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【書籍化コミカライズ】夢見る聖女は王子様の添い寝係に選ばれました  作者: 石丸める@「夢見る聖女」発売中
第五章

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9 深夜の妖精狩り

 妖精は時折現れては、私が近づくと一瞬で消えてしまいます。

 そんな追いかけっこをしているうちに、お夕食の時間となり、湯浴みの時間となり、就寝の時間となり……。

 結局、妖精を捕まえることも、指輪を見つけることもできなかったのでした。


「これはもう、徹夜で探すしかありませんね。キアラン、頼みますよ」


 私がベッドの前で独り言を呟いていると、王子様が後ろから私の両肩に触れました。


「ルナ。一日中網を振り回して、気が済んだか?」

「は、はい。それはもう、いろんな虫が見られましたから……」


 王子様が心配されるので、妖精に指輪を盗まれたなどと言えません。


「じゃあ明日の出発に備えて、今日はゆっくり眠るんだぞ?」

「は、はい。それはもちろん、ぐっすりと……」


 王子様は何やら落ち着かない私を心配しているのでしょう。ベッドに横になると、繋いだ手に、おでこに、唇にキスをくださいました。

 はうぅ、優しいふれあいです。


「おやすみなさい。王子様」

「おやすみ、ルナ」


「……」


 王子様が静かな寝息を立てる頃、私の眼はギン! と開かれました。

 ぐっすり眠るなんて、嘘を吐きました……。私は一緒に眠ったふりをして、王子様が眠るのを待っていたのです。この温もりが恋しいですが、心を鬼にして、繋いだ手を離しました。


 うん。王子様は天使のお顔でお休みになっています。

 私はしゃがんでベッドの下を覗き込みました。

 真っ暗な闇の中に、金色の光が二つ見えます。


「キアラン。出てきて大丈夫ですよ」


 あらかじめベッドの下に忍ばせていたキアランを呼びました。

 私はネグリジェにガウンを羽織ると、網と虫籠を装備し、キアランと共にこっそりと、寝室から抜け出しました。


「キアラン。お昼間に夢でお話しした通りにお願いします」

「クウン」


 小さな明かりを頼りに深夜の廊下を進むと、護衛の騎士の背中が見えました。申し訳ないのですが、少しの間眠っていただきます。

 キアランが目を瞑ると騎士は大きな欠伸をして、そのままズルズルと壁にもたれて居眠りをしてしまいました。キアランが帰路の夢から騎士を眠りに堕としたのです。

 この方法で私とキアランは次々と護衛や門番を眠らせて、誰にも知られずに屋敷の外に出ることができました。


「キアランはすごいですね! 一流の泥棒になれますよ」

「キュン」


 私は妖精を捕らえるための網を改めて握りました。キアランは私が屋敷に戻るまで、眠った門番たちが起きないよう見張る役目があるので、門に置いて行きます。


「それではキアラン。私は庭や森に妖精を探しに行きます」

「キューン」


 寂しそうなキアランと別れていざ、庭に向かいました。

 屋敷の中に妖精は現れなかったので、夜はきっと森にいるのでしょう。なんとしてでも明け方までに妖精を捕まえて、婚約指輪を返してもらわなければなりません。

 私は網の素振りをしながら庭を抜け、森に近づきました。

 ここは領地の端とはいえ別荘の敷地内なので、危ない動物などはいないはずです。それでも暗い森に臆して入り口で立ち止まっていると……。


「あっ! 妖精がいた!」


 森の中にあの小さなキラキラが……羽をはばたかせる妖精が宙に浮いていたのです!

 私は一心不乱に網を振って、追いかけました。


「待ってください! 指輪を返してください! い、いたずらは良くないですよ!」


 互いに会話が通じないようで、妖精は私から逃げるように飛んでは現れ、消えては現れ。私は闇雲に網を振りかぶりました。


「このっ、すばしっこい……」


 その時です。

 踏み込んだ足が宙を掻き、私は網を構えたまま大きく前方に重心を崩したのです。


「きゃっ!?」


 崖です! 私は無我夢中で森を爆走するうちに崖の先端に到達し、暗闇の中で足場を踏み抜いてしまったのです。


「きゃーー!!」


 体が完全に宙に放り出されて、私の頭に死の恐怖が過りました。

 なんてマヌケな、なんて無様な事故でしょうか!

 深夜に一人で網と籠を持って転落するというミステリーみたいな死に方なんて、そんなの嫌です!


 と、その時です!

 ガシィッ! と、私の腕を力強く掴む手が現れたのです!

 その手は私を引き寄せ、胸に抱き……でも、崖は崩れて二人とも転落していきました!


「王子様!」


 私にはすぐにわかりました。この逞しい胸と良い香りは、王子様です! どうしてここに!? いえ、そんな場合ではありません。私たちは抱き合ったまま、崖下に向かって落下しているのですから!


 バキバキバキ! と枝が折れ、葉が擦れる音は、途端に止みました。

 私たちは遮断された球体の中に守られていたのです。


「盾の力!」


 でも、落下は止まりません。球体の防御壁は私たちを内包したまま、崖下の地面に落下しました。


 バッシャーーン!

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