしてもキスにしてもだ。鮫浜がしてくる俺への行為やら態度も、どうしてそこまでなのかってのも知りたい。
アレが単なる好意によるものだとするなら、入江先輩の時に助けには来ていなかっただろうし、舟渡の野郎に肩を置かれたその行為だけで、あんな……動物のように舐め回すようなことはさせないはずだ。
今は流石にすっかりと痕も消えたが、所有物を意味する俺の首筋へのキス痕は、あまりに衝撃的過ぎた。あんなことをされて、俺が鮫浜を好きになるとでも思っているのか? 好きになりかけてもその度に突き放すようなことをされたら、好きになんてなりづらいというのに。俺はただ、彼女が出来て幸せになりたいだけだ。
「湊、眠ってるの? 返事を待ってるのに」
「目を開けたまま寝てたまるかよ。頭の中で思い巡らせているだけだっての! 返事は保留だ。お前……いや、さよりは俺に言わなきゃいけないことがあるはずだ。そうだろ?」
「……えっ」
「最初に言うけど、俺は浅海のダチだ。それはこれから変わることは無い。それだけだ」
「――あ、うん……そ、それはそうした方が湊にとっては大事なことだと思うわ。あなた、友達がいないのですもの」
「まぁな。さよりもだろう? でも、今は俺とも友達だ」
「友達……そ、そうね。まだ、そういう関係よね」
ただの友達じゃないけどな。なんて言いたくない。コイツのことは今すぐにでも抱きしめたい。それくらい可愛いし、好きになった。この際、残念な箇所は数年後までに成長を待つとして、それ以外はもう完璧すぎるからな。
「あ、あのね、あの……」
「あっれぇ~? 部屋を間違えてしまったのかなぁ? 高洲様、迎えに来たよ」
さよりが何かを言いかけた時、保健室に誰かが入って来たのは何となく分かった。だけど、何でコイツがこの時間にいるんだ? ヒロインにもなれなかったこの女子は、まだ俺に絡んでくるのかよ。
「ほたる? お前、何でここに……」
「え、誰? 湊の知り合いなの?」
「池谷さより? 池谷……ふぅん? そっか、狭いよね世間ってさ」
「……え?」
女子は女子だけのネットワークでもありそうだな。よくある話だが、片方だけはよく覚えているけど、もう片方は覚えていないどころか、記憶すら残していない。さよりは間違いなく、この訳の分からんほたるのことを知らないと見た。これは俺だけでは情報を得ることは厳しいな。彼に聞いてみるか。
「ほたる、お前は何しにここへ?」
「何も無いですよ。ほたるは、高洲様を迎えに来ただけなのです。言ったはずだよ? 週に二回はほたると遊んでくれるって」
「覚えてないし、俺はこう見えて忙しいんだよ」
「彼女はそうは言ってなかったけどなぁ……いや、彼かな? と、に、か、く……高洲様は罰として、裸になる! うん、決定!」
本物のサディスティック女子かよ。ある意味、鮫浜より手に負えないじゃないか。それに彼女とか彼とか、それって浅海だよな? 浅海がコイツを使ったのか。この女子はやばいだろ。
「み、湊……?」
「あーうん、俺はここにいるほたるって子と約束しちまったんだよ。遊んでやるって。だから、さよりは先に教室に戻ってていいぞ。なんせ、これから俺の裸踊りが始まるからな」
「え、でも……」
「さより、後でゆっくりと、な?」
出来ればこんな危険な女とは一緒にいさせたくないぞ。お子ちゃまなさよりには刺激が強すぎる。
「湊、あの、後でね? じゃ、じゃあ……」
「おう!」
素直に言うことを聞いてくれて良かった。何となく危険を察知したか、あるいは嫌な気配でも感じたかもしれないな。
「優しいよね、高洲様は」
「てか、何で俺のことを「様」付けで呼ぶ? お前は何なんだよ」
「ハ……? 理由は無いけど? 聞きたいなら黙ってろよクソが!」
おぉ、この言葉は初期のさより。いや、それより悪かな。浅海が頼んだにしては下品な女子だな。普段はよほどの猫かぶりらしいな。
「鮫浜あゆと池谷さより……高洲様は、どっちとヤりたいの?」
「ストレートだね。もうちょっと上品に聞いてくれると答えやすいなぁ」
「鮫浜ごときが高洲様を自分のモノにするとか、笑えるよね。池谷なんて雑魚過ぎて笑えないけど」
「お前は鮫浜を恐れてないのか?」
「何で? まぁ、よく知らないけど、偉そうに人を見下す女だし大したことないでしょ?」
むぅ。鮫浜を知っているわけじゃないらしいな。浅海に言われて動いているかと思えば、好き勝手に動いているようにも見える。しかし俺はいつから危険すぎる女子に好かれるようになったのだろうか。
「上半身裸の俺をどうするつもりかな?」
「縛られるのが好きそうだけど、どうしよっかなぁ」
はひ? おいおい本物じゃないか。嫌だよ~嫌だよ~助けて~。僕はアブノーマルじゃないよー。
「ねえ、汐見。お前はどうしたい? 高洲と鮫浜を恨んでるんだろ?」
ん? 汐見? どこかで聞いた名前だな。どこだっけ? あー! 彼か! って思い出してたら、カーテンを開けて俺を睨んでおいでです。俺じゃなくて鮫浜の笑顔でどこかに行ったんじゃなかったっけ?
「久しぶり……転校させてくれてありがとよ」
「いえいえ、どういたしまして」
「相変わらずつまらねえ野郎だ。気に入らない……さよりさんにあんなことをしておいて、鮫浜にも手を出してるとか、高洲! お前どこまで鬼畜野郎なんだよ!」
「うーん? あんなこともそんなこともしてないんだが、キミは何かのビデオの見過ぎなのでは?」
なるほど。名前を与えられただけあって、彼はここで出てくるわけですね。汐見潮、綺麗さっぱり忘れてしまっていた。
もしや俺はピンチかな? こういう時に鮫浜が出てきて闇に葬ってくれれば惚れるのにな。
「何故彼がほたるに?」
「西下に転校してきた時に知り合った。で、そのまま下僕にした」
これまた本物の下僕くんじゃないか! すごいぞ。尊敬しちゃう。しかし今さら出て来られても面白みがないし、ほたるの存在意義も感じられないわけだが、俺はどうすれば危機を脱することが出来るのか。
「とりあえず縄」
「ひぃっ! やめてー体に傷つけられたら誰かが泣いてしまうんだぞ? いいのか?」
「ほたるは傷アリの高洲様の方が好きだよ?」
「あーくそっ、弱くてごめんなさい」
これは初めましてな状態だ。鮫浜の謎な力で転校していった汐見が俺を押さえ付けて、ほたるが縄で俺に何かをしようとしている。これはやばいぞ。誰かヘルプミー!




