17 幸せの青い鳥
第五章の最終回です!
そうして、婚約発表の晩餐会は大盛況のうちに幕を閉じました。
まるで一夜の絢爛な夢をみんなで見ていたような、そんな夜会となりました。
王様も王妃様もこの晩餐会の成功をとても喜びになって、私は少々歪な出来ながらも、婚約者としてのお務めを全力で果たしたのでした。
「あう~、いたたた……」
私は慣れないヒールで踊り続けたので、両足が靴擦れで腫れ上がってしまいました。
晩餐会に参加していたリフルお姉様はドレス姿のまま、宮廷の客室で治癒をしてくださっています。私も豪華なドレス姿のまま、オットマンに載せた裸足の足が青く光っていて、なんだかマヌケです。
「ルナ。とても立派な婚約発表だったわ。あんなに素敵なレディとしてみんなの前に堂々と立って。私は姉として誇らしかったわ」
私はやはり、リフルお姉様にお褒めいただけると嬉しくて、デレデレになってしまいます。
「ふへへ……私もお姉様に見守っていただけて嬉しいです」
「それに、あのダンスは本当に素晴らしかった。ルナの愛が大きく輝いて、みんなにそれが伝わったのよ」
私たち姉妹から距離をとって、王子様は壁際で姿勢を正してお話を伺っています。リフルお姉様の前ではいつも緊張の面持ちです。
私の両足の靴擦れはすっかり治って、お姉様は立ち上がりました。そして壁際の王子様を振り返ると、美しい淑女の礼をなさいました。
「アンディ王子殿下。このたびはご婚約おめでとうございます。私の大切な妹であるルナを、どうかよろしくお願いします」
王子様も私も驚いて、目を見開きました。リフルお姉様がこのような丁寧なお言葉を王子様にかけるのは、初めてのことです。
王子様はビシッと踵を揃えて、軍隊のように敬礼をしました。
「全力を以ってルナさんを幸せにします。どうかご安心ください、義姉上様」
お二人はしばらくの間見つめ合い……いえ、もしかしたらリフルお姉様は王子様を睨んでらっしゃるのかもしれませんが……。
「では……。夜も遅いので、今日は失礼します。ルナ、おやすみなさい」
「お、おやすみなさい! リフルお姉様!」
迎えに来たギディオン騎士団長とリフルお姉様が馬車で帰るのを見送ると、私たちはお部屋に戻りました。
ドアを閉めた途端に、王子様は「は~……」と息を吐いてしゃがみ込みました。
「怖かった……今までで一番強い眼力だったぞ」
やっぱりお姉様は王子様を無言で脅迫していたようです。
「お姉様は心配性ですから……でもきっと、王子様を認めてくださったのだと思います」
「義姉上様の逆鱗に触れないように、俺はもっと大きな愛を輝かせないとだな」
王子様は立ち上がると、私の腰と頬に手を添えて、優しくキスをなさいました。
「……」
一度見つめ合った後にさらに体を密着させると二度、三度とキスを重ねて、私はいつもと違う熱い呼吸に目眩がしました。さらに王子様は、私の耳元でおっしゃったのです。
「あのダンスの後、本当はキスがしたくてたまらなかった」
甘く掠れたお声に私は辛抱たまらずショートして、真後ろに向かってひっくり返りました。
今夜のキスはちょっとエッチ……い、いえ、熱すぎたので!
豪華なドレスを脱いで湯浴みをして、着替えたネグリジェはなんて心地がよいのでしょう。私はやっぱり、このネグリジェが大好きです。
バカでか枕を抱えたら、キングサイズベッドに登ります。
王子様はちょっと照れたお顔をして、パジャマ姿で隣にいらっしゃいました。
今夜も夢使いは王子様と添い寝をします。
「俺の煩悩が暴走しないように、ルナが見張ってくれ」
「な、何言ってるんですか~。今日はしっかりイメージが固まってるから大丈夫ですよ」
王子様はまた煩悩から温泉が出てしまうのを心配してらっしゃるのでしょうか。恥ずかしそうなお顔が可愛らしいです。
「……今日はどんな夢?」
「それは見てのお楽しみです」
私たちは手を繋いで目を瞑りました。
「「おやすみなさい」」
「……ふごっ」
ええ。晩餐会のダンスで疲れていたので、寝入りは一瞬でした。
王子様と私は、広々とした芝生の上にいます。
大空には白い雲。そして美しい鳥が沢山飛んでいます。
「おお……大きい!」
王子様はその鳥たちの大きさに驚きました。
そうです。人が乗れるほど大きな鳥たちの楽園です!
オリビア様に見せていただいた南国の鳥の羽根と図鑑の情報を擦り合わせて、リアルな鳥を再現しました。
王子様は赤や黄色や緑のカラフルな鳥たちと戯≪じゃ≫れあって、もふもふを堪能しています。
「うわあ、ふわふわして気持ちいいな。本物の羽毛だ」
「さあ、王子様。どの色の鳥に乗りますか? 大空をお散歩しましょう」
「そうだな。こいつにしよう。青い鳥」
私たちは背をかがめた青い鳥に跨って、上空に舞いました。
燦々と輝く太陽に、爽やかな風。
眼下に広がる景色は芝生から森へ、森から河川へ、そして海へと景色を変えていきます。
夢使いの夢に慣れているはずの王子様は、まるで初めて夢を見たみたいに感激されました。
「ルナ! 完全に空を飛んでいるぞ! あはは、これは現実じゃないのか!?」
「うふふ、もちろん夢ですよ! ご覧ください、これがグレンナイト王国の全貌です!」
青い鳥はさらに高度を上げて、街を、王都を、深い森を俯瞰≪ふかん≫しました。
「嘘だろ? どうなってんだ!」
「私があらゆる地図に描かれた王国の地形を覚えて、辺境の旅で見た景色と合成したのです。私はこの王国のすべてを王子様にお見せしたかったのです」
「……なんて美しい景色なんだ」
「はい。グレンナイト王国は素敵な国ですね」
そこからは、二人とも眼下の景色に魅入って無言になりました。王子様は後ろから私をギュッと抱き締めてくださいます。だからどんなに高い空でも、私は怖くありませんでした。
この美しい王国を、王子様と私で永遠にお守りするのです。
みんなの未来が平和で楽しくありますように……と願いを乗せて、幸せの青い鳥は大空を飛んでいきました。
第五章 おわり
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