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【書籍化コミカライズ】夢見る聖女は王子様の添い寝係に選ばれました  作者: 石丸める@「夢見る聖女」発売中
第四章

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25 我らは野蛮人

 ヒュン!!


 風を斬る大きな音が鳴って、王子様の振った剣先から届くはずのない距離に向かって、青白い光の線が放たれました。それは私の指示通りに、群衆の端から端までを、綺麗に真っ二つに切り裂いたのです。

 寸前に危険を察知して空に飛んだキアラさんだけが、切断から免れました。


「剣盾の剣!!」


 叫んだのはノアさんでした。

 そう。これは王族の力である剣盾の、剣の力です。空を裂き、大地を割るという伝説の剣。王子様は数時間前、私を助けるために部屋の扉を壊す際に、この剣の力が現れたのです。


 真っ二つに斬られた群衆は、全員が地面に崩れ落ちました。そしてそこから逃げるように、取り憑いていた悪魔たちが一斉に空に飛び退きました。

 その現象に、騎士団もキアラさんも「あっ」と声を上げました。


 王族の剣の力は、王族しか知らない秘密があったのです。

 かのグレンナイト王国を建国した伝説の騎士王は、心優しい騎士でした。空を裂く剣と、幾千の矢を防ぐ盾。だけどその剣は、無生物しか斬らない、という特性があるのです。敵の鎧も武器も盾も、要塞さえも斬り裂く。だけど命ある生物を斬らず、戦力だけを奪う力なのです。「悪魔を命ある生物と見做(みな)さない」という、エヴァン王太子殿下の予見は当たっていました。悪魔は斬られる衝撃を受けて、取り付いた人間たちから慌てて逃げ出したのです。


「打てーー!! 一匹残らず、悪魔を殲滅しろ!!」


 私の怒号に従って、騎士たちは勇猛に飛び出して、放たれた悪魔たちをバカでかハンマーで潰しにかかりました。羽を持つ悪魔、爪を持つ悪魔、大きな、小さな悪魔たち。様々な悪魔が散り散りとなって逃げますが、騎士団の動きは早いです。ドン、ドオン! という悪魔を潰す轟音が彼方此方で鳴り響いて、合間に恐ろしい怒声が聞こえます。


「うらあ!」「逃すか!!」「6、7匹目ぇ!!」


 競い合う野蛮な悪魔狩りに、キアラさんは唖然として立ちすくみました。


「な、なんて粗野な……グレンナイトの騎士は野蛮人なの!?」


 キアラさんの悲鳴の後ろに、私は立ちました。


「キアラさんに言われたくないですね」


 キアラさんは反射的に振り返り、さらに私の前にすかさず入った王子様を恐れて、後ろに退きました。


「おい。俺の剣にビビってるのか? 心配するなよ。生き物は斬らないんだからさ」


 王子様のギラギラとした目の挑発に、キアラさんは青ざめています。


「王子なのにまるで山賊だ」

「失礼だな」


 私はキアラさんに問いかけました。


「キアラさん。私は初めから違和感があったのですよ。あなたのその外見と中身には、激しくギャップがあるって」

「な、なにを言ってるの? ルナ。酷いよ、こんな暴力的な……僕はルナのこと……」

「私はキアラさんに怒っているのですよ。お友達のコリンナさんを捕らえたこと。王子様を殺そうとしたこと。そして王国の民を人質にしたことを」

「う……」


 私は王子様に再び指示をしました。


「斬ってください。キアラさんを真っ二つに」

「御意」


 キアラさんは血相を変えて逃げました。が、王子様は俊足で追いかけます。一振り、二振り、とキアラさんはかろうじて剣の軌道を避けながら、たまらず巨大な岩を出現させて、王子様に投げつけました。剣はまるでジャガイモを斬るみたいに簡単に巨岩を賽の目に刻み、さらにキアラさんは黒い剣を出して応戦しましたが、それも真っ二つに斬られました。


「ひっ!?」

「無駄だ。生き物以外は全て刻む」


 ザン、と音を立ててキアラさんの長い髪が斬られ、服が斬れ、そして遂に。


「ルナ、助けてー!!」


 可哀想な悲鳴とともに、キアラさんは真っ二つに斬られました。


「ギャン!」


 痛ましい悲鳴の後、キアラさんの体は二つに別れました。

 長い黒髪の悪魔と、黒くて小さな獣に。

 獣は地面に力なく落ちて、黒髪の悪魔は慌てて上空に逃げました。


「今だ!!」


 私はバカでかハンマーを振りかぶって空中に飛び出して、黒髪の悪魔をフルスイングで殴りつけました。


「グアッ! ギャア!!」


 ドン、ドオン!と無言で地面に叩き続けて、黒髪の悪魔はひしゃげて形を失いました。焦げ跡になって、地面から消えていきます。

 私は肩で息をしながら、キアラさんの半身を振り返りました。

 王子様は唖然として、地面に倒れている黒い獣を見下ろしています。


「犬……なのか?」


 生き物なので斬られずにすんだ獣は、小さく鳴きました。


「キューン……」


 私はその犬のような生き物のもとに跪きました。


「これはフェンリルと呼ばれる珍獣の子供ですよ。私はずっと、キアラさんの外見は美青年なのに、中身が子犬に見えて仕方がなかったのです。あの黒髪の悪魔は人を惑わすために容姿を偽る力を使って、フェンリルを人間の姿に見せていたんだと思います」


 フェンリルの泣いてるみたいに潤んだ黒い瞳に、私は哀しくなりました。


「深い森の中で人間に捕まって、エンバドル王国の刺客として利用されたのでしょう。人間に棲む場所を奪われ、運命まで奪われるなんて、可哀想でしたね……」


 私がそっとフェンリルの頭を撫でると、フェンリルは小さな声で呟きました。


「僕を助けて……ルナ」

「あなたの体はいったい、王都のどこにあるのですか?」

「僕は檻の中で鎖に繋がれて……テントの中にいるんだ……」


 その言葉で、王子様はすぐに居場所がわかったようです。


「サーカス団か。お前はサーカスの巡回で連れ回されて、この国に入国したんだな」

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