7 内緒の捜索
私は自分の首や胸を、何度も探りました。いつもはこの首に掛けたチェーンに指輪がついてるはずなのですが、チェーンごとない!
私が「あわあわ」と全身を探って慌てているので、王子様は訝しげに見下ろしました。
「ルナ? どうしたんだ?」
「い、いいえ、何でもありません! ちょっと服に砂が入ってしまって……」
まさか婚約指輪をなくしただなんて、王子様に言えるはずがありません。あんな高級な宝石のついた純金の……いいえ、それ以上に、王子様と私にとって大切な婚約の証である指輪です。王子様には口が裂けても言えません!
朝起きた時には、あったはずなのです。侍女のサラさんにドレッサーの前でつけていただいたのを覚えています。でもそれからの記憶は……自分で外した覚えがありません。もしかして、どこかでチェーンが切れて落としてしまったのでしょうか? だとしたら、いったいどこに?
私はサラさんの顔を見ました。サラさんにこのことをお話ししたら、きっと王子様にお伝えするでしょう。ノアさん、クロードさん、オリビア様……どなたに相談しても王子様にバレてしまいそうです。
「ルナ様。砂のついたお洋服をお着替えしましょう」
サラさんがお部屋に誘導してくださったので、私は改めて冷静に考えました。もしかしたら、この屋敷の中で落としたのかもしれません。まずは自分の部屋から探せば、どこかで見つかるかも……と。私はこの婚約指輪を一人で探して見つけ出すと、決意したのです。
「ルナ様? 何かお探しですか?」
ギクゥ! サラさんは鋭いです!
着替えもそこそこに私が部屋の中でウロウロしているので、サラさんは何かを疑っています。確かにクッションを持ち上げたり、ベッドの下を覗いたり、挙動が怪しいですもんね。私は咄嗟に誤魔化しました。
「いや~、この辺には珍しい昆虫もいっぱいいますからね。室内にも見たことのないダニがいるかもしれません」
「ダニなんかいませんよ。掃除は徹底していますから」
その通りでございます。虫どころか埃一つ落ちていませんから。
でもサラさんは私の奇行に慣れてらっしゃるので、お茶を用意する間も探し回る自分を放っておいてくれました。
「でも、ない……!」
広い部屋の捜索に励みましたが、婚約指輪は見つかりませんでした。
天を仰ぐ私に、サラさんは改めて問いました。
「ルナ様。やっぱり何かなくされたのではないですか?」
「な、何でもありませんよ。そうだ、お夕食の時間まで、私はこの別荘を探索しようと思います」
「珍しいダニなんて、いないと思いますよ?」
「わ、わかってますよ。でも明日の朝には私たちは別荘を出発してしまいますから、スケッチブックに記録を残すのです!」
そうです。私たち王子様と騎士団の一行は明日の朝にはここを出発して、内陸の辺境の村へと向かうのです。だから婚約指輪を探すには、今夜いっぱいしかないのです!
私はスケッチブックを持って、廊下に飛び出しました。
屋敷の隅々まで探すしかありません。自分が訪れた場所を遡っていくことにしました!
「夢使いの聖女ルナ様! どうされました?」
「ルナ様! 私どもがお手伝いいたします!」
この別荘にはリビングにも玄関にも食堂にも沢山の使用人たちがいて、挙動不審な私を心配してお声をかけてくださいます。
「あ、いやぁ、夢の参考に珍しいものをスケッチしてるだけで……」
「まぁ! 旅でお疲れでしょうに、なんてお勉強熱心なんでしょう。さすが救国の聖女様ですわ!」
嘘吐きな私の評価が上がってしまい、心苦しいばかりです。救国の聖女様だなんて、もったいないお言葉です。私はただのドジな落ちこぼれ聖女でございます! と、自己評価がダダ下がるばかりです。
それにしても、チェーンも婚約指輪も見つかりません。
ひょっとして、落としたのは別荘の外なのでしょうか?
私は蒼白になりました。今日、外出した先といえば……あの広大な白い砂浜。海辺です! あんな広いところで落としていたとしたら、到底見つけられるとは思えません。
私は絶望で足がよろけて、リビングにある豪華なチェストにもたれかかりました。
するとその時……。
「!」
目前にあるお花のランプの下に、キラキラと光る丸い明かりが浮いていたのです。それはよく見ると、小さな人の形をしていて、背中に蝶々のような羽根をつけていました。
「う、うわー! で、出た!」




