11 妖精のいたずら
翌朝、朝食の席で……。
私は皆様に騒動のお詫びをして、お恥ずかしながら〝婚約指輪紛失事件〟の経緯をお伝えしました。
皆様はこの別荘に妖精が現れたことに、そして私たちが崖から温泉に転落したことに驚き、執事のセドリックさんに至ってはショックを受けて腰を抜かしてしまいました。別荘地で王子様が転落するなんて、大変なことですもんね……平謝りするしかありません。
「ドジ・ルナ・マーリン。地形も知らないくせに深夜の森に行くとか、バカなの?」
ノアさんのストレートなお叱りに小さくなるばかりです。
「すすす、すみません」
隣に座っている王子様はそれとなく私の頭を撫でて慰めてくださいました。ノアさんは続けます。
「妖精が妄想じゃなかったのは認めるけどさ。皆に隠して一人で探すなんて、僕たちを信頼してないの?」
うぐっ、核心を突かれました。皆さんに相談したら王子様にバラされると思ってしまって……。
「もちろん僕はアンディにチクるけど、指輪は全力で探すよ?」
うっ、やっぱりチクるんですね。でも心強いお言葉です。
クロードさんは思い出したように会話に参加しました。
「そういえば以前、アンディも体術の訓練中にチェーンが切れて、婚約指輪をなくして慌てていたな」
驚く私に、王子様はおっしゃいました。
「その時は剣術部のみんなが床に這いつくばって、探してくれたんだ。無事に見つかってありがたかったよ」
「そ、そうだったんですね」
「物をなくすのは誰でもあることだから、今後は一人で抱えず周りを頼るんだよ」
悟すように王子様に言われて、私は改めて自分が秘密主義であると自覚しました。特に都合の悪いことは他人にバレないよう、いつもひた隠しにしてしまいます。コソ泥みたいな習性です。
あ、王子妃教育でエレガント先生がおっしゃっていた「コソコソとコソ泥みたいな」というのはこういうことですね! マナーは内面を映す鏡であると、私はこの旅中で悟ったのでした。
「今後はコソ泥令嬢にならないよう、がんばります!」
皆さんは私の宣言に腑に落ちないお顔ですが、頷いてくださいました。
騎士団が新しい荷物を次々と馬車に運んで、後半の旅への出発準備が整いました。
私はお世話になった別荘を振り返って、ギュッと詰まったこの二日間を思い出しました。
ビーチコーミングに、海鮮食べ放題、絶景の温泉にジビエ料理……そして願望だった妖精にも会えたのですから、最高のバケーションでした。
隣には王子様がいて、私の手を握っています。
明け方に添い寝で見た夢を、王子様もきっと思い出しているに違いありません。
昨夜の転落事故の後にお部屋に戻った私は、王子様による厳しいお叱りを受けました。でも王子様はお説教の後で、私の無事を感謝しながら優しく抱き締めてくださったのです。温かく大きな愛です。
王子様の愛に包まれたまま見た夢は、それはそれは素敵な夢でした。
私たちは光り輝く妖精たちに囲まれて、二人で手を取り合って踊っていました。深い森の月明かりの下のダンス。どんな本でも読んだことのない、ロマンチックな光景でした。
私と王子様は秘密を共有するように、微笑み合いました。
お世話になった執事のセドリックさんを始め、使用人の方々に大きく手を振って、王子様と騎士団一行は別荘を出発しました。
行きの馬車と同じように、隣には王子様がいて、正面にはノアさんとクロードさんがいます。
「ルナ。嬉しそうだな。何を抱えているんだ?」
「エヘヘ。別荘のシェフが馬車の中で食べるお菓子を作ってくださったんですよ!」
私は膝の上に、どっしりと重たい布包みを抱えています。
キアランが鼻をクンクンとさせているので、出発早々ですが、私は布包みを開けてみました。
「な、なんですかこれはーー!」
私は包みの中を見て、絶叫しました。
そこにはクッキーやケーキが入っているはずなのに、ゴロゴロと小石や葉っぱが詰め込まれていたのです。
戦慄く私の横で、王子様は小さく吹き出しました。
「やられたな、ルナ。妖精のいたずらだ」
指輪のありかを教えてくれた妖精は良い珍獣かと思いましたが、やっぱり手癖の悪い、いたずら好きだったのです!
第五章の旅編はここまでです。次回は次の週末に更新予定!
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9月10日に書籍2巻が発売されました!コミカライズ企画も進行中。お楽しみに!




