表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化コミカライズ】夢見る聖女は王子様の添い寝係に選ばれました  作者: 石丸める@「夢見る聖女」発売中
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/91

29 キアランのご主人様

 私と王子様とキアランは、ポカポカの芝生の上でお昼寝をしました。


「ふごっ……」



 そしてここは……白と黒の世界。キアランの岐路の夢です。


「これが岐路なのか。なんて景色だ」


 王子様は放射状に広がる無数の道に圧倒されています。

 キアランは私に抱っこされたまま言いました。


「いろんな人の夢に繋がってるよ」


 王子様は驚いて仰け反りました。


「うわ、 犬が喋った! って、夢の中では喋るのか……」

「王子様。犬ではないですよ。珍獣です。フェンリルですから」


 ユニコーンやドラゴンなど、珍獣には様々な力があった、とされています。

 フェンリルであるキアランには私と同じ夢使いの力がありますが、人々の精神に介入する「岐路の夢」という特殊な力です。

 王子様は無数の道を見渡しながら、キアランに聞きました。


「キアラン。お前のご主人様はどうなった?」


 王子様の質問に、キアランは無垢な声で返しました。


「死んじゃった」


 今度は私が驚きました。


「え!? し、死んじゃった!?」


 代わりに王子様が応えました。


「昨晩のサーカス団の逮捕時に、最後まで抵抗した奴が一人、応戦の末に死んだんだ。そいつがキアランを閉じ込めて虐待していた当人だったようだ」


 キアランが続けました。


「僕とご主人様だった奴との契約は切れたんだ。だから僕はルナと契約を結ぶことができたの」

「け、契約って、なんなんですか??」


 やはりあのラベンダーの夢の中で、キアランの瞳の色が黒から金色に変わったのは、意味があったようです。


「僕の目は飼い主の色を映すから。ルナの髪と同じ金色になったよ。ルナは飼い主だから、僕はルナの言うことを聞くよ」

「か、飼い主だなんて。友達と言ったじゃないですか」


 キアランは少し考えて「ともだち」と呟きました。意味がまだわからないようです。

 王子様は私からキアランを取って、抱き上げました。


「キアランよ。お前を縛っていたご主人様は、エンバドルの王族たちに(あだ)をなすなと(しつ)けていただろう?」

「うん。僕はエンバドル王国に(きば)()かないと約束した」

「でも主は死んで、お前は何の(かせ)もないわけだ」


 私は王子様の悪巧(わるだく)みに、ピンときました。


「王子様? もしかして……岐路を使ってエンバドル王の夢に侵入し、悪さをするおつもりですか?」

「ご名答。二度と人の国や物を盗もうなんて考えられなくなるような、とんでもない悪夢を見せてやろうぜ」


 王子様の妖艶にして悪いお顔に、私の背中はゾクゾクゾク、と震えました。

 私の中の悪い部分が増長するみたいに、あらゆる悪夢のイメージが湧きます。


「ふひひ……王子様は悪いことを企みますね。ついでにエンバドル王が二度と珍獣に手出しできないよう、とんでもないトラウマを植え付けちゃいましょうか」


 王子様と私の悪代官みたいな顔を見比べて、キアランは楽しそうに笑いました。


「精神世界の侵略返しだね? 僕とルナの力を合わせたら、エンバドル王の所まで行って、無理やり意識を落とせるよ」

「よっしゃ! ルナ。とっておきの悪夢を見せてやれ」

「お任せください、王子様!」


 私たちはキアランの指す方向に、岐路の道を飛びました。

 グングンとすごい速さでエンバドルの国境を越え、王城に侵入し、ついには王座にいる王の意識まで辿り着いたのです。

 グレンナイト王国への精神攻撃が失敗に終わり、エンバドル王は家臣たちに怒鳴り散らしている最中でした。成金みたいに豪華に飾り立てた、人相の悪い王様です。


 ガクン!

 エンバドル王は突然白目を剥いて意識を失うと、その場に倒れました。

 強制的に私の夢の中に堕とされたのです。


「ひっ? ぎゃあああーーー!!」


 エンバドル王の、とんでもない絶叫が響き渡りました。


 王子様もキアランもドン引きするような、私の悪趣味を極めた悪夢でございます。

 想像力というのは、美しさや、可愛いさだけを(きた)えているわけではありません。むしろ恐ろしく(おぞま)しいもののリアルな質感や音や世界観の構築こそが、夢使いの腕の見せ所でございます。


 で、エンバドル王にどんな悪夢を見せたのかって?

 それは私めの秘密のレシピでございますので、お見せすることはできません。


 夢使いの、守秘義務ですから!


次話で第四章の最終回です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ